奇跡まであと一歩

文字の大きさ
1 / 21
実 version

しおりを挟む
練習終了のホイッスルが校庭に鳴り響いた。

時間は午後五時。

いつもより早い終了なのは、明日から春休みに入るからだ。

加えて、那岐高校の慣習として長期休暇の初日の部活動は休みになっている。

それはもちろんサッカー部も例外ではなく、そこかしこで歓声が上がっていた。

篠崎実(シノザキミノル)は着ていたTシャツで額の汗を拭きながら、明日の休みの事を考えていた。

ここのところ部活三昧の毎日で、双子の兄、篠崎誠(マコト)とすれ違いの日々が続いていたのだ。

ただでさえ誠とは通う学校が違う。

この機会に少しでも誠との距離を縮めておきたかった。

「篠崎!」

一人、他の一年生とは別メニューの練習をしていた実の元に、小走りでやってきたのは本間靖之(ホンマヤスユキ)。

一年生のチームリーダーで、次期主将候補の男だ。

何かとまとわりついてくるので、実としては鬱陶しくて仕方ない。

「なぁなぁ、明日、暇?
暇なら映画でも行かねぇ?
チケット、もらったんだ!」

「…………本間、顔、赤ぇぞ? 熱あんじゃねぇの?」


顔を赤らめて、些か興奮気味にまくしたてる靖之を一瞥した実は、見たままを口にした。

「ぅおっ! 何? 心配してくれてんの? 嬉しいなぁっ、」

後片付けをしている最中も、靖之はそんな調子で実のそばを離れようとしないので、いい加減うんざりしていた。

そんな実のうんざり感に、更に追い打ちをかけたのは、シャワールームに置かれたボディーソープである。

那岐高サッカー部と言えば、全国大会の常連校。

活躍している部活動の設備は充実しているが、消耗品は各自の持ち寄りだ。

ボディーソープも誰かが持ってきたモノを使っている。

「誰だよ、こんなの持ってきたヤツはっ!!」

女物の、甘ったるい匂いのするソープだった。

「あ、俺ぇ。姉貴が歳暮に持ってきたけど、家じゃ誰も使わねぇからさぁ!」

ギャハハと笑ったのは島田徹也(シマダテツヤ)だ。

実とはクラスが違うし、あまり接点もないのでよく知らないが、お調子者で通っているらしい。

実は身体中にまとわりつく甘ったるい匂いに顔をしかめながら、シャワーを切り上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...