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実 version
公園と遊園地
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──翌日。
眠れぬ夜を過ごした実が、腫れぼったい目をこすりながら居間に降りてくると、キッチンではすでに誠が朝食の準備中だった。
「おはよう、実。…大丈夫か?」
こちらに気づいた誠が声をかけてくるが、実は頷いただけで、まともに挨拶する事ができなかった。
そのまま逃げるように、洗面所に行って顔を洗う。
冷たい水が、腫れた顔に心地いい。
「…ふうっ、」
濡れた顔を上げると、鏡の中に不機嫌そうな誠の顔がある。
「…ま、まぁちゃん…。」
「元気無いみたいだけど、どうかした?」
心配してくれるのは有り難いが、今はほっておいて欲しかった。
実は黙ったまま、誠の横を通り抜け、日課のジョギングに出るために玄関に向かった。
靴を履いて、ちらりと振り返る。
誠の姿は、ない。
自分で誠を無視するような態度を取っておいて、追いかけて来てくれる事を期待する、など、我ながら虫が良すぎて、もう重症だと実は思う。
「…行ってきます。」
小さな声で呟いて、実は静かに玄関の戸を閉めた。
ジョギングから戻った実は、シャワーを浴びて冷たいスポーツドリンクを飲む。
少しだけ気分が浮上して、居間のソファに腰を落ち着けると、呆れたような莉奈の視線と出合った。
「…何だよ。」
昨夜の事もあり、居心地の悪さを感じて、実は苛立つ。
「べっつにぃ~。」
「…まぁちゃ…誠は?」
先程あんな態度をとっておきながら、結局、実が探すのは誠の姿だ。
「…もう、出かけたわよ。『俺の歩みは亀だから』ってねぇ。」
誠は、幼い頃の交通事故が元で右膝が悪い。
それもあって、極端に行動範囲が狭いのだ。
通う学校も徒歩圏内ならば、買い物も近くの商店街。
唯一と言える遠出が、駅二つ向こうの『辻堂医院』。
時間は午前八時。
そんな誠が春休み初日の今日、普段より早く家を出るなんて。
実はあわてて自室に飛び込み、ジーンズを履いてシャツの上にブルゾンを羽織った。
それから滅多にかぶらない野球帽を深くかぶり、携帯電話と財布をポケットにねじ込んで部屋を飛び出した。
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「おはよう、実。…大丈夫か?」
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そのまま逃げるように、洗面所に行って顔を洗う。
冷たい水が、腫れた顔に心地いい。
「…ふうっ、」
濡れた顔を上げると、鏡の中に不機嫌そうな誠の顔がある。
「…ま、まぁちゃん…。」
「元気無いみたいだけど、どうかした?」
心配してくれるのは有り難いが、今はほっておいて欲しかった。
実は黙ったまま、誠の横を通り抜け、日課のジョギングに出るために玄関に向かった。
靴を履いて、ちらりと振り返る。
誠の姿は、ない。
自分で誠を無視するような態度を取っておいて、追いかけて来てくれる事を期待する、など、我ながら虫が良すぎて、もう重症だと実は思う。
「…行ってきます。」
小さな声で呟いて、実は静かに玄関の戸を閉めた。
ジョギングから戻った実は、シャワーを浴びて冷たいスポーツドリンクを飲む。
少しだけ気分が浮上して、居間のソファに腰を落ち着けると、呆れたような莉奈の視線と出合った。
「…何だよ。」
昨夜の事もあり、居心地の悪さを感じて、実は苛立つ。
「べっつにぃ~。」
「…まぁちゃ…誠は?」
先程あんな態度をとっておきながら、結局、実が探すのは誠の姿だ。
「…もう、出かけたわよ。『俺の歩みは亀だから』ってねぇ。」
誠は、幼い頃の交通事故が元で右膝が悪い。
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