(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

奏直

文字の大きさ
59 / 215

イオの誕生日について③ ハル視点

しおりを挟む
思わず抱きしめた俺の腕の中でイオが泣いている…

「約束したのに…何で…」

とっさに抱きしめたから嫌がられても仕方なかったのに俺の腕の中でイオは泣いた…

「それからも大切にしたい方達は私との約束を守って下さらないんです……私は約束なんて嫌いです……」

それはイオの悲痛な叫びだった。
どうして俺はイオと約束したんだろう…今更後悔しても遅いのは分かっているそれでも…いつか俺もイオとの約束を破らなければならない…。
俺は何も言えずただイオが落ち着くのを待った。
今の俺ではイオを支える事も、頼ってもらう事も出来ないから…今はただ側で勝手に守るだけだ…

「…っく…っひっく…」

落ち着かせたくて背中をポンポンと優しく叩き宥める。
それにしてもイオは今まで誕生日の度にこんな思いをしてきたのだろうか…1人でずっと?ただ耐えてきたのか?
俺はイオの事情を聞いたから、これから相手にする奴等を知っている。
イオをこんなに追い詰めた奴等を俺は絶対に許さない。

「ふっ…うぅ…ひっく…っく…ハ…ハル…様…ふっ…うっ…ごめ…ごめんなさ…」

「大丈夫だよ。大丈夫だから。落ち着くまでここに居るから。気の済むまで泣いていて良いから。」

イオの誕生日は大切な母親と最後に約束した日…イオがその約束を破られて1番傷ついたのは間違いないだろう。
現状では母親に殺されかけたんだ。
自分の誕生日を前向きに受け入れられないはずだ。

「ふぅぅ…うっ…あぁ……」

「大丈夫だ。大丈夫だから。」

イオが安心するまで俺はそう言い続けた。
イオの泣く声に俺まで泣きそうになる。
親父の言う通りだ。
イオを諦めるにしても想いを伝えるにしても相当な覚悟を決めないといけないんだ。
簡単な覚悟で妻にしたいなんて言った訳じゃないけど…俺の想いにイオが応えてくれるなら、俺はイオの人生を背負っていかなきゃいけないんだ…今までのイオも…これからのイオも…
そう考えると親父って凄いな…母さんの人生を背負う事を決めて結婚したんだよな。
それは母さんも同じか…
親父達が政略結婚じゃない事は知っていたけど、馴れ初め聞いてみても良いかもな。
それにしても親父は初めから知っていて俺達をイオに会わせたんだよな?
策士だよな本当に。
そんな事を考えていたら不意に腕の中のイオの重みが増した。
体を放して見てみたら泣いたまま寝てしまったようだ。
今まで我慢していたものを吐き出して疲れてしまったのだろう。
イオを起こさないように抱きかかえ寝室に向かいベッドに寝かせる。
髪留めを外しベッドサイドに置く。
イオの髪を撫でて離れた。
寝室から出てテーブルの上の本を簡単に片付ける。
部屋を出ようとしたところでアリーと会った。

「ハロルド様いらしてたんですか?」

「あぁイオと話したい事があってね。何を話したかは言えないけど、イオは泣き疲れて寝てしまったから起きたら果実水でも用意してあげて。」

「……………。」

「イオを傷つけるような事はいていないから安心して欲しい。」

「…畏まりました。」

「ありがとう。」

「ハロルド様がお嬢様を傷つける事はないと思ったまでです。」

「そうか。それでも、ありがとう。」

そう言い部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...