(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

もうそれだけでいいかもしれない ダニー視線

シャーロット嬢からイオ宛の手紙を談話室で読んでいた。
毎日イオへ言いたい放題だと思う。
今日はハル兄がお腹の子供の父親だと言っている。
よくも毎日のように嘘を書き連ねられるものだと感心してしまうほどだ。
今日の手紙はイオへの罵倒はほとんど書かれていなかった。
その代わり情に訴えかける内容になっていた。
イオには罵倒よりも情に訴える方が効果があると気付いたようだが…そもそも手紙自体がイオに渡っていない可能性については考えていないのだろうか？
ましてやハル兄に読まれる可能性を一欠片も考えつかないほど頭が悪いのだろうか？
自分のことばかりではなく子供のことも考えて動く気はないのだろうか？
そもそも子供の父親は知っているのだろうか？
俺が考えても仕方ない事だけどこんな手紙を書かれるイオも、こんな手紙の中で相手にされるハル兄も気の毒だと思う…
そんなことを考えながら手紙を眺めていたはずだったのに日差しが暖かくて心地よかったからか眠ってしまっていた。
人の気配を感じて目を覚ました時、俺の視界には手紙を読むイオの姿が映されていた。
人の気配を感じて目を覚ましたくらいだから今読み始めたのかもしれない。
そう思い慌ててイオの腕を掴んだ。

「イオ！その手紙読んだのか？」

突然俺に腕を掴まれたことに驚きの表情を浮かべるイオ。
でも次第にその表情は申し訳なさそうな顔になっていく。

「見てしまって申し訳ありません。ですが私は傷ついていませんよ。」

「…その、手紙の内容なんだけど…」

「ハロルド様がシャーロットのお腹の子供の父親だということですか？」

そうだ。
ハル兄がいくらライバルでもシャーロット嬢の相手というのはありえない。
イオが信じたりしているのではないのだろうか？と思ってしまった。
俺はこう思った時点でイオを理解できていなかったのだろうと思う。

「信じた？」

「いいえ。シャーロットの嘘だと思います。もちろん初めてお会いした時に聞いていたら信じたかもしれません。ですが今はジェダイナ公爵家の事も聞いていますし、ハロルド様を知っていますのでシャーロットが嘘をついていると分かります。それにシャーロットが言うようにハロルド様はお優しく強い方なのですから私を傷つけないために自分の子供を選ばないような方ではありませんもの。」

「もしかしてイオは…」

ハル兄のことが好きなのか？
どうしてそう思ったのか分からない。
それを言ってはいけないと思ったのか分からない。
でも、そう思ってしまった。
そして納得している自分がいることにも気づいてしまった。
そうだとしてもイオが俺が同じように言われたとしても信じてくれたのだろうか？

「俺がそう思われていても信じてくれた？」

恐る恐る聞いてみた。

「もちろんです。ダニー様がたくさんの女性と恋をしていらっしゃった事は噂で伺っていますが、私は今お会いしてお話ししているダニー様が自分の子供を選ばないような不誠実な方だとは思いません。」

やっぱり俺が色んな女性と付き合っていた…遊んでいた事は知っているよな。
それでも今の俺を信じてくれるんだ。

「そっか…ありがとう。」

イオがハル兄を好きでもいいや。
俺の事をイオが信じてくれるなら。
いいよハル兄。
イオを傷つけない限り俺は2人の味方になっても。
まぁ口に出して教えはしないけどね。