(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

奏直

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ニコラス侯爵が疑う者① ハロルド視点

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正直言って驚いた。
ニコラス侯爵はイオの母親であるパトリシア・レナイト夫人を溺愛していると思っていた。
だから、まさか妻であったクリスティーン夫人とパトリシア夫人も疑っているとは思わなかった。
でも何故パトリシア夫人のことも疑っているんだ?
何かがおかしい。
ニコラス侯爵は何を考えているんだ?

「そう…ニコラス侯爵、私は分からないから教えて欲しいのだけど良いかしら?」

「何ですか?」

思っていたよりもジェダイナ公爵夫人は落ち着いた婦人だった。
ジェダイナ公爵夫人とニコラス侯爵の周りの空気は落ち着いているのに、どこか人を寄せ付けない雰囲気があるように感じる。
『この2人は底が知れないな。』と俺の隣でエドが呟いた言葉が頭に残った。

「第一夫人であるクリスティーンの何を疑っているの?」

「ティナのことは疑ってはいないですよ。ティナは初め戦友だったんです。」

「戦友ですか?」

「えぇ。私もティナも心より愛する人がいました。でも私達は結婚しました。それについてはお互いに納得していました。だから私達は大切な人を諦める代わりに、互いを尊重し穏やかな生活を送っていく事にしました。ですがあっけなくその生活は終わりました。ティナが事故で亡くなったからです。私がティナと生涯生きていく事を決めた日でした。帰ってきたらそう伝えるつもりでしたが…言えないまま別れることとなりました。だからティナの事は疑っていませんよ。イザベルが私の子供でもティナが愛した男の子供でも私には大差ないことなので。ただ…あの日、私の気持ちを知ったらティナはどんな反応をしたんだろう…とは思いますがね。」

ニコラス侯爵は淡々とそう話した。
もし、自分だったらどうだろう?
イオがいるのに別の女性と結婚することになったら…考えたくもない。
でも、ニコラス侯爵には起きた事だったんだよな。

「そうですか。貴方はクリスティーンの事も大事に想っていたのですか。」

「えぇ。」

「私の可愛い娘のキャサリンの事はどうなんだ?」

不意に大人しくしていたはずのジェダイナ公爵が口を挟んだ。

「彼女の事は…そうですね…キャサリン、私が言いますか?自分で言いますか?」

やはりシャーロット・レナイトとヴィンセント・レナイトはニコラス侯爵の子供ではないのだろう。
今まではどうでも良いと考えていたから、どんな話にされても放っておいたのだろうな。
急に話を振られたキャサリン・レナイト夫人の顔からは血の気が失せていた。
社交場では華やかな印象の人だったが、その顔色からはその面影も見受けられない。
侯爵に聞かれた夫人はその質問に答える事なくただ黙っていた。

「分かった。私が言うよ。」

その言葉にもただ黙ったまま…微かに震えていた。

「シャーロットとヴィンセントは私の子供ではありません。彼女が私と夫婦であるためにそう嘘言っていました。私はそれを放任していました。だから夫婦であって夫婦ではありません。夫婦としての生活は送ってきませんでしたから。ただ、同じ邸で生活していただけです。そういう意味では彼女のことは疑っていませんが…一応世間的には夫ですから疑っていると言っても間違いではないでしょう?」

会場にいる招待客はざわめいた。
夫人は何も言わずただ黙ったままで、ジェダイナ公爵は怒りが滲み出ている。
ジェダイナ夫人の顔色は読めないから何とも言えない。
そしてシャーロット・レナイトは『私のお父様は誰ですの?』と叫んでいたが誰も気にすることはなかった。
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