(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

老害 ハル視点

「ふざけるな～！！」

会場中に怒声が響き渡った。
その声の主を見るとジェダイナ公爵だった。
数刻前には人当たりの良い顔で招待客をもてなしていた公爵の顔は、怒りで真っ赤に染まっていた。

「ふざけるなとは？」

親父の反応はジェダイナ公爵とは真逆で淡々としたものだった。

「ふざけているだろう！公爵家の貴様が公爵家の人間を裁くのか！」

ジェダイナ公爵は何を言っているんだ？

「公爵家の人間？」

親父も分からないようだ。

「あぁ、そうだ！私の娘と孫を貴様が裁くのか！」

キャサリン夫人とシャーロットのことを言っているのか？

「ジェダイナ公爵、歳をとって耄碌しましたか？私が裁いたのは侯爵家の人間ですよ。」

「私の娘と孫だ！」

公爵は目を血走らせて叫んだ。
ジェダイナ公爵の娘と孫だからって侯爵家の人間なのだから関係ない。
大体、今までのやりとりを聞いていなかったのだろうか？

「だから何だって言うんですか？確かに公爵位の私が同じ公爵位の貴方を裁くとなれば問題はありますが…そうではないのでいいでしょう。言いがかりはやめていただきたい。大体貴方も自身の身を案じるべきですよ。」

そうだ。
この国では同格位の爵位を持つ者に処罰を与える場合には、同格位の爵位を持つ者2名以上で行わなければならない。
つまり公爵を裁けるのは…国王だけということだ。

「私を裁くなど更にありえない話を！王弟だからと小僧が生意気を言うな！」

老害…だな。
先程までの人あたりの良さはかけらもない。
これが公爵の本性か…公爵夫人は目を閉じジッと何かを考えているようだ。
公爵夫人が何も言わないのをいいことに、公爵はエスカレートしていく。

「はぁ。私の言っていることが分かりませんか？」

「貴様こそ私の言っていることが分かっていないだろう。」

「いえ。わかっていますよ。貴方がその爵位を傘に着ていることは。そろそろ貴方が好き勝手にできる時代は終わるんですよ。」

「終わるか！小僧が生意気に…私に向かってそんな口を聞いていいと思っているのか！」

「私はお伝えしましたよ。貴方もその身を案じた方がいいですよと。」

「性懲りも無く！貴様に私が裁けるわけがないと言っているだろう！！」

今までよりも更に大きな声で叫ぶ公爵。
その声のせいなのか、何か感じるものがあったのか公爵夫人が目を開けると若干驚いた顔をした後で、その場に跪いた。
夫人のその行動に気づいた他の招待客もまた、その場に跪く。

「なら、俺が裁こう。」

「だから私を貴様が裁くなどできるわけが…ないと…」

「ほぉ…ならば貴殿はこの国の王だとでも言うつもりか？」

何故ここに伯父が…国王陛下がお出でになられたのかは分からないが…いや、絶対初めから伯父と親父で決めていたに違いない。
先程まで叫んでいたジェダイナ公爵も声が出ないほどに驚いているようだ。
レイモンドもシオドアもシャーロットでさえも身を小さくして跪いている。
というかシャーロットでも国王にはそうできるのかと驚いた。
あぁ、ここから伯父の独壇場だろうな。
きっと好き勝手するに決まっている。
イオに害が及ばないなら好きなだけ暴れていただきましょう。
そう思いチラリとイオを見ればやっぱり驚きに目を丸くしていた。