過去に復習を

4

暖かい夕方の陽射し。好きじゃないベッドの匂い。外から人の声が飛び交う部屋。
目が覚めた時には保健室で眠っていた。
何故ここで眠っているのだろうか。
確か4人に強姦されて.......、あぁ、気絶したんだっけ。てことは誰かがここに運んできてくれたのかな...。
思い出せない。
ぼうっとする頭で記憶を遡っていると、保健室の扉がガラガラっと音を立てた。
誰かが入ってきたようでふと其方に目を向けると保健室に入ってきた子と視線が重なる。前髪で目元が隠れている為、目が合っているのかさえ分からない。身長も小さく小柄で、何だか小動物のようだ。
この子は誰だ？なんて思いつつじっと相手を見つめているとそわそわとした様子で此方に近づいてくる。

「あ、あの、えと...、お、おはよう...ございます........。」

「.........。」
(ん？)


話しかけられたかと思えばコミュ障丸出しな喋り方で挨拶をされ余計困惑する。なんて返したらいいかわからず無言でじーっと相手を見つめる。

「あっ、ご、ごめんなさいっ....、えっ、えっと...、体、大丈夫ですか....？」

「あ、あぁ...大丈夫だけど....。もしかして、君がここに連れてきてくれた？」

体の心配をしてくれるということは、少なくともこの子がここに運んでくれた、あるいは先生か誰かを呼んで連れてきてか....。
どっちにしろ良い子なんだろうなって思った。
僕の質問にこくりと頷いて小さく微笑んだ。

「.....こっちおいでよ。」

「は、はい...。」

初対面なのに何だか可愛く見えて小動物を相手にするかのように言葉をかけては此方へ来るよう促す。だが、緊張しているのかベッドギリギリに腰を降ろして此方を見ようともしない様子にガチのコミュ障だなと悟った。

「ここ、座って。」

「っ....はい...。」

仕方なくポンポンとベッドの上を叩く。
人と話すことが苦手なのか、慣れてないのか分からないが僕に対してはそんな緊張しなくてもいい。まだ距離はあるが先程よりかは近づいてきてくれた。

「名前は？」

「名前...は...い、言いたく..ない..。」

「何で？」

「.......だって.....変、だから....。」

「.....そっか。まぁ言いたくないならいいけど。」

名前が変だから言いたくないなんて初めて聞いた。自分の名前が嫌いなのだろうか。別に言いたくないと言うのだから無理して言わせる必要も無い。

「僕は瑠夏。女みたいな名前だろ？僕はあんまり自分の名前好きじゃないんだけどさぁ。」

何で男なのに女みたいな名前なんだろうってずっと思ってた。小さい頃からコンプレックスを感じでてたし、いじめられてた。あいつらにも『瑠夏ちゃん』なんて呼ばれるし。
それでも、そう名付けられてしまった以上この名を背負って生きていくしかないのだ。
僕の言葉を聞いて気まずそうに俯く様子にそんな落ち込まなくてもいいのに、なんて思いつつ別の言葉を話しかける。

「ね、こっち向いて？」

「.....はい....。」

顔はこちらに向けてくれたけどやっぱり前髪が長いせいで目を合わせられない。
不意に彼の前髪に触れて顔を見ようとすれば目と目がぱちりと合う。

「ｯ！？や、やめてくださいっ....！！」

「うお...、ごめん。」

まさかの拒否られた瞬間パシっと手を退けられて思わず驚いて謝る。
その行動に彼自身も驚いたのだろう。慌てて立ち上がりごめんなさいと深く頭を下げ、走って保健室から出ていってしまった。

(.....なんなんだよ。)

そうポツリと内心呟いては疲労感のある身体をベッドへ倒して目を瞑る。