暗黒家族の令嬢は悪役ではないので、婿入り復讐計画を受け付けません

星琴千咲

文字の大きさ
107 / 145
【復讐劇篇】第二十二章 花婿試練?

2203 夫になる資格がない

しおりを挟む
***

リカの両親が指定した対面の場所は、町の中心からかなり離れている開発中の土地。

建設中のビルの群れの中で、目立つにも一棟の西洋風大聖堂が佇んでいる。

更に不思議に、季節でもないのに、大聖堂は凛として咲き誇る薔薇の壁に囲まれている。

「妙なところだな……」

そう呟いたら、イズルを歓迎するように、大聖堂の扉は自動的に開いた。

怪しいと思いながらも、イズルは慎重に大聖堂に入った。



「失礼します」

イズルの声は大聖堂の中で響いたら、扉が自動的に締まった。

「!」

大聖堂の中身はほぼ空っぽ。椅子も聖像もない。頭の真上の天井に、真っ白な照明が輝いている。二階はあるが、狭い回廊だけで、置物がない。

その狭い回廊の上に、中年男女の二人がイズルを見下ろしている。



男はポーカーフェースで冷静沈着、女は閑静でおっとり。

なんとなく、リカと雰囲気が似ているとイズルは感じた。

「遠路はるばる、ご苦労だった」

男のほうは先に口を開いた。

「初めまして、私はメッセージを送った天童嵩てんどうたか、こちらは妻の綾綺あやきだ」

「初めまして、私は――」

渡海わたるみイズル。知ってる」

天童嵩はイズルの自己紹介を断ち切り、話を進めた。

「単刀直入に聞こう――娘とは、どういう関係だ?」

「!」

イズルはまずい匂いを嗅いだ。

まさか、「100億をやるから、娘から離れろ」ってパターンじゃないよな……

とりあえず、心を落ち着かせて、正直に答えよう。

「名義上で、私はリカの部下です。でも本当は、お互いに信頼し合い、助け合い、心を交わしたパートナーです。更に言えば、お互いに好意を持っている恋人です」

「ふん、恋人。よく言える」

天童嵩は鼻で笑った。

隣の綾綺は目を細くしたら、全身から緑の光が浮かんだ。

その光は何かと共鳴する。金管の音が大聖堂の中で響いた。

まもなく、大聖堂の窓から薔薇の蔓が飛び込んで、矢のように天井の照明を粉砕した。

続いて、大量な薔薇の蔓が外から大聖堂の窓を塞ぎ、光源を遮断した。

あっという間に大聖堂内は真っ黒になった。



イズルは声を出さずに、ただ静かに次の手待っていた。

「あなたの異能力はすべての異能を防御できるものだと聞いたが、本当にそうなのか」

天童嵩の声と共に、イズルは危険の接近を感じた。

急いで防御の球状バリアを作ったが、完全に展開する前に、体が強い衝撃波に飛ばされた。

「!!」

イズルは高い壁にぶつかられ、形のない気圧のような力で押しつぶされ、身動きもできなくなった。

「力を持っていても、思うままに使えないなら、何にもならない」

天童嵩の冷たい声が闇の中で響いた。

「珍しい力とはいえ、万代家内部に限る話だ。あなたの今の力のレベルじゃ、高級異能力者の前では子供同然だ」

「……」

先日陽華から似たような話しを聞いたばかり、イズルは不服そうに喉を鳴らした。

不意打ちでもされなかったら、こんなの防げたはずだ……

「不意打ちだから不服か?」

「!」

イズルの考えを見抜けたように、天童嵩は彼を追い詰めた。

「敵は常に正々堂々に挑んでくるとは限らない。サバイバルゲームを勝ち抜いてきたあなたは、それをわからないはずがない。それでも不意打ちを訴えのは、自分の弱さに言い訳をつけたいだけだろう」

「……」

認めたくないけど、図星だった。

イズルは自分の力不足を認めたくない。

特に、リカの両親の前で。

「今のは本当の敵襲だったら、あなたがすでに命がない。娘のはあなたのことを気に入ったから、殺すつもりはない。力の差というものを知ってもらうだけだ。

 あなたの万代家での価値はあなたが思うほど高くない。お家の産業も、万代家にとって代りがなくもない。だから、ご家族の殺害事件が黙認された。あなたは異能世界を知らないまま20年を過ごしてきた。今から万代家に入ってももう遅い。異能世界の知識を補習する間に、ほかの人に資源を奪われ、命を落とされるだろう」

「……」

イズルは無言に考えた。

「サバイバルゲーム」といい、「20年」といい、リカの「お気に入り」といい……

どうやら、この天童嵩は自分のことをよく知っている。

自分のことを詳しく調べて、かつ殺す気がない、こうやって厳しく警告する目的は――

やっぱり、あのパターンか……

イズルは脳内で結論を出したほぼ同時に、天童嵩も決め手をだした。

「つまり、あなたは万代家のリーダーの夫になる資格がない」

「……」

(リカ、あまり言いたくないけど、あなたの両親の知力は……)

「リカにとって、あなたのような夫は荷物のような存在だ。だが、あなたが愛人として影で彼女を支えられるなら、話は別だ」

「?」

なんだか、話はおかしい方向に展開した。

「……愛人?」

一瞬自分の耳を疑って、イズルはその単語を繰り返した。

「そうだ。リカは万代家のトップを継げるために、実力のある人と結婚しなければならない。それでも彼女を諦めたくないなら、お前は愛人で我慢しろ」

笑う場合ではないとわかっていても、イズルは我慢できず、笑い声を漏らした。

娘に「愛人」をつけようとするなんて、おもしろい父親だな。

「……オレが頷いても、リカはあんな馬鹿馬鹿しいまねをしないだろ。まして、オレがそんなことを絶対させない」

イズルは口調を強めた。

「リカが好きだ。彼女のこの世で唯一のパートナーになる」

「下手な演技をやめろ。娘の夫になっても、お前にメリットはない」

天童嵩は鼻で笑った。

「……なんで演技だと決めつけるのですか?」

「あなたが娘に接近する目的は復讐だろ。復讐するなら、影で行動するほうがもっと便利だ。あなたにとって、夫ではなく、愛人の身分こそが一番有利なものだ」

「……」

今度、イズルは本気にムカついた。

以前に演技するとき、リカに本当だと思われて、バカにされていた。

今回は本心を言ってるのに、リカの父に演技だと決めつけて、バカにされていた。

この一家は、なんでこんなにも演技と本心を区別できないんだ?

それとも、本当に、自分の演技に問題があるのか?

「愛人の話をやめてくれませんか?万代家に入る目的が復讐だと認めるけど、復讐のためにリカが好きになったんじゃない」

「隠さなくていい。七龍頭を含めて、みんなもわかっている。あなたの入族を許可したのは、あなたがまだ利用価値があるからだ」

「……何がわかるんだ……」

イズルは鼻で吹いた。

リカの両親はこんなに頑固だったら、自分も遠慮する必要はない。いっそう開き直したほうが早い。

「そもそも、リカが好きになったのことに一番不思議なのはオレ自身だ」

イズルは声を強めた。

「正直に言わせてくれ――娘さんは強引で横暴、コミュ障なのに毒舌だけが効いている。人間関係はごちゃごちゃ、仲間の半分が無能で、半分が裏切りもの。親族関係はもっと微妙、祖父が老獪で、計画があるのに彼女に何も知らせない、両親は頑固で、彼女の好きな人に愛人役を強いる」

「!?」

イズルの正直すぎる感想に、さすが天童嵩夫婦も驚いた。

「うっかり彼女の優しさに『惑わされて』、彼女が好きになってしまったのはオレの一生の『失算』だろう。おっしゃる通り、オレの復讐にとって、彼女への感情は邪魔しかならない。

 それでも、オレはリカを好きになったことに後悔しない。絶対にリカを諦めない。だから、現在一番困っているのはお二人ではなく、オレのほうだ」

「それなら、リカのために復讐を諦めなさい」

黙っていた綾綺は口を開いた。

「それも嫌だ」

イズルはきっぱりと断った。

「……」

「……」

「欲張りな若者だ」

しばらくの沈黙が経って、天童嵩の嘆きが響いた。

「欲張りではない。人間としてのもっとも素朴な感情に従うだけだ。仇があるなら必ず討つ。愛があるなら必ず守る。オレにはできる」

相手の態度が緩くなったのに察して、イズルは口元を上げた。

闇の中で、天童嵩はイズルを見下ろしながら、彼の意思を確かめる。

「お前はどうするつもり?」

「まず、リカの頭固い両親を説得する――」

そう言いながら、イズルの体は光った。

チラチラと何回瞬いた後、薄い琥珀色の光は全身に広がり、

赤金色に変色する。そして、たちまち目を焼けるよう火炎になる。

イズルの体を押し付ける何かが、その火炎に焼かれたように、亀裂が現れ、星屑の欠片を吹き飛ばし、十数秒で崩壊した。

身動きを取れたイズルは高所から落ちる。

でもその同時に、彼の全身を覆う赤金色の火炎は急速に拡張し、大聖堂全体を取り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...