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【名演技編】第七章 裏の世界

0701 異世界の夜はあまくない

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(半年前)
***
「リカ、大変だ! たくさんの兵士はこっちに向かっている!」
危機の知らせと共に、小屋の扉を破るような勢いで青年は入ってきた。
「私たちの居場所を探してますか?」
リカより早く、ある髪の短い若い女子は聞き返した。
「探すというより、一直線にこっちに向かっているようだ!」
「まさか……もう形跡を全部隠しましたよ」

二人の会話を聞いてリカは驚いた。
探さないということは、場所はすでに知っていることだ。
若い女子の名前は安世やすよ。彼女は人の形跡や気配を隠せる異能力を持っている。
そのおかげで今まで見つけられたことは一度もない。
安世やすよは几帳面で、ミスすることは滅多にない。
なのに、この山奥の小屋に移動した二日目で追手がきた。

「やばいな。『合作』のことを承諾するなら、こんな大勢でこないはずだ。恐らく断られた」
「けど、結果は三日後と言ったでしょ?!」
「きっと嘘だ。俺たちを掴めるための罠だ。最初からこちらと手を組むつもりなんてないんだ!あの異世界人たち!」
小屋にいる数人は騒いだ。

リカは焦燥感を抑えて、できるだけ平穏な口調で仲間たちに指示を伝える。
「状況はまだ断言できないけど、最悪に備えて準備をしよう。今から全員を集めて、山頂の陣に向かってください。私はエンジェルに連絡する。すぐ転送の用意をしてもらう」
リカの指示に従って、みんなは動き出そうとすると、ある背の低い女子は不安そうに口を開けた。
「リカ……しょうちゃんは、まだ戻っていないの」
「?!」
それを聞いて、皆は足を止めた。
「欲しいものがあって、晩ごはんの後に買いに行ったの……」
「この三日絶対山から離れないと言っただろ!何を考えているんだ!お前もだ、れい!従弟の管理もできないのか!」
ある中年の男は大声で女子を叱った。
「すみません!止められなくて……」
れいという女子は目をつぶして、泣きそうな口調で謝った。
「いまはどこにいるの?」
仕方がなく、人の居場所を確認するのは先だ。
リカは苓の肩に手をかけて、彼女を落ち着かせる。
苓の目から薄い金緑の光が放たれて、まるで遠いところを見ているように答える。
「森の西側の出口付近、近道に入った。5、6分があればつけそう」
「皆さんは先に行って、私はここで彼を待つ」
リカはためらいなく、苓の背中を押して、彼女を扉の外に送り出した。
「でも、リカさんは隊長、継承人です。万が一何かがあったら……」
安世は止めようとしたが、リカは彼女の話を断ち切って、左腕に着けている腕輪を見せた。
「隊長だから、一度自由に『扉』を開けるチャンスがある。勝が戻ったら彼を連れて『これ』で帰る。万が一掴まれても、継承人の身分で交渉できるから、心配する必要はない」

8人の仲間を送ったら、リカはすぐに小屋の外の馬宿に隠れた。
リカの腕輪に三つの石が装着されている。
一つはルビーのようなの丸い石、一つはサファイアのようなの丸い石、真ん中にあるのは紫っぽい大きいな楕円形石。
ルビーの石はエンジェルの持っている通信法具と繋がっている。
リカはルビーの石を回して、「第一オペレーター」のエンジェルに連絡を入れる。

「……反応がない?」
でも、何回回しても、向こうから応答がなかった。
ルビーの石はチラチラと赤い光を放っていて、ブーザのような音が続いている。
待ってはいられない。
リカはサファイアの石を回した。
こちらは「第二オペレーター」のマサルと繋がっている
「…………」
しかし、同じく沈黙の答えしか戻ってこなかった。
その時、小屋の方から騒がしい音が立てた。

追い手の混乱な足音と叫びが聞こえる。
「誰もいないぞ!!」
「きっと山の頂上の陣とかに逃げた!追うぞ!」
(陣のことまで知られたの?!本当に情報が漏れているの……)
焦る気持ちを抑えながら、リカは干し草の中で密かに二つの石を回し続ける。
足音が聞こえなくなると、リカはたちまち馬宿から飛び出して、裏道で山の頂上に向かおうとする。

何歩を走ったら、暗闇の中からいきなり人が出てきて、彼女とぶつかった。
「グェ!」
相手は声を上げた。
「……しょう!」
リカとぶつかったのは痩せている少年。
年は中三くらい、身長はリカより頭半分くらい高い。
少年の目は猫の目のように、黒い森の中で緑色の光を放っている。それは彼の異能力。光源がなくても、暗闇の中で物をはっきり見える。
「リカさん、皆どこ? 兵士はたくさん……」
少年は不安そうにリカに聞いた。
「小屋は見つけられた。説明は後で、今すぐ陣の方に……」 
身を翻そうとすると、リカの神経は何かに刺されて、反射的に一歩後ずさった。
その同時に、冷たい裂傷の痛みは左腕を走って、腕輪は強引的に奪われた。

しょうという少年の目は強く輝いた。
左手に血濡れのナイフを、右手にリカの腕輪を握っている。
顔には闇によく似た歪んだ笑顔。
愉快しそうに血に染められたリカの腕を見つめている。

「気持ち悪いな。こっちも命張って家のために頑張っているのに、リカさんだけが救命の法具をもらえるなんて。さすが継承人のお嬢様ってことか」
「! 裏切り者は……あなただよね」 
驚きと共に、リカは状況を理解した。
信じたくないけど、勝は情報を漏らした裏切ものだと、現実はそう語っている。
でもどうして?
弟のようにいつも隣で陽気に笑っているこの子は、なぜこんなことをする?
「俺のせいにするなよ」
リカの問いただす目線に気付いたのか、勝は肩をすくめた。
「もとと言えば、親のせいだ。小さい頃から悪いことばっかり。無能な親は任務に失敗して、底に落ちたせいで、俺までなめられている。人より一倍苦労して、やっと『』に成功したのに、手に入れた能力はこの人型懐中電灯だなんて。しかも、この能力のせいで、このゲームも車もない『異世界』に派遣された。もし本当に異世界人と手を組むようになったら、帰れる日は分からなくなるじゃないか!」
「でもな、運は俺を捨てなかった。エンジェルさんは言った、リカさんを異世界に閉じ込めたら、彼女は継承人になれる。そうなった日、継承人の権限を使って、俺にもう一度『刻印』のチャンスをくれる。よい異能力がでたら、『』の候補にも入れてくれるんだ」
「エンジェルが?!」
リカは雷にでも打たれたような気持ちだった。

エンジェルとは長年の親友だ。
家や人生に対する考え方が違うが、遊びも仕事も、いい関係を保っていた。少なくとも、リカから見れば、二人は姉妹のような仲だった。
二人の仲が良かったから、家はエンジェルをこの任務の「第一オペレーター」に指定した。
リカが異世界に来る前に、エンジェルは彼女の手を握って誓った。
「何があったら、すぐ相談してね!全力で支援するわ。いつでも傍にいるから、だから、リカは勇気をもって前に進んで!」
そして今日まで、エンジェルの返事と支援は確かに迅速で適切だった。
リカも彼女を心強い仲間だと思っていた。
エンジェルは勝にそんな話をするなんて、どうしても信じられない。
でも、もし勝は嘘をついたとしたら、エンジェルの沈黙はどういうことでしょう……
熟考する暇がない、リカは出血を抑えながら、勝に説明する。
「誰から聞いたのか分からないけど、継承人にそんな権限がない」
「お前の場合だけだよ! みんなも知っている。やろうと思えば、継承人はいくらでも特権を使える。俺は何度も頼んだろ! もう一回、『刻印』のチャンスをくれって! でもお前はいつも無視した」
「何回も言ったでしょ。『刻印』は体への負担は重い……」
「言い訳無用だ! お前は俺の親と同じ、無能な臆病もの! エンジェルさんは違う。エンジェルさんは俺に救いの手を差し伸べた。だから、俺はエンジェルさんの仲間になる!」
後めいた気持ちはあったのか、勝は乱暴にリカの話を断ち切って、狂ったように叫んだ。
勝の行動はショックだけど、今のリカが一番心配しているのは陣に向かう人たちのほうだ。
「そんなことどうでもいい! 今すぐ腕輪を返しなさい! 兵士は陣に向かっている、扉を開けないと皆は危ない!」
「ちょうどいい。捕まえられたらリーダーのお前の責任だからな。帰ったら、お前は責任を感じてここにに残ったと偉い人達に伝える」
そう言いながら、勝は血濡れのナイフを腕輪に擦った。
腕輪から真紅な光が広がって、やがて半透明なバリアになって、勝の体を囲んだ。
勝はナイフをリカに投げて、その隙に森に逃げろうとした。
その時、森から人が現れて、彼を捕まった。
「勝ちゃん、どういうこと?! お姉ちゃんを置いていくつもり?!」
皆と山頂に向かったはずの苓は森から出て、ムカムカと勝に問った。

れいさん……」
しょうは返事に躊躇ったら、苓は彼を地に押し倒して、腕輪を奪い取った。
「知ってるでしょ! この腕輪じゃ、扉は一瞬しか開けられない。二人が集合してから使うのよ!」
「!」
苓も、裏切り者……?!
エンジェル、勝、苓……
リカは19年で築き上げた人間性への理解は、三分もないうちに崩れた。
「返して苓さん! それを使うにはコツがあるんだ!」
「何がコツよ! エンジェルの条件は美味しすぎで不気味だったわ! あたしも犠牲にするなんて許さない!」
二人が争っている間に、後ろの空間に大きな穴が現れた。
穴の中に、銀河のような星々が輝いている。
苓は腕輪をギュッと胸に抱きしめて、先ほど勝を囲んだバリアは苓の体に移動した。
「苓さんよこせ! 早く『』を展開するんだ! あれがないと通路で死ぬぞ!」
勝は苓を必死に掴んで、彼女を穴に方に行かせない。
「あんたこそ邪魔なのよ! 扉は閉まるから早くどいて!」
醜い兄弟喧嘩を目にしたリカは拳を握って、後ろから苓の頸元にナイフを掛ける。
「まだ帰る時ではない。こっちに向いて、腕輪を返せ」
リカの声は温度なくなる。
交渉ではない、命令だ。

3人は串刺しの位置で対峙する間に、星の穴はだんだん小さくなっていく。
帰る希望が消えると悟った苓は賭けてみたいと思った。
腕輪を渡すふりをして、ゆっくり振り向いて――
リカが腕輪を受け取る瞬間、全身の力を使ってリカにぶつかった。
リカはバランスを崩れて地に倒れたけど、腕輪をしっかりと手にした。
目のいい勝はこのチャンスを逃さなかった。
早速リカから腕輪を奪って、自分にバリアを展開する。
一歩遅れた苓は必死に勝に抱き着いて、彼の足を止めた。
「わ、分かったよ! 一緒に帰ろう!」
やむを得ず、勝はバリアを更に大きく展開して、苓を中に入れた。
二人は星の穴に飛び込もうとする時に、横から強い風が吹いてきて、二人は穴から何メートルも離れたところに飛ばされた。
続いて、変な風がまた飛んできて、勝が落とした腕輪を巻き上げて、リカの胸に投げた。
驚く暇もなく、リカ本人まで風に乗せられて、星の穴に飛ばされた。
穴が閉じる前に、リカはある少年の影を見た。
「もう二度と来るな。異国の人よ。この土地はあなたたちの武力が要らない」
その言葉は、リカは「異世界」で聞いた最後の言葉だった。
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