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【名演技編】第十一章 お守り

1102 異世界の扉

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リカはタクシーを呼んで、高霊こうれい山に戻った。
懐中電灯を持ってイズルと一緒に歩んだ道を辿って、契約の洞窟に入った。
洞窟と隠し通路の中をじっくり探して、何も見つからなかったら、昼間にようこと絡まったところに向いた。
そこでも収穫なしで、急いで刻印聖地の村に入った。

村はもう静寂に戻った。
監視カメラはまだ働いているけど、探し物程度は許されると思って、リカは迷いなく村に入った。
いきなり、後ろから人の気配がした。
どうせ万代家の人でしょうと、リカはあまり驚かなかった。
ゆっくりと振り向いて、懐中電灯でその人を照らす。
「?!」
その人の顔を見たら、リカは逆に驚いた。
「なぜここにっ……!」
「食後散歩」
イズルは笑顔でリカに手を振る。
「随分遠い散歩だね……」
「お前も一緒だろ?」
「散歩ではない。探し物に来たの」
見物気満々のイズルに構わず、リカは村の奥に歩き出した。
「そんなに大事なもの? 明日まで待っていられないのか?」
「……」
リカは黙ったままあちこちを探す。
「手伝うから、教えてくれ。本当に大事なものだったら、早く見つけたいだろ?」
「……お守りよ」
ちょっと戸惑ったけど、リカはイズルに正直に教えた。
「お守り?」
「紫の色で、サイズはこのくらい……金色の結びがついている」
リカは手で大体のサイズを描いた。
「それは贈り物? 誰かからくれたもの?」
よほど特別なものじゃなかったら、深夜で危険な場所に戻るまで探す意味がない。
きっととても大事なものだろうとイズルは思った。
「どっちでもない。自分で願いをかけただけだ」
リカは草々に答えて、そっぽを向いてまた探しに移動した。
「どんな願いをかけた?」
「守ってほしい」
「何を守る?」
「……」
イズルは質問連続で、リカはとうとう無返事。
「……」
イズルは肩をすくめて、問い詰めをやめた。
車から持ってきたランプをあげて、リカと一緒に探し始める。
二人は村を一周回して、しっかりチェックしたけど、何も見つからなかった。
「あの時、いろいろかなり混乱したから、どこかに飛ばされたのか、それとも拾われたのか……そんなものを拾う人はいないと思うけど……」
リカは独り言を呟きながら、さらに遠くへ足を延ばそうとした。
イズルは携帯の時間を見て、眉をひそめてリカを止めた。
「今日はここまでにしよう。明日、明るくなってからまた探そう」
「いいよ。先に戻ってて」
リカはイズルに振り向かずに、壁際に落ちたボロ袋を拾って、その中を探す。
「オレ一人で?」
「夜道が怖いの?」
イズルの眉は小さく跳んだ。
「……あのさ、オレはここでお前に救われたばかりだ。こんな夜にお前を危険な場所に残して、一人で帰れると思う?」
「いい。そのあと、あなたも私を救ってくれた」
「……」
リカの返事は相変わらず愛想ない。
その距離感にイズルはなぜか苛立った。
「この前の斜楼の件もある」
「言ったでしょ、数えなくていい。私は任務のためにやるべきことをやっただけだ」
「……」
(こいつ……本当に分からないのか)
好意がどんどん拒絶されて、イズルはカッとなった。
リカはある段ボールを持ち上げようとしたら、イズルは一歩先にその段ボールを横取った。
「どんな任務? オレを万代家に取り込むこと? お前は納得できてもオレは納得できない。オレの命はそんなに安くない。お前の自己満足でオレを侮辱しないでくれ」
「自己満足ではない。本当は、私はあなたに謝らなければならない」
「なんのため? 今すぐ教えてもらおう。じゃないと、これから毎日もちゃんと感謝の気持ちを差し上げるよ」
イズルは腹黒く笑って、リカを追い詰めた。
「……」
リカはイズルのわざとらしい笑顔を見つめる。
これは怒っているでしょう。
イズルの体と顔に灰がついている。きれいな指先にも泥だらけ。
やっと気づいた。イズルは自分と一緒にお守りを探していた。
ごまかしていなく、本気に手伝ってくれていた。
「……ごめんなさい。大事なものではない。私の執念だけだ……もういい」
リカは立ち上がって、息を吐いた。
「私は順番を間違えた。あそこに行こう。あなたの知るべきことを教えてあげる」
あっさりと方向を変えたリカを見て、イズルはますます困惑になった。

リカの案内で、二人は道路の分岐に戻って、今回は刻印聖地と違う道に入った。
十五分くらいを歩いたら、リカの懐中電灯はある看板を照らし出した。
看板に警告の文字が書かれている。
「工事中。危険。関係者以外は立ち入り禁止」
それに構わず、二人は狭い森の道を歩き続ける。
更に十数分が経ったら、やっと広い場所にたどり着いた。
「!!」
目の前の景色を見て、イズルはようやく夢から覚めた気分がした。
——イースター島の石像を思い出させるような巨大な石像が円陣を取って並んでいる。
石像は十二体があり、それぞれ異なる呪文のような謎の模様が刻まれている。
石像の下には大きな黒石で作られた祭壇。祭壇にたくさんの小石が嵌められている。小石からおぼろな光が浮かんでいる。
祭壇に立つだけで、何かの強い力を感じられる。
イズルは一瞬でひどいめまいをした。
初めて来たんじゃない!
そうだ、ここだ。
あの夜、家族と一緒に隕石を探しに、たどり着いたところだ……
万代リゾートにこんなに近いのに、なぜ思い出せなかった?!
「違う……」
イズルはずきずきし始める頭を押さえて、一生懸命記憶の欠片を読み取る。
「隕石探しじゃなかった。オレたちは万代よろずよリゾートの招待を受けて、商談しに来た……途中で万代家の人は何か報告を受けたら、話を中断して、急いで退場した……」

万代よろずよ家の人の行動は実に怪しかった。
イズル一家はリゾートの窓から、万代家の車の行先を目で追った。
車が森に入ったまもなく、漆黒な森の中からチラチラと赤い光が瞬き始めた。それと呼び合うように、空のいくつかの星がいきなり明るくなった。
その異常現象から不吉な予感がして、イズルの祖父と父は様子見に行くと決めた。イズルも好奇心で付いて行った。
すると、この森の中の石像の祭壇に辿り着いた、それから――
「隕石」が現れた。
空からではなく、この祭壇の真ん中からだった!
橙色の光が祭壇の中心から広げて、その中に、少女の姿が現れた……

イズルは目を張ってリカを見つめる。
一目しか見ていないけど、あの少女は、まさか――
「!」
リカはイズルの目をしっかり見つめていて、ビー玉のような透明な小石を彼の額に置いた。
イズルが質問する前に、リカは指でその玉をつぶし、短い呪文を唱えた。
「清らかな風よ、このものの心の霧を吹き払え」
「!」
つぶされた玉から一縷の白い星屑が飛んできて、スーとイズルの眉間に入った。
針に刺された痛みと共に、イズルの忘れられた重要な記憶が浮かんできた。
「私は異能力がない。法具もあまり使わない。こんなもので役に立つかどうか分からないけど……」
「……とても役に立った。霧はすべて晴れた」
記憶を取り戻したイズルは、目の色が一層深くなった。
「あの夜、万代家はここで何か儀式を行ったのか? お前もいたのか……?」
「そうとも言えるけど……」
リカはイズルを凝視したまま、今までのない真剣さで口を開いた。
「あなたは、異世界の存在を信じる?」
「?」
「現実的に、異世界に自由に行けると思う?」
「?」
「ワームホール、時空旅行は? どう思う?」
「……」
頭の固いリカの口から異世界スリップ、全然似合わない……
異世界より、こっちの組み合わせのほうが信じがたいとイズルは思った。
けど、忘れてはいけないのは、リカは異能力を持つ暗黒家族の人だ。
いくら現実系に見えても、非現実世界の人間だ。
イズルはリカと異世界の組み合わせを受け入れて、ツッコミなしで大人しく答えた。
「考えたことはないが、存在自体は否定しない。もし、オレの家族の死はそれと関係があるというなら、信じるほうを選ぶ」
「信じる」を聞いて、リカは肩の力を少し抜けた。
「ワームホールかなにか分からにけど、万代家はある『異世界』へ行ける方法を見つけた。その世界の文明のレベルは、約千年前の地球文明に近い、まだ冷兵器の時代。私たちの世界と違って、多くの人は異能力を持っている――」
話しながら、リカはイズルの表情を観察する。
「信じがたいなら、地球の未開化のところと思ってもいい」
「いい。それは異世界だと信じる」
イズルは口元をあげてうなずいた。
その穏やかな様子を見て、リカは安心して続けた。
「あの世界に比べて、私たちの世界は科学技術が進んでいる。
けど、異能力を持つ人はかなり少ない。両方の状況は、真逆と言えるでしょう」
「二年前、私は家から極秘任務を与えられた。向こうの国と交渉して、こちらの技術と武器で、向こうの異能力人材を交換するという任務だった。あの時、神農グル―プに注文したものは、交換のための商品だった」
「でも、途中で意外が発生して、私たちは追われる身になって、早めにこっちに戻らなければならなかった。この石像の陣は向こうにつながる扉のようなもの。私はここに転送されたから、陣は強制的に起動された。当時、あなたたちと交渉していた万代家の人は陣の異変に気付いて、すぐここに駆け付けた」
「……」
イズルは気づいた。
追われる身になったのは「私たち」、転送されたのは「私」。
でも、イズルはそれに触れないまま続けた。
「そこを、オレとオレの家族に見られた。そのあと、オレは追い払われて、祖父と父は二人であの万代家の責任者――落合と交渉した」
イズルは覚えている。
祖父と父は万代家の人に頼んで、彼を帰り道に案内した。記憶が曖昧になったのはその時からだった。おそらく、万代家の人は彼に何か力を使ったのだろう。
「そう。落合は異世界のことや万代家の計画をあなたの祖父と父に教えた。数日後、神農しんのうグループは契約を破棄して、万代家と決裂した」
「それはおかしい」
リカの話を聞いて、イズルは妙だと思った。
「うちのグループはずっと闇の商売をしている。異世界とはいえ、国レベルの組織との資源交換はこっちの世界でもよくやることだ。そのくらいのことで祖父と父は『危険』と思うはずがないし、契約を破棄する必要性もない」
「それに、お前は言った。それは極秘任務だろ? なんなら、なぜその落合は軽々しく祖父と父に真相を教えた? 異能力のテスト、法術の実験とかを伝えれば、うまくごまかせるのに」
リカは目線を下げて、低い声で言った。
「私は、先に口が滑ったから……」
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