暗黒家族の令嬢は悪役ではないので、婿入り復讐計画を受け付けません

星琴千咲

文字の大きさ
58 / 145
【名演技篇】第十二章 悪役は踊る

1203 風変わりの匂い

しおりを挟む
イズルとリカはカフェの前で三人の女性親戚を見送った。

三人が視野から完全に消えてから、リカはさっきからの疑問をイズルに投げた。

「契約で株を要求したけど、数量は2%、譲渡は一年後、家庭教師の仕事が終わってからの話。『10%を譲りました』っていつのこと?」

「どうせ面倒なことになるなら、水面下で泳がせるより、表で騒がせたほうがましだ。これで、グループのほうはしばらく株のことで騒ぐだろう。トラブル転嫁の戦術だ。加点してくれ。」

「その転嫁の先は私だよね?」

リカは疑わしい目でイズルを睨んだ。

「とんでもない。むしろ、お前の利益になることだ。万代家に入ったお土産として10%の株をすぐ譲渡してあげる。2%は家庭教師の報酬だと思って持っててくれ。もう8%は、売ってもいいし、誰かに譲ってもいい、とにかく、万代家の偉い人たちの機嫌取りに使ってほしい。オレからのお土産とも伝えてくださいね」

「賄賂か……汚い」

リカはそう言いながら、スマホで減点した。

でも少し考えたらまた加点した。

「けど、万代家では、そのくらいの心構えが必要だと思う……」

「賄賂ではなく、気持ちです~」

イズルはニヤッと軽々しい口調に変えた。

「お前の2%は、しっかり持っててよ。もしほかの人たちはグルとなって、オレの敵に回すようなことをしたら、お前に頼るしかない」

「……私はグルにならない保証はないよ」

「もしそうだったら、泣いて見せる」

「……」

リカは呆れた。

「気持ち、悪い……」

固まった手で減点しようとしたら、イズルの掌に頭を押さえられた。

「冗談だ。頭の固いお姫様」

リカはその手を振り払う前に、イズルは一歩早く手を取り戻した。

「もしお前は――

『どんなことがあってもあたしはあなた味方ですわ~』

みたいな気持ち悪い話をしたら、もうとっくにその契約を燃やした。頼りになれないきれいごとと、頼りになれる厳しい言葉の区別はつけられる」

「……」

それは誉め言葉?自分が頼りになれると言いたいの?

リカはイズルの話の意図を掴めなかった。

それに、あの口調は、もしかしたらエンジェを真似してるの?

やっぱり気持ち悪い……

でも、どこかくすぐったい、ちょっと笑いたくなる……

リカが黙っていたら、イズルはポケットから朝の便箋を出した。

「オレを呼んできたのは、あの親戚たちの正体を見せるためだろ?彼女たちはあなたに連絡したこと、なぜ早く言わなかった?」

「相手はあなたの親戚。私が何を言っても、すぐ信じてくれないでしょう。あなたに直接に見せたほうが早い」



そう。

あの事件の前に、たとえ誰かに

「エンジェはあなたを異世界に閉じ込めるつもりだ」

と言われても、信じなかっただろう。



「親戚たちの普段の面は知っている。だから小さい頃から彼たちと関わりたくなかった」

イズルは軽くフンした。

「以前は対応してくれる人がいたから、オレは気楽に暮らしてた……これからは、自分で対応するしかない。嫌でも、親戚は親戚だから」

イズルが遠いところを眺めている。

リカは彼の目から寂しさを感じた。

でも、イズルはすぐその陰気を振り払って、チャラい笑顔になった。

「何にぼうっとしている?その立派の意気込みに加点すべきじゃない?」

「……」

ほかの返事が見つからないから、リカはスマホで適当に加点をした。

「そろそろ行こう。万代家に行くだろ。駅まで送る」

イズルは駐車場のほうを指さした。

断る理由もないので、リカは彼について行った。



駅まで来たら、イズルはカッパー色のスマホをリカに返した

「スペアでもパスワードを設定したほうがいいと思うよ」

「?」

リカはイズルの話を理解できないように、目をぱちぱちした。

「安心しろ。オレは他人のプライベートを探る悪趣味はないから、地図アプリ以外に何も触っていない」

「スペアではない。パスワードがないのは、秘密がないから。あなたに見られても問題にならない」

「……その話、オレを舐めているように聞こえるけど……まあいい、気を付けて行ってきてください」

イズルは笑顔で手を振って、リカを見送った。



二人が別れたら、リカの目の色が深まった。

万代家でどんな状況が待っているのか分からない。

邪魔が出てこない保証はない。

気を引き締めて、順調を祈るしかない。



万代家の本部は副都心部のある商業地域にある。

日常事務を処理する部門はフォースグリーンという複合型の高層ビルの中にある。そのビルで開業する平凡そうに見える会社やお店は、大体万代家と何らかのつながりを持っている。

いざとなる時に、万代家のカモフラージュにもなる。

リカは一般客でも使えるガラスのエレベータに乗って、上の階層に昇った。

ガラスの窓から遠い向こうに建設中の広い土地が見える。

あれは万代家が新しく買った土地だ。万代家の勢力は郊外から都心部に侵入している。それは、この組織の野望がだんだん表舞台に上がっていることを示している。

リカは17階でガラスのエレベータから降りて、内部スタッフ専用の裏側のエレベータに向かった。



エレベータの前に着いたら、ちょうど扉が開かれた。

エレベータの中から、知っている人の姿が現れた。

武内たけうちさん、お久しぶりです」

リカは進んでその人に挨拶をした。

「おお、リカ。久しぶりだな」

武内という人は、五十代前半の男。

リカの祖父、天童大宇てんどうだいうの腹心にあたる人物だ。

中肉中背、細い目に柔らかい輪郭、深い灰色のカジュアルスーツを身に纏っている。暗黒家族の幹部より、どこかの企業の部長に見える。

「この間、苦労をかけたな」

武内は申し訳なさそうな表情でリカに言った。

「『ちょっとしたトラブル』に足を引き留められて、昨日の夜戻ったばっかりだ。大宇さんが倒れてから、みんなも取り乱して、相手の攻勢を止めるのに精いっぱいだった。お前のことに疎かになって、本当に申し訳ない」

「いいえ。ご無事で何よりです」

リカは知っている、その「ちょっとしたトラブル」は、一歩を間違えたら、二度と戻れないくらいのものだった。

彼女の両親も「ちょっとしたトラブル」で、外国のクライアントの屋敷に軟禁されている状態だ。

「これからは安心だ。今回の茶番劇はもうすぐ終わるだろう」

武内の話から、風が変わる匂いがした。

「祖父の状況は……」

武内はその質問に直接に答えしなく、ただ穏やかな笑顔を見せた。

「もう心配はいらない。不要な情報を知っていてもお前の悩みになるだけだ。すべては、大丈夫だ」

「……わかりました」

小さい頃から、リカはこのような問答に慣れている。

いろいろ教えてくれないが、すべては適切に処理してくれる。

彼女は用意済みの道を歩くだけで十分だ。

祖父は彼女を粗末するのではなく、その逆、彼女のことをとても重要視しているから、トラブルに巻き込まれないように布石している。

異世界から帰った後、祖父の部下たちに連絡して、仲間たちに助けを求めていたが、みんな、連絡が取れないか、適当に返事するだけだった。

今の武内の話を聞いたら、その対応は祖父の指示かもしれないと思った。

祖父は自分のことを大事にしているのが分かる。

けど、七龍頭の一人、家のトップとして異世界に残された人たちを助けなかったことは、やはり棘のようにリカの心を刺す。

祖父のほうからも支援をもらえないなら、万代家の力で人を助けに行くのはもう不可能と言える。

ほかの派閥の人たちは疫病神を避けるように彼女を避けている。反対派の人は彼女を家から追い出すことに一心。

もともと、祖父のいない七龍頭会議で断られた後、すでに家を出ることに決意しんだ。

今ここに戻ってくるのは、イズルとイズルの力から希望が見えたから。

その希望を現実的なものにするために、祖父を説得しないと……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...