寂しいからそばにいて(仮)【『無冠の皇帝』スピンオフ】

有喜多亜里

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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

81【異動編30】横縦ぐるりで魚の開き

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【パラディン大佐隊・執務室】

パラディン
「〝魚〟?」

一班長・ハワード
「はい。移動隊形を縦にした状態がそのように見えるそうです。また、副班長隊が旋回するところは、魚を口から切り割いて開きにしているように見える……と九班長が」

パラディン
よりはましだが……グロい」

一班長・ハワード
「そうですよね……大変申し訳ありません……やはりまた考え直して……」

パラディン
「いや、待てよ? ということは、こちらを向いているのは、魚の表側になるな?」

一班長・ハワード
「は?」

パラディン
「うん、〝魚〟でいいよ。確かに、移動隊形が縦になって飛んでいく姿は魚に見える。今はまだ二匹しかいないが、これからどんどんその数を増やしていってほしい」

一班長・ハワード
「……了解いたしました。それと、昨日の差し入れのお礼と言っては何ですが、こちらを」

パラディン
「メモリカード?」

一班長・ハワード
「一昨日の訓練で、初めて〝魚〟をしたときの映像です。六班がたまたま撮影しておりました。拙いですが、これが最初の〝魚〟ですので、よろしかったらご覧ください」

パラディン
「へええ。でも、なぜ六班がそんなことを?」

一班長・ハワード
「それは……とても研究熱心な班なので……」

パラディン
「なるほど。だから一位で〝魚〟もできるのか。……あとでさっそく見させてもらうよ。ありがとう」

 ***

パラディン
「〝魚〟か。まったく予想外のネーミングだ」

モルトヴァン
「元ウェーバー大佐隊は、生き物で名前を統一しようとしているようですね。でも、最後に〝開き〟って……いいんですか? 本当に?」

パラディン
「まあこの際、でなければかまわない。あのネーミングだけはどうしても許せなかった」

モルトヴァン
「そうですか? 私もわかりやすいと思いましたが」

パラディン
「いくらわかりやすいと言っても、あれでは絵描き歌だ。あれを一班組のメインにするつもりでいるのに、あんな名前では恥ずかしくて口には出せない」

モルトヴァン
「絵描き歌……なるほど」

パラディン
「やはり、現時点で最高のネーミングは〝ロールケーキ〟だな!」

モルトヴァン
「そうですね。あれを超えるものは、ちょっと出そうにありませんね」

パラディン
「一班長に、このロールケーキを土産に持たせてやればよかったかな?」

モルトヴァン
「半分を〝ファイアー・ウォール〟にして、さんざん遊んだロールケーキをですか? それに、エリゴール中佐に嫌味だと思われて、二度と呼び出しに応じてくれなくなってしまうかもしれません」

パラディン
「確かに、エリゴール中佐なら思いきりありうるな。やはり、今日の昼食と三時に食べるしかないか。昨日のオードブルがくどかったから、今日はあっさりしたものが食べたかったのだが」

モルトヴァン
「仕方ありません。食べ物を玩んだ責任はとらなくては」

パラディン
「でも……笑えたな!」

モルトヴァン
「はい。……笑えました」

パラディン
「これからは〝ロールケーキ〟を護衛隊形の公式愛称にしてもらいたいな!」

 ***

【パラディン大佐隊・第一班第一号待機室】

ハワード
「元四班長! 〝魚〟が認められたぞ!」

エリゴール
「そうか。じゃあ、あとで九班長に〝飴ちゃん〟四個やらないと」

フィリップス
「よかった! ……と、ほんとはあまり喜びたくない……」

ハワード
「〝グロい〟と言われたときには考え直しを覚悟したんだが、こちらを向いているのは魚の表側になるなとよくわからないことを呟かれて、〝魚〟でいいということになった。〝確かに移動隊形が縦になって飛んでいく姿は魚に見える〟と言っていたから、九班長の感覚は特殊ではないらしい。〝今はまだ二匹しかいないが、これからどんどんその数を増やしていってほしい〟とも言っていたぞ」

フィリップス
「ということは、大佐はやっぱりあれをあの配置でやってもらいたいと考えてるわけだな。でも、どうやって増やす? 今度は〝横縦〟……もとい〝魚〟メインで訓練するか?」

エリゴール
「そうするしかないだろうが、出撃はもう三日後だ。そっちの訓練をしている余裕はない。それより、中央のほうをどうにかしたほうがよさそうだな」

フィリップス
「どうにかって?」

エリゴール
「六班から十班が羊の群れに押しつぶされないように強化したい」

ハワード
「十一班と〈オートクレール〉は?」

エリゴール
「あいつらは放っておいても羊の群れを屠りまくる」

フィリップス
「それって十一班を信頼してるってこと?」

ハワード
「いや、〝あいつら〟の中に〈オートクレール〉も確実に含まれてる」

エリゴール
「何にせよ、今は大佐がどんな訓練をしようと企んでいるか知ってからじゃないと動けないな。今度は自分も参加するって言ってたから、また何かとんでもないことを考えていそうな気がものすごくする」

ハワード
「そういや、今日はまだ〝緊急招集〟の連絡が来てないな」

フィリップス
「今回はまだ訓練内容思いついてないんじゃないか?」

ハワード
「〝横縦ぐるり〟がよっぽど腹に据えかねたんだろう」

フィリップス
「おとっつぁんだって、元四班長に却下されてなかったら、俺と同じ目にあってたよ」

ハワード
「ある意味、元四班長に救われたな」

エリゴール
「……来た」

 エリゴール、上着の内ポケットから携帯電話を取り出す。

フィリップス
「まさか……大佐からの呼び出しメール?」

エリゴール
「噂をすれば影って本当だな……」

ハワード
「俺が礼を言いに行ったから、いま元四班長を呼び出そうとしてるのか? それとも、最初からその予定だったのか?」

エリゴール
「どっちにしろ、一班長のあんたは大佐に礼を言いに行かなけりゃならない立場だった。……この隊全体を代表して」

ハワード
「うう……やっぱり俺は〝代表者〟……」

フィリップス
「おとっつぁん、いいかげんもう開き直ろうよ。……ところで、元四班長が呼び出されたってことは、大佐はどこかに出かけようとしてるのか?」

エリゴール
「いや……たぶん、今度の訓練に関することを話すつもりだ」

フィリップス
「え? 元四班長、今まで大佐に演習や訓練の相談もされたりしてたのか?」

エリゴール
「そんなことはない。もし相談されてたら、あんな無茶苦茶な演習や訓練をさせたりなんかしない」

ハワード
「それは確かに」

フィリップス
「実はまだ〝親衛隊長〟は大変だな。十一班にいた頃は、もっと大変だっただろ?」

エリゴール
「途中から、俺専用の移動車用意してもらった」

フィリップス
「うちは異動されたくないけど、大佐の専属班に異動したほうが、体は楽になるんじゃないのか?」

エリゴール
「精神的には苦痛が増す……」

フィリップス
「え?」

エリゴール
「じゃあな……」

 エリゴール、見るからに嫌そうに退室する。

フィリップス
「……元四班長、実は大佐が苦手なのか?」

ハワード
「苦手なら、わざわざ大佐の後を追ってこっちに転属してきたりはしなかったと思うが……設定じゃなくて、本当に〝親衛隊長〟はやめたいと思ってるのかもしれないな」

フィリップス
「もったいないと言いたいところだが、今はその気持ちがわかるような気がする……」

ハワード
「親衛隊はヒラがいちばんいいな」

フィリップス
「ああ。でも、今のうちの実力じゃ、親衛隊にも入れない」

ハワード
「入隊条件、厳しいな」

フィリップス
「たぶん、あのドレイク大佐隊のほうが、コネだけで入れそうだ」

 ***

【パラディン大佐隊・執務室】

パラディン
「うーん……これはこれでいいんだが、バックアップをとる気にはなれないのはなぜだろう……」

モルトヴァン
「単にエリゴール中佐が映っていないからでは?」

パラディン
「うん、そのとおりだ! 早く来ないかな、実物!」

モルトヴァン
「本当に、あっさり認めますね……」
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