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第壱章:室戸/ミサキの事情*
#026:絢爛な(あるいは、SAKARI)
しおりを挟む「ビロードのワンピース? のメイド服? まあ、ありがちっちゃあ、ありがち? いや、ないっちゃあなかったかしらぁん」
僕の案に、よくわからないリアクションのジョリーさん。どっちだよ。
「あとはカチューシャ、エプロン、メイドシューズと。このへんはありもので何とかできるでしょ」
ジョリーさんはざっざと衣装のイメージをスケッチしてまとめていく。流石に上手だ。僕ら三人はそれに見入ってしまうが、
「で、でも『ありもの』ってこのお二方は非常に個性的なサイズなのですが……」
一点、心配になった僕が聞く。
「だいじょうぶよぉ、上は8Lまであるっつうの」
ばちりとウインクされたが、そうなのか。コスプレ界も奥が深い。
「ただ、ワンピースだけは生地が特殊だから特注ね。高くつくわよ?」
「おいおいおいおい、大丈夫だっつうの。何っつっても『溜王』を狙おうとしてるんだぜ? 先行投資は惜しまねえよぉ」
ジョリーさんの言葉にアオナギが余裕の笑みをかますが、今の手持ちはあるんでしょうね、とてもお金持っている風には見えませんけど。と、言わでもの心配をしていると、ジョリーさんは僕を舐めるように見渡した後、ふんふんと頷いた。
「……ま、確かに。このムロっちゃんがいるなら、いくとこまでいっちゃうかもぉぉん。やだぁ、久しぶりに発情してきちゃったぁぁん」
「興奮」でいいだろ。サカってどうする。
「んじゃあ、早速だけど生地選んで。ビロードっていっても色々あるんだからぁ」
布の海、といった感じの棚の一角にしなだれ寄ると、ジョリーさんは色とりどりの光沢の美しい布地を引っ張り出した。
「おおお、すげえじゃんよぉ、こいつは確かにクールかつグレイシアスなソリッド感満載だぜえ」
丸男が興奮しつつ言うが、そのでまかせフレーズ覚えてたのか。恥ずかしいから忘れて。
「……少年、細かいことはお前さんに任すぜ。イメージするところでバシと決めてくれ」
アオナギの言葉に、僕は見た目・質感の異なるビロードたちに次々と手を伸ばしていった。何というか、こういう選定作業は楽しい。初めてここに来て良かったと思うよ。そして、
「……これ、にします。これ、イメージ通りです」
光に当たらないとほぼ黒色。反射によってはじめてその奥ゆかしい色味を露わにする。これだ。これしかない。
「いいぃチョイス。オッケーよぉん。んじゃ、早速取り掛かりましょぉん。採寸するから、あんたらそこに靴脱いで上がってねぇん」
ジョリーさんも納得の選択だったみたいで、ちょっと嬉しい。一段上がったところで上着を脱ぎつつ待つ。がその時、
「いやぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」
何事かと思う悲鳴を上げるジョリーさん。いやまさに何事?
「しくったぁぁぁぁん、これ、緑だけ全然足らないぃぃぃぃ」
僕の選んだ生地を取り出していたようだが、確かに赤、青は充分に巻かれた状態であるものの、緑はほんの1m四方くらいしか無かった。何だってぇぇぇ。
「……じゃ仕方ねえな。他のを選んだら……」
アオナギが言いかけるが、
「だ、駄目です!」
言い放ったのは僕。何だろう、こんなに我を通すタイプだったっけ。
「この色合い、質感でないと駄目です。これ以外だったらイメージ通りにならないんです」
「つっても無いものは無理だろう。時間も無い。妥協するしかねえんじゃねーか?」
もっともなアオナギの意見だが、くぅぅ、せっかく、これならと思えるものを見つけたっていうのに……僕は自分が、このダメ関連の諸々にかなりのめり込んできたことを自覚し始めていた。でもこんな気分、全然悪くはない。それだけにここは、ここだけはと思ったのに……ちくしょう。
「……妥協?」
その時だった。
「ちょと、待って。アタイの辞書に『妥協』の二文字はないのことよ」
突如、真剣な眼差しでジョリーさん。日本語は多少覚束なくなっているけど、何かあるんですね!!
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