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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#048:困惑な(あるいは、電飾少女―electic girl daibal―)
しおりを挟む球場だ、まごうことなき。僕らはどうやら三塁側のダッグアウトから、緑の人工芝が広がるグラウンドにまろび出てきたようで。係員に誘導され、そのままスコアボードが見下ろす外野の方へと向かう。そこには既に数百人は下らないと思われる、奇抜かつ珍妙な様々な格好をした参加者が地べたに座ったり、何やらわいわいしていた。
「これ……球場じゃないですか。何で球場?」
驚きのあまり、何を言ってるか分からない状態の僕に、アオナギがまあまあと手で制してくる。
「これが『神宮地下球場』。大きさは本物と全く変わらない。三万人余りの客を収容できる歴史ある施設だぜ」
アオナギは言いつつ、座れと手で指示してくる。完全に泡食ってる僕は、それに従うほかはないわけで。えー、でもこんなのがあるなんて初めて知ったー。
「溜王戦は毎年ここで行われるんだぜぇ。ここに来るとまた今年もこのシーズンがやってきたなぁ、って、そう思うんよなぁ」
うんうん、と頷きながら丸男。どっか、とあぐらをかき、人工芝に腰を据える。慣れてんな。突っ立っててもしょうがないので僕も腰を降ろすのだけれど。
手で触れたのは初めてだったが、ここの人工芝は思ってたより柔らかで芝一本一本が長かった。いや、そんなことはどうでもいいか。それより、ここで本当にやるわけなんでしょうか。半信半疑の僕を尻目に、周りはだんだんと静かになっていった。ん? 始まるのか?
「レディィィィス、エエエェェン、ジェントルメンっ!!」
いきなり球場一帯に響き渡る拡声音。何か、かわいらしいアニメ声だ。と思うやいなや、スコアボード下に、LEDらしき色とりどりの電飾を巻きつけたような衣装の、一人の少女が姿を現した。そしてその背後の大画面にその姿が大写しとなる。髪はショートのまっピンク。つけまもピンクでものすごい反り返りかただ。メイクもどぎついが、小顔で整った顔は、何か人を惹きつけるものを持っている。要するに、かなりかわいい。
「みんなーっ!! ダメ人間にぃぃぃぃ、なりたいかぁぁぁぁぁぁっ!!」
マイクを手に、びかびかとピンクやら黄色やら黄緑やらに光を放っているその電飾少女が叫ぶ。と同時に、グラウンド上の参加者数百名と、スタンドの客席にいるのだろう、大勢のうおおおおおっという歓声が地鳴りのように響き渡った。何だこの規模感。
「D・N・C!! D・N・C!!」
少女は頭の上で手拍子を取りながら、大多数へとコールを促す。隣のジョリーさんも丸男も大声でそれに応じているが、何この空気。
「……ぅぅぅうるせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
と、電飾少女の一喝。煽っといてそれか。何なのもうこの異空間は。でも予定調和のように、まるで示し合わせたかのように、ふっ、と静寂が訪れる。すごいなこれ。
「……ダメ野郎ども、よくお聞き!!」
キンキンのアニメ声でそう言われても。僕はもう真顔で成り行きを見守ることしか出来なくなっている。
「今日はぁ……年に一度のぉ……お祭りでいぃぃっ!!」
そしてまた煽るんかーい。再び巻き起こるDNCコール。もういいから、はよ進行してー。そう切に願う僕の眼前の大画面に、またしても予想外の文字が躍るのであった。
<溜王国 国歌斉唱>
「みんなぁぁぁっ!! ……ご起立願います」
最後はやけに神妙に言うと、電飾少女は姿勢を正し、右手を胸に当てる。もういいや、流れに任せます。僕も一応立ち上がると、始まった金管の前奏に身を委ねるのであった。
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