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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#077:濁流な(あるいは、ハイパー請け負イストの午後)
しおりを挟む「後手着手限界まで残り25秒ですっ!! 早くしないと凄いのがいきそうですよっ!!」
切羽詰った感のあるリアちゃんの実況だが、なすすべが無い……ッ。僕らのチームの平均時速は今、およそ7~8km。着手可能な「13km」には、遠く及びそうにないわけで。
それにしても、とんでもない切り札を用意していたもんだ。桂馬はまたいつものクールフェイスに戻ると、しっかりと力をセーブしつつペダルを回している。……けど、その隣の忠村寺はというと、相当驚愕な顔であわあわと体を震わせていた。ひと足先に、チームメイトにダメージがいっているようだ。その思い切った告白は僕にとっては尊敬ものだけど、まあ、ねえ。成就……するといいね。僕はすでに諦めの境地で、この場を他人事のように俯瞰している。
「……」
僕なりに、結構がんばった方だろう。この「溜王戦」での対局のひとつひとつを思い出してみる。4勝挙げたんだ。いいじゃないか、お金ももらえたし。そう、自分の中で決着をつけようとしていた。その時だった。
「しょう……ねん……」
隣から、アオナギのかすれた声。何だ?
「脚を少しでも……休めておけ。……向こうのこの攻撃は甘んじて受けるが、それさえ乗り切っちまえば、もう手札はねえはず……」
アオナギはペダルが完全に止まってしまわないように注意を払いながらも、慎重にその漕ぎスピードを緩めていっている。
「あえての、ブースト食らい、だぜ……そして次のカウンターで完膚なきまでに叩き潰す。『請負』だとか関係ねえレベルでな。そのためには脚の温存だ。この対局の、最終コーナーにはもう入ってる。最後の直線、少年のぶちかましに託すぜ……」
にやりとするアオナギだが、しかしひとつ忘れていることがあるのでは?
<先手:33,245pt × 後手:着手なし>
ディスプレイに表示された向こうチームの評点は、やはりというか、かなりの高値をつけているわけで。30,000超え。僕ら3人を屠るには充分すぎるレベルだ。そう、これを凌げなければ、カウンターも何もないじゃないか!! ここはもう棄権した方がいいのでは。これ以上続けてもこちらの勝機は見えないわけだし。しかし、
「少年、俺らを信じて脚を溜めてくれないか。必ず上がる。反撃の狼煙がよお」
アオナギは動ぜず、そう僕に告げると前を向いてまたゆっくり漕ぎに集中し始めた。えー、何その自信。信じて……いいのか?
「ブースト5秒前!! チーム19は耐ショック姿勢を取ってくださいっ!!」
もうヤケだ。どうせ敗れるのであれば、男らしく派手に散ってやろうじゃないか。棄権はしない。今まで僕が対局相手に食らわせてきたKO級の電流、負ける時はそれを受けるのが筋ってもんだ!! そう強引に結論づけると、僕は目を瞑って歯を食いしばり、数秒後に来るだろう、衝撃に備えた。
「……2、1、ブースト!!」
リアちゃんのカウントと共に、凄まじいまでの電流が、僕の肛門から脊椎を貫通し、脳までを貫いた……かに思えた。けどあれ? 何も衝撃が来ないぞ? ……え? 時間差フェイントとかやめてよね。僕はおっかなびっくり薄目を開けてみる。と正面のディスプレイには、
<室戸:0pt―碧薙:0pt―藤堂:33,245pt>
驚愕の数字が。……ええっ? ……丸男っ!? その数字……全てを請け負ったってこと? 慌てて僕は右側を振り向く。そこには、
「直流も交流も……俺には効かない」
何か悟ってる感の目をしたメイド服の巨漢がいるーっ!! なぜ平気?
「……クセになってんだ、電流浴びるの。家庭の事情でね」
丸男がうすら笑いを浮かべながら、僕の方を見てそう言ってくる。こわいよ……丸い大人が僕にワケのわからないコトを言うよ……
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