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第参章:ダメいっぱいの、愛にすべてを
#099:真白なる(あるいは、GIRL MEETS GIRL はじまりのおわり)
しおりを挟む本当に長かった一日が終わった。こんなにも濃密な一日が、これまでの僕の人生の中であっただろうか。
深夜の公園で、どうあがいても脱出不能だった関節技からやっとのことで解放された僕は、サエさんを外苑前駅まで送っていったものの、既にその時点で体中の力が入らなくなりへろへろだったため、逆に引っ張られるかたちで、近くの高そうなホテルへと連れ込まれたのであった。
そして、お金はあるんでしょ、と念押しされた後で、高級タワーホテルの一泊6万以上の一室にチェックインした次第であって。誓って言うけど、その先のことは何もしていない。疲れに疲れた体を何とか支えていた気力もシャワーを浴びた途端に尽き、柔らかそうな巨大なベッドに頭からダイブしたその後の記憶は何も無い。
「……」
翌朝6時前にふっ、と目が覚めた僕は、すぐ隣で可愛らしい寝顔を見せている愛おしい女性の姿を見て、昨日の諸々のことが夢では無かったことを再度、認識するに至った。何というか、夢じゃないと分かった後も、僕はずっと夢心地だ。
枕元にあった自分のスマホをつけると、ありえない数のメッセージが入っていることが告げられてくるが、恐ろしくて開けない。ま、まあ今日会場にちゃんと行けば大丈夫だよね? とにもかくにも、長かった戦いも今日で終わりとなる。なんとなく寂しいような……祭りの後を予感させるような、そんな物悲しい気分に、僕はなっている、と言ったら嘘になる。
「……」
そんなことよりも、いま目の前に横たわる、シーツを巻きつけただけと思われる、その優美なカーブを描く肢体に僕の全神経は集中していた。え? な、何も着てないのだろうか……何気ない動きで、そのシーツの端を引っ張ろうとした時、サエさんの大きな瞳がすっ、と開いた。
「ムロト……ジャグジーもフィットネスも全部出来なかったんだから。朝ごはんくらいは絶対食べて元取るからねっ」
で、ですよねーと応じつつ、命拾いした感でいっぱいいっぱいの僕は、ベッドから降りるとてきぱきと支度をこなしていく。あの関節技を喰らうと、ダメージが骨の髄に来るので御免被りたい。
二人して着替えを済ませ、馬鹿でかいテラスを臨むホールのような大きなレストランにて、お上品かつボリューミーなブレックファストをいただき、すっかり機嫌の良くなったサエさんと手をつないで、まだ人通りの少ない青山通りを歩いて神宮球場へと向かう。全部が全部、夢のようだ。
「……気合いいれなさいよ? 全部に……決着をつけてきなさい!!」
球場の姿が眼前に迫りつつある所で手を振りほどかれ、そのまま背中にばしりと平手を食らった。一瞬、息が詰まるが、僕はサエさんの方を向くと、力強く頷いてみせる。やってやる。やれるところまでやって……決着を!! 決着をつけてやるんだ!!
僕の……僕たちの戦いは……これからだぜっ!!
第参章:ダメいっぱいの、愛にすべてを篇 完
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