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☗1一歩(あるいは、今日という今日、明日という明日)
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「あ、負けました」
言葉に出した途端、今まで曲がりなりにも張りつめさせていた自分の中の何かのうちの一本、的なものが緩みほどけて、あるいはぷつり切れてしまって、みたいな感覚が今回もまたやっぱり襲ってきたわけで。
百二十九手目、後手番の私の投了にて対局は終了。駒台に置いた自分の指先の、中指だけが細かく震えてる気がして、そこに力を入れて止めようとするけど、そうすることで手の甲までが震えてきちゃって。その瞬間、今の今まで現実に目の前そこに在る盤上と、脳内にびしりと埋め込まれたかのような想像の中の盤面とを行ったり来たりしているだけだったあたしの感覚域は、一気に普通の五感を伴ったものへと、ふつり、と切り換わっていく。広々とした和室の、独特の木のようなそれに畳の青いような匂い。開け放たれたふすまの黄ばみ、ところどころでまだ断続的に響いている心地よく鋭い駒音。ほっとした表情をすまし顔で抑えてる、目の前でその細面には不似合いに思えるごつい眼鏡を外して拭き始めた中学生くらいの詰襟学生服の男のコの所作とか。要らん情報量で出来た生温かいゲル状のものに身体全体をくるりと包み込まれたみたいだ。
「……」
その後普通に始まった感想戦も上の空のまま、正座というよりはおしりがぺたりと座布団についてる楽で緊張感の欠片もない姿勢で、そこまで寒くもないのに今日から点けられるようになっていた頭上からのエアコンのほどよく調整された温風をつむじ辺りのくせっ毛で無駄に感じているだけの空虚な時間が小一時間ばかり過ぎていった。
五連敗。まずい、やばい。いや、はっきり言って、もうダメだ。
身支度をしてよろよろと。空虚なエレベーターの中の空気ごと運ばれて。会館一階の自動ドアを抜けたら、開けてたピーコートの隙間をぬって想定外の結構な冷気が吹き付けてきてぞわりとしたけど、これは何だろう、心の芯が冷え切ったからってのもあるのかな。でもボタンを留める気力も起きなくてそのまま斜め前方を見るとも無しに猫背気味に、とぼとぼと、本当にとぼとぼと音が出そうなほどとぼとぼと、足を進めていく。一歩出た先にもう直結しているかのJR千駄ヶ谷駅前は日曜の昼下がりなんだけど、イベントは夜からなのかまだ人通りは大したことなく、というか閑散としているまであって、イチョウが徐々に色づき始めている上空の透き通るような黄緑と黄色のグラデーションの綺麗さとは真逆に、機能美に徹したようなコンクリ打ちっぱなしの灰色風景がほとんどを占めている見た目が、今のあたしの心象風景かのようでちょっと笑える。
……笑えんか。
保育園の四歳児クラスの頃から将棋を始めたっていうのは、このご時世でも結構早い方だって言われてて、実際小学校に入る前にはもう、オンの大手対局サイトのどれでも四段とかレーティング2000越えとか余裕で。
誰かの勧めで研修会へ入会したのはいつ頃だっけ。周りからの期待は、あの騒ぎみたいのはすごかったから、あの時の事って逆にあんまり覚えてない。ひとりの時もみんなと遊んでいる時だって、考えていることはいつも将棋、盤面、次の一手。大人たちから自分が何か凄いものとして扱われてるってことだけは分かっていて、だからかえって何でもないよって落ち着いているフリしてたけど、いつも心の中では鼻息荒く、ただただ目の前の盤面に集中没頭して、対局相手のことなんて全然意識しないで、ねじ伏せてやろうくらいにしか思ってなかった。あの頃は、でも楽しかったかも。今は……今は。
……ちょっと寄り道してから帰ろっかな。
そんな、言い訳じみた考えを頭の中でわざわざ言葉に直して、自分に言い聞かせるようにしてからぽこぽこ湧き上がって来ていた考えを全部まぎらわす。改札前でくいと方向転換して左手斜め前方。高架下を通れる方へと殊更ゆっくりの速度で歩き続ける。こじんまりとまとまっていて、そのまま緩やかに下っていく、この通路の感じも好き。鉄骨の隙間から陽の光は柔らかく差し込んで来ていて、時折通過する電車の、まるで周囲の音をシャットするような轟音。自分の内面と、「外界」って言うと大げさかもだけれど、それを繋ぐかのような、ほどよい暗さと明るさ、そこそこの閉塞感と解放感、そしてうるさ過ぎて逆に浸れる静寂みたいな。
それでも反響する自分の足音だけ聴いていると、自然と今日指した三つの敗け局の。疑問手ばかりが頭の中をぐわぐわ回ってきちゃって。やば今自分と向き合うのってちょっとツラ過ぎる……みたいに焦って、早くこの道を抜けて明るさ全開のとこに出なきゃ、とか軽く早足を始めたらローファーの靴底が滑って。
思えばこの時のこんなちょっとした行動が「はじまり」だったような気がする。
おっとと、っと身体のバランスを崩したあたしは思わず左手を通路のコンクリ壁に突いちゃったのだけれど。ざら、とした感触、がしたのは何故か一瞬で、その後に来た感覚は今まで感じたことの無いような不思議なものであって。
何これ。
ひやりとした、つるりとした、固体液体気体の。そのどれでもあるようで、どれでもないような。空間の感覚がまず掴めなくなって、その後に時間がくにゃりと曲がってるところを通り過ぎるかのような、どういう感覚なのかはよくは感知出来てないけど、そう理解できてしまうような。疲れてる時の夢にありがちのような、とんでもなく広くて狭い「通路」のようなものの中をただただ後方から背中含めた全身をぐぐぐいと押し流されていくだけの自分の姿を、全能感、みたいなものを持ったまま俯瞰するように眺めている「自分」も認識できてるみたいな。
これ何だろ立ちくらみ? 視界が上の方からさっと暗くなって白い光がもわもわ蠢いて。っていうのが自分の頭の中で起こっているってことに、さらに気づいて。あれれ。ついに真っ暗闇になってしまった中を、頼りなげに左手を前に伸ばしたまま、ふらふらと、それでいてすごく規則正しく真っ直ぐに足を繰り出していく自分。狭いトンネルみたいだな、って思ったのは最初だけで、だんだん周りの圧迫感が無くなって、感じる「広さ」みたいなのが自分中心に拡張していく気配がして。
まったく周りのことは見えていないけれど、真っ黒な宇宙みたいな空間に、青白い直線がしゅんしゅん走っていっているのを感じていた。結構な本数、何本も、すごい遠くまで。奥行の方へと進んでいく平行線がたくさん、とそれに直角に交わるようにして右と左からも光線がすごい勢いで放たれていってるよ、昔の映画で観たSF的な何かみたい。とか思ったけど、やっぱりあたしにはそれらの青白光線が形作る「長方形」らっていうのは、盤面の「枡目」にしか見えないわけで。その長方形に律儀に踏み入れながら、2八あたし、2七あたし、とか非現実感から遠ざかりたいばかりにそんなことを呟いたりしてみるけれど、かえってそれが現実からは一歩二歩と着実に離れていっているように思えて。それでも歩くということをやめないまま、やめられないまま、真顔で固まったままなわけでいるばかりで。
でも心地よい。生温かさとぬるりとした触感。それが何でか爽やかさみたいなのを伴って、あたしの身体の表面ばかりでなく、心にぐず付いて重く硬くこびりついていたあれこれをもこすり落としてくれるかのようで。何も考えなくていい時間。空間? ぽーっとしたまま誘われるように前へ、前へと。何も見えてないはずだけれど、前の辺りがほんわり明るくなってきているように思えた。ああ、あそこが出口かな。今の今までの顛末を鑑みてみると、何か分からないけど知らなかった横道みたいなのに入り込んで、そのまま立ちくらみ状態で何とか通り抜けたと。疲れてんのかな、寄り道やめてとっとと帰った方がいいかも……
とは言え一方では、これは夢を見ている、んだろうってことは何となく感じていたけれど。そうであっても少しこのままこの心地よさに身を委ねておいてしまおう……的な、そこまでのメンタルに落とし込まれている自分に気づいて力無い笑いを無理やりに浮かばせてみたり。でも結構気温低めだったし、路上で寝ちゃうのはちょっとまずいよね、っていうか体冷えちゃうよりも何よりも、まがりなりにも女子高生が何でもない地面に寝転がっていたらそれは事件だよね騒がれちゃうよね下手したら拡散だよ……
うわーやばい。どんどん意識が自分でもよく分からなくなっていくぅぅぅ……
「……」
ふ、と、ぐわぐわ自分の周りで自転公転していたかのようないくつもの意識、「自意識」? みたいのが、しゅぽとまた一つにまとまった、気がした。その瞬間には頭も体も何ていうかの爽快感が満ちているようで。視界もクリア、ちょっと深めに吸い込んでみた空気もひやりとしていて澄んでいる感。でも、
「ニャフフフフ……どうやら自ら『こちら』に向けていざなわれし、これはそう、まさにの運命の勇者が光臨グ、現れたのですにゃんね……」
どぎつい桃色の雲だ……それが足元をもんわり全土覆っていて、それが見渡す限りの巨大な空間に満ち満ちている……見える範囲の空の色は何だろう緋色とでも表現したらいいのかなうぅん見慣れない色だぁ……
そして甲高いながらもどこかアンニュイな声が多分あたしに向けて放たれてきたのだろうけれど、その声の主は、ピンク雲の他に何もない「雲平原」みたいなところにぽつり置かれた、やけに背の高い肘掛け籐椅子みたいなのにしなだれ腰かけている、何か紫のシースルー気味のローブみたいのを纏った細身の女の人、らしかった。でも、
「私の名は『ネコルニエル=セカンドタロゥネスヨンティアゴスティーニ神』……貴女のような者が現れるのを待っていたのですにゃにゃん……そう、私の創造せし、完璧なる『世界』こと、『ジャポネスィック=ライカァチィェェス界』の危険がいま、アブない……ッ!!」
その言い放った言葉は多分日本語なんだろうと思うのだけれど、突拍子も無い固有名詞込みで、言ってることが何が何だか一ミリも分かんない。
言葉に出した途端、今まで曲がりなりにも張りつめさせていた自分の中の何かのうちの一本、的なものが緩みほどけて、あるいはぷつり切れてしまって、みたいな感覚が今回もまたやっぱり襲ってきたわけで。
百二十九手目、後手番の私の投了にて対局は終了。駒台に置いた自分の指先の、中指だけが細かく震えてる気がして、そこに力を入れて止めようとするけど、そうすることで手の甲までが震えてきちゃって。その瞬間、今の今まで現実に目の前そこに在る盤上と、脳内にびしりと埋め込まれたかのような想像の中の盤面とを行ったり来たりしているだけだったあたしの感覚域は、一気に普通の五感を伴ったものへと、ふつり、と切り換わっていく。広々とした和室の、独特の木のようなそれに畳の青いような匂い。開け放たれたふすまの黄ばみ、ところどころでまだ断続的に響いている心地よく鋭い駒音。ほっとした表情をすまし顔で抑えてる、目の前でその細面には不似合いに思えるごつい眼鏡を外して拭き始めた中学生くらいの詰襟学生服の男のコの所作とか。要らん情報量で出来た生温かいゲル状のものに身体全体をくるりと包み込まれたみたいだ。
「……」
その後普通に始まった感想戦も上の空のまま、正座というよりはおしりがぺたりと座布団についてる楽で緊張感の欠片もない姿勢で、そこまで寒くもないのに今日から点けられるようになっていた頭上からのエアコンのほどよく調整された温風をつむじ辺りのくせっ毛で無駄に感じているだけの空虚な時間が小一時間ばかり過ぎていった。
五連敗。まずい、やばい。いや、はっきり言って、もうダメだ。
身支度をしてよろよろと。空虚なエレベーターの中の空気ごと運ばれて。会館一階の自動ドアを抜けたら、開けてたピーコートの隙間をぬって想定外の結構な冷気が吹き付けてきてぞわりとしたけど、これは何だろう、心の芯が冷え切ったからってのもあるのかな。でもボタンを留める気力も起きなくてそのまま斜め前方を見るとも無しに猫背気味に、とぼとぼと、本当にとぼとぼと音が出そうなほどとぼとぼと、足を進めていく。一歩出た先にもう直結しているかのJR千駄ヶ谷駅前は日曜の昼下がりなんだけど、イベントは夜からなのかまだ人通りは大したことなく、というか閑散としているまであって、イチョウが徐々に色づき始めている上空の透き通るような黄緑と黄色のグラデーションの綺麗さとは真逆に、機能美に徹したようなコンクリ打ちっぱなしの灰色風景がほとんどを占めている見た目が、今のあたしの心象風景かのようでちょっと笑える。
……笑えんか。
保育園の四歳児クラスの頃から将棋を始めたっていうのは、このご時世でも結構早い方だって言われてて、実際小学校に入る前にはもう、オンの大手対局サイトのどれでも四段とかレーティング2000越えとか余裕で。
誰かの勧めで研修会へ入会したのはいつ頃だっけ。周りからの期待は、あの騒ぎみたいのはすごかったから、あの時の事って逆にあんまり覚えてない。ひとりの時もみんなと遊んでいる時だって、考えていることはいつも将棋、盤面、次の一手。大人たちから自分が何か凄いものとして扱われてるってことだけは分かっていて、だからかえって何でもないよって落ち着いているフリしてたけど、いつも心の中では鼻息荒く、ただただ目の前の盤面に集中没頭して、対局相手のことなんて全然意識しないで、ねじ伏せてやろうくらいにしか思ってなかった。あの頃は、でも楽しかったかも。今は……今は。
……ちょっと寄り道してから帰ろっかな。
そんな、言い訳じみた考えを頭の中でわざわざ言葉に直して、自分に言い聞かせるようにしてからぽこぽこ湧き上がって来ていた考えを全部まぎらわす。改札前でくいと方向転換して左手斜め前方。高架下を通れる方へと殊更ゆっくりの速度で歩き続ける。こじんまりとまとまっていて、そのまま緩やかに下っていく、この通路の感じも好き。鉄骨の隙間から陽の光は柔らかく差し込んで来ていて、時折通過する電車の、まるで周囲の音をシャットするような轟音。自分の内面と、「外界」って言うと大げさかもだけれど、それを繋ぐかのような、ほどよい暗さと明るさ、そこそこの閉塞感と解放感、そしてうるさ過ぎて逆に浸れる静寂みたいな。
それでも反響する自分の足音だけ聴いていると、自然と今日指した三つの敗け局の。疑問手ばかりが頭の中をぐわぐわ回ってきちゃって。やば今自分と向き合うのってちょっとツラ過ぎる……みたいに焦って、早くこの道を抜けて明るさ全開のとこに出なきゃ、とか軽く早足を始めたらローファーの靴底が滑って。
思えばこの時のこんなちょっとした行動が「はじまり」だったような気がする。
おっとと、っと身体のバランスを崩したあたしは思わず左手を通路のコンクリ壁に突いちゃったのだけれど。ざら、とした感触、がしたのは何故か一瞬で、その後に来た感覚は今まで感じたことの無いような不思議なものであって。
何これ。
ひやりとした、つるりとした、固体液体気体の。そのどれでもあるようで、どれでもないような。空間の感覚がまず掴めなくなって、その後に時間がくにゃりと曲がってるところを通り過ぎるかのような、どういう感覚なのかはよくは感知出来てないけど、そう理解できてしまうような。疲れてる時の夢にありがちのような、とんでもなく広くて狭い「通路」のようなものの中をただただ後方から背中含めた全身をぐぐぐいと押し流されていくだけの自分の姿を、全能感、みたいなものを持ったまま俯瞰するように眺めている「自分」も認識できてるみたいな。
これ何だろ立ちくらみ? 視界が上の方からさっと暗くなって白い光がもわもわ蠢いて。っていうのが自分の頭の中で起こっているってことに、さらに気づいて。あれれ。ついに真っ暗闇になってしまった中を、頼りなげに左手を前に伸ばしたまま、ふらふらと、それでいてすごく規則正しく真っ直ぐに足を繰り出していく自分。狭いトンネルみたいだな、って思ったのは最初だけで、だんだん周りの圧迫感が無くなって、感じる「広さ」みたいなのが自分中心に拡張していく気配がして。
まったく周りのことは見えていないけれど、真っ黒な宇宙みたいな空間に、青白い直線がしゅんしゅん走っていっているのを感じていた。結構な本数、何本も、すごい遠くまで。奥行の方へと進んでいく平行線がたくさん、とそれに直角に交わるようにして右と左からも光線がすごい勢いで放たれていってるよ、昔の映画で観たSF的な何かみたい。とか思ったけど、やっぱりあたしにはそれらの青白光線が形作る「長方形」らっていうのは、盤面の「枡目」にしか見えないわけで。その長方形に律儀に踏み入れながら、2八あたし、2七あたし、とか非現実感から遠ざかりたいばかりにそんなことを呟いたりしてみるけれど、かえってそれが現実からは一歩二歩と着実に離れていっているように思えて。それでも歩くということをやめないまま、やめられないまま、真顔で固まったままなわけでいるばかりで。
でも心地よい。生温かさとぬるりとした触感。それが何でか爽やかさみたいなのを伴って、あたしの身体の表面ばかりでなく、心にぐず付いて重く硬くこびりついていたあれこれをもこすり落としてくれるかのようで。何も考えなくていい時間。空間? ぽーっとしたまま誘われるように前へ、前へと。何も見えてないはずだけれど、前の辺りがほんわり明るくなってきているように思えた。ああ、あそこが出口かな。今の今までの顛末を鑑みてみると、何か分からないけど知らなかった横道みたいなのに入り込んで、そのまま立ちくらみ状態で何とか通り抜けたと。疲れてんのかな、寄り道やめてとっとと帰った方がいいかも……
とは言え一方では、これは夢を見ている、んだろうってことは何となく感じていたけれど。そうであっても少しこのままこの心地よさに身を委ねておいてしまおう……的な、そこまでのメンタルに落とし込まれている自分に気づいて力無い笑いを無理やりに浮かばせてみたり。でも結構気温低めだったし、路上で寝ちゃうのはちょっとまずいよね、っていうか体冷えちゃうよりも何よりも、まがりなりにも女子高生が何でもない地面に寝転がっていたらそれは事件だよね騒がれちゃうよね下手したら拡散だよ……
うわーやばい。どんどん意識が自分でもよく分からなくなっていくぅぅぅ……
「……」
ふ、と、ぐわぐわ自分の周りで自転公転していたかのようないくつもの意識、「自意識」? みたいのが、しゅぽとまた一つにまとまった、気がした。その瞬間には頭も体も何ていうかの爽快感が満ちているようで。視界もクリア、ちょっと深めに吸い込んでみた空気もひやりとしていて澄んでいる感。でも、
「ニャフフフフ……どうやら自ら『こちら』に向けていざなわれし、これはそう、まさにの運命の勇者が光臨グ、現れたのですにゃんね……」
どぎつい桃色の雲だ……それが足元をもんわり全土覆っていて、それが見渡す限りの巨大な空間に満ち満ちている……見える範囲の空の色は何だろう緋色とでも表現したらいいのかなうぅん見慣れない色だぁ……
そして甲高いながらもどこかアンニュイな声が多分あたしに向けて放たれてきたのだろうけれど、その声の主は、ピンク雲の他に何もない「雲平原」みたいなところにぽつり置かれた、やけに背の高い肘掛け籐椅子みたいなのにしなだれ腰かけている、何か紫のシースルー気味のローブみたいのを纏った細身の女の人、らしかった。でも、
「私の名は『ネコルニエル=セカンドタロゥネスヨンティアゴスティーニ神』……貴女のような者が現れるのを待っていたのですにゃにゃん……そう、私の創造せし、完璧なる『世界』こと、『ジャポネスィック=ライカァチィェェス界』の危険がいま、アブない……ッ!!」
その言い放った言葉は多分日本語なんだろうと思うのだけれど、突拍子も無い固有名詞込みで、言ってることが何が何だか一ミリも分かんない。
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