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☗2四横行(あるいは、交錯する無限軌道/共有共用なる時空間)
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【対局開始】
無機質なカウントダウンが終わって。素っ気ない音声ではじまりの合図を告げられて。それでも、それだけで、がち、と明らかに敵方とこちら方を挟んだ空気が重さを変えたように感じた。動き出す。動き出すだろう彼我の挙動。どう出る? でもあたしは何でか妙に落ち着いている仲間たちの言葉に従い、ひとまずは「見」の構えを通そうと思っている。足元……地表面と、胸元……くらいの高さの双方に「青白光線」が格子状に走っている「この平面」だけは、周囲の気温からは一段下がった、ひんやりとする空気が覆っている気がした。「盤上」に上げられるのは三度目ではあるのだけれど、最初は混沌のわやくちゃ、次は模擬戦、ということもあったので、こうして実感できる本物の、真剣の「盤面」に立つってのは初めてと言っていいかも。まずは落ち着いて。
「ぬは~ん、☗4四角、は盤上この一手なのだよ、香の成り込みなんてさせないさせない」
「くほほほ、☗1三飛、これも相手桂の『両取り』を見越しての華麗なる浮きの一手だよ」
……も、いられないか。でも飛車角が何故かそう淫靡めいた、ぬらりとした口調で言い放つと同時に移動した「一手」は、派手な一手ではないものの、なるほど、どちらも指されてみれば当然の一着って思えた。そうだよね、慣れてる。あたしよりも数段。
「……」
敵方はまず盤面中央3筋、白駒の利きが直接「王手」になっている一本道に「銀」がやはり遮るように護衛するかのように上がってきた。と同時にそれによって紐づけられることが出来る「2三」の地点に相手桂が華麗な跳躍を決めてふわり着地する。やば、「詰めろ逃れの詰めろ」。かどうかは正確には分からないけど、あたしが逆にその射程圏内に捉えられたのは確か。「王手」だ。うん、慌てさせられつつ、でもゆっくりと間違えないように「2四」へ交わす。そして背後……おしりは銀に守ってもらう。左にはすかさず金が詰めてきてくれて、うん、一瞬で簡易的ながら敵には何もさせないインスタント堅陣が出来上がり。うん……「分かってるひとたちとの共闘感」っていうのかな、この呼吸感最高なんだけど。
そして。
あたしの頭の中で。いま視界に入って見えている光景と、上空二十メートルくらいから俯瞰しているかのような「盤面」が、
「……☗1一角成。ヘペロナ、悪いけど突っ込んで」
がちりとハマって。収束していく「未来絵図」を脳内に描き出したと思った瞬間には、そんな「指示」の声がしっかりとおなかの底の底の方から出ていた。あいあいっ、というような軽く歌うような承諾の返事をその「4四」のマスに置き去りにするかのように、次の瞬間、「角行」の、地を這うというか、超低空でのまさにの超速の疾駆が、盤面自体を逆袈裟に斬り裂くかのように炸裂する。いやぁ……速いよ速い。
「☖同金」
「ん☗同飛成やぁっちゅうねぇぇぇん」
突っ込んだ右奥の角。すかさずその横にいた相手方の「金」に薙ぎ払われ「光球」と散っていく「角」だったものの、間髪入れずの「飛車」の、突拍子も無いねまる声を置き去って、盤面を端から端までぶった斬る超猪突突進が、その仕留め終わりで隙を見せていた「金」へ縦一文字に割らんばかりに肉迫しては次の瞬間、消し飛ばしていく。これぞ阿吽の呼吸ってやつ? 心強いことこの上無いんだけど。
「はにゃあああぁぁぁ……み な ぎ っ て き たはぁああああん……ッ!!」
と、突如、その幼女の輪郭が黒い光に包まれて本当に見た目影になってそれがぐおと伸びた。え。何?
「超!! 絶!! 龍!! 王!! んんんんマカローニャン=トエル=ウル=レドラゴッ!! ゥぅぅ推して参るぃぃぃゃぁはぁぁあああああんッ!!」
一気に野太くなったまでのハスキー声に、常態の時よりさらにイキレ感が上乗せされたかのようなドスも利きまくって、盤上の一角に「黒く眩い光の柱」がいきなりおっ立った。その爆心地にて全身に外連味をまぶしたようなしなやかな肢体が躍っている。光沢の激しいマラカイトグリーンのような光を帯びた長くうねる髪。透明度の高すぎる白い肌は、エナメルホワイトの露出の高い水着のような、それにしては泳いだらすっぽりいってしまいそうな極限面積のV字状の布とどっこいどっこいの眩さで、美しく蠱惑的なプロポーションながら、逆に整い過ぎていて怖いまである。うぅん……「成った」ってこと……だよね。諸々鑑みるとそうだよね。成っちゃいけない何かに成っちゃった感もあるけれど、いやいや戦力としてはこの上無いよね。そこは疑問を挟んでる場合でもないよね……
あたしが摩訶不思議な出来事に真顔で浅い呼吸をしている間にも、「龍王」と化したマカローニャンの右手にはいつの間にか現出していた長尺の錫杖的なもの……が軽々と指先でつまむようにして保持されていて、その龍の頭を模した切っ先の向いている方向は、向かって左方向、ふたマス先の敵方総大将、「玉」へと既に向けられていて。
「一間龍」の形。強烈な一手だ。ガラ空いた相手玉の左どてっ腹に敵方に「取られた」ヘペロナが「ま、無駄なんすけどね、『形作り』って概念ねーんすわ」みたいなてへぺろ顔で現出はされてくるんだけれど、まさにそう。合駒で遮ったとしても、前にいた「銀」が引いて守っても、もう遅い。左辺には白駒が逃がさせない。あとは……
「ハカナ殿、相手の最期の『やぶれかぶれ』には御用心を。勝敗度外視の悪あがきが時として『必死逃れの詰まし』のような事態にもなりますゆえ」
左隣のゼルメダが周囲の警戒を切らずにそう助言してくれるように、「リアルタイム」であることを忘れちゃダメだし、忘れてもいない。通常「詰み」がある必勝局面でも、「二手指し」されたら詰むものも詰まなくなるのがこの「世界」の理、でしょ? 「敵将」を討ち取るまでが対局……ってね。
この「盤面」でひと呼吸をするごとに冴えわたって澄み切っていくかのような脳に引っ張られるようにして、いつかの、傲岸だった自分がずるりと表層に出てくる感じ。うぅん、あたしは自制するように心がけなきゃだわぁぁ……
「『全駒』がもしかして最適解?」
「万全を期すならば」
一瞬、ゼルメダと視線を交わしつつそう聞いてみると、被せ気味に返答が響いてきた。思わず悪そうに歪めた笑みを向かい合わせる。刹那、
「☗2三金。おいッ!! 残党処理にも加われねえで、次こそはちったぁ働けよ、このどん亀『銀』ェァッ!!」
「☗3三白駒、ジェス後詰めお願いねっ」
声も重なっちゃったけど、示し合わせたかのように、お互いが交差するように。動けずにいた敵桂をいつの間にか抜いていた小刀でこれ以上ない居合いにて仕留めているゼルメダと、向かってきた暴れ銀を冷静に「両手突き出し」っていうサマにならない恰好で退けているあたしと。行き違った二人の間で舞ったあたしの黒マントがふわり彼女の鼻先を掠って、それを見て今度はこぼれちゃった自然な笑みを交差させちゃうけれど。
「☗3四白駒、からの☗5二白駒」
慎重に。相手方の動きにも細心の注意を払って。そう動いていけば。そして彼我の「利き」に集中しておけば。相手だって思考しているんだ。それによって行動……「指し手」を決めているんだ。思惑はそれぞれ絡むけれど、絡めば絡むほど、
……それは読みやすくもなる。読み切れればそれは、「先行しての先攻」っていう、通常じゃありえない一手だって放てるはずだから。よし。
〈……マデ、二十四手ヲモチマシテ、先手ノ勝チトナリマス〉
最後は相手の駒全部を討ち倒しての、万全の包囲網を築いてからの「玉」召し取り。あまり上品でも無いし忖度も無いやり方だけれど、万に一つも負けられないから。青白光線が緩むようにしてほどけ、「終局」を告げ知らされる。ほっと一息。と、
「にゃっは~、流石にゃんよな~ハカナは~。どんな些細な『対局』であろうと負けたら脳細胞全部乗っ取られたのち相手の言いなりロボットが如くの殺戮マシーンと成り果ててしまうというのに、それを意にも介さぬ見事な手筋ですにゃにゃん……ッ!! こ、これはこの世界を本当に統べるべき存在へとのし上がっていくのにゃもフゴゴゴッ!?」
いや待って聞いてないんだよなぁ、そのイカれた前提条件はぁぁぁ……!! 「負けられない」言うたばかりだけど、それはあたしの気の持ちようっていうか、所信表明っていうかに過ぎないわけで。そこまで切羽詰まったものではないわけでね。そんなさぁ、自分の机上で気まぐれに作り出したに違いないサイコ設定を小出しにしてくるんじゃあないのよ。鷲掴んだ指と指の輪っかの中で、黒猫がギブギブ言いながら必死にこっちに訴えてくるけど、そのジンジャーエール色の目を無感情に覗き込みながら、やっぱあたしが最前線に出張るのはよほどの時のことにしよう……との考えを馳せるに至る。と、
「……?」
対局が終わったっていうのに、あたしの目の前には白黒のプレートがまだ浮かんでいる。心持ち大きめの。その中には何か四角い点だけで描かれてる、カクカクしてることこの上ないビジュアルの、五人の肩上くらいの画像が薄い黄色の光を放ちながら並んでいるけれど。何だろこれ。説明せよ、との目線を刺しながら、首根っこを掴んでいた手指を動かし、首後ろ摘まみ状態へと移行させる。そんなあたしの塩な対応にもちょっと嬉しそうに食い気味に、猫神さまは例の「説明しようッ」を始めていく……少しは役に立つことを述べてね?
【対局で倒した相手の『棋霊』は運が良ければGET出来るんだぜぃッ!! そしてそれはあなたの交渉術にかかっている……さあ、戦術ががばと広がる『守護精霊』獲得へ向けて、TRY AGAINッ!!】
ぎりぎり分かったような分からんような説明だったけど、「取った相手駒を利用できる」っていうのは将棋においては普通のことだから、まあ頷けないこともない「設定」ではあったので良しとする。というか手駒を増やせるのならかなり有利とも言えるよね。もう諸々は全部飲み下していくスタンスでいかないとだ。これしきの混沌、もう慣れてかないと。
<クッ コロセ!!
→1:メシカカエル
→2:ニガス
→3:ザンシュ スル>
いや「交渉術」言ってたけど三択じゃん……それに何でここだけ何か古さを感じさせる仕様なんだろう……いや飲み下し飲み下し。無駄なことに脳細胞を使っている場合じゃない。とりあえず五人とも「召し抱える」方向で選択肢1を連打していくあたしなのだけれど。
<バッ、バッカジャ ナイノ!!>
<カ、カンチガイ シナイデヨ!!>
<ベッ ベツニ アンタノ タメジャナインダカラネ!!>
<アンタガ ドウシテモ ッテ イウカラ>
<ショウガナク ッテ ダケデ……>
カタカナだけだからでは無かろうな、意味不明な言葉群が流れては消え、そしてその全員が「承諾」の意を示していたということを知り、そのワケわからなさに戦慄する暇もないまま、
「おい……何か嫌な気配だ。今の対局は見られていた……? 気をつけろ、異質な何かが接近しているぜ」
本対局には加わらず、周囲警戒の役を担ってくれていたツァノンの押し殺したような声にはっとなる。静寂を取り戻した「平原」……に思えたけど、何か感じる、あたしにも。
「異質」……っていうのはやっぱり、白駒みたいな存在ってこと? それとも……?
一息つく間も無く、いや、逆に鋭く深呼吸をかましつつ、来るべき「異質」に備えて状況把握に努める。あたしにもはっきりと、首の辺り、肌の薄皮一枚のところらへんで、「嫌な気配」がぞわりと訪れかけていることを感じさせられるのだけれど。やるしかない。
無機質なカウントダウンが終わって。素っ気ない音声ではじまりの合図を告げられて。それでも、それだけで、がち、と明らかに敵方とこちら方を挟んだ空気が重さを変えたように感じた。動き出す。動き出すだろう彼我の挙動。どう出る? でもあたしは何でか妙に落ち着いている仲間たちの言葉に従い、ひとまずは「見」の構えを通そうと思っている。足元……地表面と、胸元……くらいの高さの双方に「青白光線」が格子状に走っている「この平面」だけは、周囲の気温からは一段下がった、ひんやりとする空気が覆っている気がした。「盤上」に上げられるのは三度目ではあるのだけれど、最初は混沌のわやくちゃ、次は模擬戦、ということもあったので、こうして実感できる本物の、真剣の「盤面」に立つってのは初めてと言っていいかも。まずは落ち着いて。
「ぬは~ん、☗4四角、は盤上この一手なのだよ、香の成り込みなんてさせないさせない」
「くほほほ、☗1三飛、これも相手桂の『両取り』を見越しての華麗なる浮きの一手だよ」
……も、いられないか。でも飛車角が何故かそう淫靡めいた、ぬらりとした口調で言い放つと同時に移動した「一手」は、派手な一手ではないものの、なるほど、どちらも指されてみれば当然の一着って思えた。そうだよね、慣れてる。あたしよりも数段。
「……」
敵方はまず盤面中央3筋、白駒の利きが直接「王手」になっている一本道に「銀」がやはり遮るように護衛するかのように上がってきた。と同時にそれによって紐づけられることが出来る「2三」の地点に相手桂が華麗な跳躍を決めてふわり着地する。やば、「詰めろ逃れの詰めろ」。かどうかは正確には分からないけど、あたしが逆にその射程圏内に捉えられたのは確か。「王手」だ。うん、慌てさせられつつ、でもゆっくりと間違えないように「2四」へ交わす。そして背後……おしりは銀に守ってもらう。左にはすかさず金が詰めてきてくれて、うん、一瞬で簡易的ながら敵には何もさせないインスタント堅陣が出来上がり。うん……「分かってるひとたちとの共闘感」っていうのかな、この呼吸感最高なんだけど。
そして。
あたしの頭の中で。いま視界に入って見えている光景と、上空二十メートルくらいから俯瞰しているかのような「盤面」が、
「……☗1一角成。ヘペロナ、悪いけど突っ込んで」
がちりとハマって。収束していく「未来絵図」を脳内に描き出したと思った瞬間には、そんな「指示」の声がしっかりとおなかの底の底の方から出ていた。あいあいっ、というような軽く歌うような承諾の返事をその「4四」のマスに置き去りにするかのように、次の瞬間、「角行」の、地を這うというか、超低空でのまさにの超速の疾駆が、盤面自体を逆袈裟に斬り裂くかのように炸裂する。いやぁ……速いよ速い。
「☖同金」
「ん☗同飛成やぁっちゅうねぇぇぇん」
突っ込んだ右奥の角。すかさずその横にいた相手方の「金」に薙ぎ払われ「光球」と散っていく「角」だったものの、間髪入れずの「飛車」の、突拍子も無いねまる声を置き去って、盤面を端から端までぶった斬る超猪突突進が、その仕留め終わりで隙を見せていた「金」へ縦一文字に割らんばかりに肉迫しては次の瞬間、消し飛ばしていく。これぞ阿吽の呼吸ってやつ? 心強いことこの上無いんだけど。
「はにゃあああぁぁぁ……み な ぎ っ て き たはぁああああん……ッ!!」
と、突如、その幼女の輪郭が黒い光に包まれて本当に見た目影になってそれがぐおと伸びた。え。何?
「超!! 絶!! 龍!! 王!! んんんんマカローニャン=トエル=ウル=レドラゴッ!! ゥぅぅ推して参るぃぃぃゃぁはぁぁあああああんッ!!」
一気に野太くなったまでのハスキー声に、常態の時よりさらにイキレ感が上乗せされたかのようなドスも利きまくって、盤上の一角に「黒く眩い光の柱」がいきなりおっ立った。その爆心地にて全身に外連味をまぶしたようなしなやかな肢体が躍っている。光沢の激しいマラカイトグリーンのような光を帯びた長くうねる髪。透明度の高すぎる白い肌は、エナメルホワイトの露出の高い水着のような、それにしては泳いだらすっぽりいってしまいそうな極限面積のV字状の布とどっこいどっこいの眩さで、美しく蠱惑的なプロポーションながら、逆に整い過ぎていて怖いまである。うぅん……「成った」ってこと……だよね。諸々鑑みるとそうだよね。成っちゃいけない何かに成っちゃった感もあるけれど、いやいや戦力としてはこの上無いよね。そこは疑問を挟んでる場合でもないよね……
あたしが摩訶不思議な出来事に真顔で浅い呼吸をしている間にも、「龍王」と化したマカローニャンの右手にはいつの間にか現出していた長尺の錫杖的なもの……が軽々と指先でつまむようにして保持されていて、その龍の頭を模した切っ先の向いている方向は、向かって左方向、ふたマス先の敵方総大将、「玉」へと既に向けられていて。
「一間龍」の形。強烈な一手だ。ガラ空いた相手玉の左どてっ腹に敵方に「取られた」ヘペロナが「ま、無駄なんすけどね、『形作り』って概念ねーんすわ」みたいなてへぺろ顔で現出はされてくるんだけれど、まさにそう。合駒で遮ったとしても、前にいた「銀」が引いて守っても、もう遅い。左辺には白駒が逃がさせない。あとは……
「ハカナ殿、相手の最期の『やぶれかぶれ』には御用心を。勝敗度外視の悪あがきが時として『必死逃れの詰まし』のような事態にもなりますゆえ」
左隣のゼルメダが周囲の警戒を切らずにそう助言してくれるように、「リアルタイム」であることを忘れちゃダメだし、忘れてもいない。通常「詰み」がある必勝局面でも、「二手指し」されたら詰むものも詰まなくなるのがこの「世界」の理、でしょ? 「敵将」を討ち取るまでが対局……ってね。
この「盤面」でひと呼吸をするごとに冴えわたって澄み切っていくかのような脳に引っ張られるようにして、いつかの、傲岸だった自分がずるりと表層に出てくる感じ。うぅん、あたしは自制するように心がけなきゃだわぁぁ……
「『全駒』がもしかして最適解?」
「万全を期すならば」
一瞬、ゼルメダと視線を交わしつつそう聞いてみると、被せ気味に返答が響いてきた。思わず悪そうに歪めた笑みを向かい合わせる。刹那、
「☗2三金。おいッ!! 残党処理にも加われねえで、次こそはちったぁ働けよ、このどん亀『銀』ェァッ!!」
「☗3三白駒、ジェス後詰めお願いねっ」
声も重なっちゃったけど、示し合わせたかのように、お互いが交差するように。動けずにいた敵桂をいつの間にか抜いていた小刀でこれ以上ない居合いにて仕留めているゼルメダと、向かってきた暴れ銀を冷静に「両手突き出し」っていうサマにならない恰好で退けているあたしと。行き違った二人の間で舞ったあたしの黒マントがふわり彼女の鼻先を掠って、それを見て今度はこぼれちゃった自然な笑みを交差させちゃうけれど。
「☗3四白駒、からの☗5二白駒」
慎重に。相手方の動きにも細心の注意を払って。そう動いていけば。そして彼我の「利き」に集中しておけば。相手だって思考しているんだ。それによって行動……「指し手」を決めているんだ。思惑はそれぞれ絡むけれど、絡めば絡むほど、
……それは読みやすくもなる。読み切れればそれは、「先行しての先攻」っていう、通常じゃありえない一手だって放てるはずだから。よし。
〈……マデ、二十四手ヲモチマシテ、先手ノ勝チトナリマス〉
最後は相手の駒全部を討ち倒しての、万全の包囲網を築いてからの「玉」召し取り。あまり上品でも無いし忖度も無いやり方だけれど、万に一つも負けられないから。青白光線が緩むようにしてほどけ、「終局」を告げ知らされる。ほっと一息。と、
「にゃっは~、流石にゃんよな~ハカナは~。どんな些細な『対局』であろうと負けたら脳細胞全部乗っ取られたのち相手の言いなりロボットが如くの殺戮マシーンと成り果ててしまうというのに、それを意にも介さぬ見事な手筋ですにゃにゃん……ッ!! こ、これはこの世界を本当に統べるべき存在へとのし上がっていくのにゃもフゴゴゴッ!?」
いや待って聞いてないんだよなぁ、そのイカれた前提条件はぁぁぁ……!! 「負けられない」言うたばかりだけど、それはあたしの気の持ちようっていうか、所信表明っていうかに過ぎないわけで。そこまで切羽詰まったものではないわけでね。そんなさぁ、自分の机上で気まぐれに作り出したに違いないサイコ設定を小出しにしてくるんじゃあないのよ。鷲掴んだ指と指の輪っかの中で、黒猫がギブギブ言いながら必死にこっちに訴えてくるけど、そのジンジャーエール色の目を無感情に覗き込みながら、やっぱあたしが最前線に出張るのはよほどの時のことにしよう……との考えを馳せるに至る。と、
「……?」
対局が終わったっていうのに、あたしの目の前には白黒のプレートがまだ浮かんでいる。心持ち大きめの。その中には何か四角い点だけで描かれてる、カクカクしてることこの上ないビジュアルの、五人の肩上くらいの画像が薄い黄色の光を放ちながら並んでいるけれど。何だろこれ。説明せよ、との目線を刺しながら、首根っこを掴んでいた手指を動かし、首後ろ摘まみ状態へと移行させる。そんなあたしの塩な対応にもちょっと嬉しそうに食い気味に、猫神さまは例の「説明しようッ」を始めていく……少しは役に立つことを述べてね?
【対局で倒した相手の『棋霊』は運が良ければGET出来るんだぜぃッ!! そしてそれはあなたの交渉術にかかっている……さあ、戦術ががばと広がる『守護精霊』獲得へ向けて、TRY AGAINッ!!】
ぎりぎり分かったような分からんような説明だったけど、「取った相手駒を利用できる」っていうのは将棋においては普通のことだから、まあ頷けないこともない「設定」ではあったので良しとする。というか手駒を増やせるのならかなり有利とも言えるよね。もう諸々は全部飲み下していくスタンスでいかないとだ。これしきの混沌、もう慣れてかないと。
<クッ コロセ!!
→1:メシカカエル
→2:ニガス
→3:ザンシュ スル>
いや「交渉術」言ってたけど三択じゃん……それに何でここだけ何か古さを感じさせる仕様なんだろう……いや飲み下し飲み下し。無駄なことに脳細胞を使っている場合じゃない。とりあえず五人とも「召し抱える」方向で選択肢1を連打していくあたしなのだけれど。
<バッ、バッカジャ ナイノ!!>
<カ、カンチガイ シナイデヨ!!>
<ベッ ベツニ アンタノ タメジャナインダカラネ!!>
<アンタガ ドウシテモ ッテ イウカラ>
<ショウガナク ッテ ダケデ……>
カタカナだけだからでは無かろうな、意味不明な言葉群が流れては消え、そしてその全員が「承諾」の意を示していたということを知り、そのワケわからなさに戦慄する暇もないまま、
「おい……何か嫌な気配だ。今の対局は見られていた……? 気をつけろ、異質な何かが接近しているぜ」
本対局には加わらず、周囲警戒の役を担ってくれていたツァノンの押し殺したような声にはっとなる。静寂を取り戻した「平原」……に思えたけど、何か感じる、あたしにも。
「異質」……っていうのはやっぱり、白駒みたいな存在ってこと? それとも……?
一息つく間も無く、いや、逆に鋭く深呼吸をかましつつ、来るべき「異質」に備えて状況把握に努める。あたしにもはっきりと、首の辺り、肌の薄皮一枚のところらへんで、「嫌な気配」がぞわりと訪れかけていることを感じさせられるのだけれど。やるしかない。
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