摩訶☗大大大☖異世界 ダイ×ショウ×ギ=レインジャー

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☗2六竪行(あるいは、ディスコルソたる/未知なき道に/既知たる危地)

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〈1×20:?〉

 上空からまたも何の脈絡も無く降って来たその「対局ルール」を一方的に定めては素っ気なく告げてくるだけの畳一畳「プレート」は。

「……」

 二回目にして早くも「イレギュラー感」みたいのをこちらの感覚に擦り付けてくるようで。空模様は相変わらずの曇天のままだけれど、それがより頭上からのしかかるように思えたきたのは錯覚? それよりも情報。「一対二十」。「一」が牛男側であることを祈りたいけど、さっきの「5×たい5」と比較するとこんなに数字の振れ幅大きいんだ。まあ例の「模擬戦」―「歩三兵」もそんなもんか……猫神さまは何と言うか「ランダム」とか「不確実性」をお好みのようだけれど、それ「将棋」には相容れない要素なんだよね……「それを掛け合わせたところに面白さが生まれるのにゃよ」とか言いそうだけど、それをこちらの大事なものを賭けさせた上でやらせるの本当にやめて欲しいわ……いや逃避もだめ。そういうの込みでやるって決めた。よし切り替え。とにかくこちらが「二十」であれば、余裕で全員出撃できる……それで「余裕」が生まれるのかは別の話だろうけど。

「なかなかに出来る分隊のようだぁ……少なくとも各個が躊躇なく『動ける』というのは侮りがたい……がッ!! それはそうやってようやく同じ盤面に立てたに過ぎないのだよ……あたかもプロ棋士とアマチュアが如くにッ!! 実力の差というのは如実に残忍にも横たわるということをその身に刻んであげようじゃあないか……」

 壮年口調の牛頭の怪人がするすると、整然と描き出され始めてきた「青白光線」の区画の方へと謎吸引力によって浮遊移動していく。屈強な腕組みの上の顔は、いまの瞬間、痛烈と思われた幼女リトル交錯クロス膝蹴りボンバーを出会いがしらに食い込まんばかりに喰らわされたとは思えないほどの「平常」さを以て、これから行われるだろう本番の、「対局」の開始を静かに、でも周到さを滲ませながら待っている。ダメージ無いの? わざとらしく牛首を斜に構えつつ、あたしに向けて横目でちらちらと視線を送ってきてるのが、何ともいやらしくて気持ち悪い。

「全員出撃……各自、配置は任せる。とにかく『あいつ』の出方にだけは注意。連携とか各自で考えつつってお願いしてもいい? あたしはとにかくやられるわけにはいかないから」

 無理やり気を取り直して、でも考えはまとまらなくて、申し訳なくも頼れる九人の仲間たちにそんな曖昧な指示を飛ばす。同時にまた全身が浮遊感に包まれつつ「盤面」へと空中移動していくあたしたちだけど、すっと視線をみんなに回してみたらいい顔で頷かれた。頼もしい。けど、あれ? ひとつ「聞いてない」風で強張らせている黒猫の御尊顔も今あったよね……?

 あばばば、なぜなぜ全能神の私も手駒として組み込まれてるのにゃッ? という、何かしらの創造主の意図せぬ不具合バグがあった模様で、「全員出撃」ってワードに巻き込まれちゃったりでもしたのかな……こちらの戦力がプラス1、増強されていく……弾避けくらいになってくれるかも……やっぱ自分の身をもって体験してもらうが何よりよね……という、塩っぽい思考があたしの脳裏をさまよい始める。って場合でも無い。

 そうだ、盤面の広さを表すと言っていた数値が「?」だったということも気になる。牛男から視線を切らないようにしつつ周囲にも視界を向けていくと、木々に囲まれた「平原」の広さは目測二十五メートル四方。プールの授業での感覚を擦り合わせてるだけだけど、広いっちゃあ広いし、狭いっちゃあ……な「盤面」だ。「ひとマス」の大きさはこれも目分量だけど、畳一畳、九十×百八十センチのやや正方形に近く寸詰まりにした感じ。一辺が百二十センチくらいかな……だから多分、この「平原」を埋め尽くしている「マス」の数は二十かける二十で計四百くらいはある計算になる。普通の本将棋が九×九の八十一ハチワンであることを考えると、四面を繋げたって感じか。いやそう考えると確実に広ぅい……

 その「マス目の大平原」の只中に、彼我合わせて存在するのはたったの「十一人」。必然、駒の可動範囲というのは広がるわけだけど、「大駒の動き」……してるってマカローニャンは牛男を評してそう言ってた。飛車角のような動きが出来るのなら、おあつらえ向きのフィールドと言える。どう対応しよう……

「……あまり、ご心配召されなきよう、ハカナ様」

 と、あたしの右隣で着込んだ青白全身鎧をかしゃりと鳴らしながら、ジェスがその銀長髪の下から蒼い眼を少し緩めてそう言ってくれるのだけれど。

「むしろ『金銀』の方が細かく急制動が利く分、立ち回りやすいとも言えるぜ」

 と、こちらも余裕のにやり顔を見せてくれつつゼルメダ。そうだ、「リアルタイム」であることを把握しておかないとダメだよね。白駒あたしもそうだけど、「大駒の動き」というのは強力である反面、「直線的」。例えば「真っ直ぐ前方」へ何マスでも進めるは進めるのだけれど、三マス先と九マス先へ到達するには「リアルな時間」というのが必要ってことは分かっていて、「5九」から「5一」まで縦に突っ切ろうと念じて移動を始めたが最後、途中で止まるってことは出来ない。そういう「仕様」なんだろう。それが長所にも短所にもなり得る。はず。

 「長距離移動には隙が出来る」。途中で曲がることは出来ないし、「突進」の方向を見極めてから躱す、なんてことやられる可能性もあるよね。まあそれは自戒も込めてね。であれば小出しに移動するのが良しとも思えたりもなんだけど、そうなるとあたしは前方への動きは無尽だけど、あとは真後ろしかいけないから確実に挙動の裏を取られる。あぶない。

「お前さんは常に後方だ。常に俺らのどれかをあの牛ヤローとの間に挟め。金ねーちゃんに言われるまでもなく体張んのは当然以上の心構えだからなぁ」

 緑髪さらり。ツァノンはいつも落ち着いているね。それもまた「仮面」なのかも知れないけど、でも助かる。本当に助かるんだ。よし。

「……」
「……」

 とか思ってたら、両脇に小さいコ特有の高めの体温を感じた。ポカとホンタ。たなびく長めの黒マントに埋もれるようにして、あたしのブレザーの裾を握ってきてる。同じ笑顔を見上げてきながら。右は左はおいらがおおいらが固め固めるぜぜぃ……みたいな、ハモっているようで微妙にずれるもんだから変な不協和音みたいな感じになってこちらの聴神経をぞわりとさせてくるんだけど、ここもまた心強いのは確かだ。うん、行こう。「対局開始」がいよいよ告げられ、だだっ広い中での「対局」が、「戦い」がついに始まる。と、

「ははぁ……やはりキミが『王様役割ロゥル』。いやいやまあまあその恰好とかで予測はついていたんだがね。その割には埋もれてるなと、ははぁ……ではではさくりと終わらせるかねえ」

 と、牛男が腕組みしたままでその牛面を歪ませる。明らかにこちらに見せつける表情、そして聞かせるためだけだろう言葉群。てっきり開幕直後から動いてくるかと思ったけど当ては外れた。それとも効いてないみたいな素振りしてたけど、やっぱりさっきの双膝ダブルニーが結構いってたとか。いや希望的観測。それよりも、

「……」

 何気ない横顔して、ヘペロナが一歩、斜め左前に踏み出している……白い髪とフード付きマントがふわりと揺れているからばればれの挙動ではあるんだけど、牛男は黙殺。というか気づいていない振りをしているまである。何で?

「『終わらせる』も何も、『単騎』がどれだけ不利かってのは分かってるはずなんだよっ」
「だからお前は一撃でハカナを討ち取れる隙を狙ってそんな饒舌をカマしてるんだよっ」

 幼女ふたりの鋭い? 指摘にも牛男はにやにや笑いを貼り付かせたままだけれど、少し演技くさい。それすらもブラフの可能性はあるけど、図星を突かれた虚勢って感じもする。うぅん、もう「裏の裏の……」みたいな感じで考えてもどうしようもないように感じるけど、ひとまずの「急戦」が無いのなら、揺さぶるだけ揺さぶってみるだけだよね。あたしが出来ることって今は多分それくらいしかないから。

「……あたしがいかにも『王』の『役割ロゥル』だけれど? そんなのとっくに分かってたんでしょ? だってあたしらは『同じ』、なんだから」

 ハッタリを、カマせ。あ、いや根拠が無いわけじゃあないんだ。だからこれは鋭い推察と、そういうことになるね……

「……自分で認めた上でこちらの情報を引き出そうと? 私は見ての通り『ひとり』だぁ、『王』であることは至極当然。はは、そちらもどうやら打つ手は無いのかな? こんな、お互いの出方を窺う喋りを続けるとはねぇ、はっは」

 当然ここは話には乗っかってくれるとは思ってた。仲間たちの背中を見てたけど、はっきり攻めあぐねって感じだったけど、それは牛男も同じはず。だからここは「言葉」での盤外戦術、不本意だけどそれをカマしていくしか無いと思った。そしてあたしが「同じ」と言ったのは、同じ「王役割」であるってことを言おうとしたわけでは当然無いわけで。

「……あなたも別の世界から来たんでしょ、って言いたかった。そんな姿をしてるけど。もっと言ったらあたしと同じ『日本』から来たんでしょ、って言える。『日本語』を喋っているからってだけじゃなくて」

 ゆっくりと、言葉を紡ぎ出す。周りの仲間の背中は何の事だ、みたいに一瞬止まったけれど、どうやらあたしが斬り込む「隙」を作ろうとしていることは即座に把握してくれたようだ。

「ほう? それは察せられたかぁ……ま、だから何だっていう話ではあるのだけれどねぇ?」

 牛男の佇まいは揺らがない。さっき「プロだアマチュアだ」言ってた。「将棋」のって事だ。それはこの世界にはあるわけが無い。し、あるのは日本だけ。「その恰好で」……あたしのこの制服姿のことだろう。それも概ね日本特有のものだし。だからカマってほどじゃないけど掛けたらその通り、推察は当たった。

 ただ、牛男が「日本人の転移者」であることが分かったからと言って、その当人が言う通り何があるわけでも無さそうな気がした。あえてそこは隠していたというわけでも無さそうだし。うぅん……ネコルさま……とあたしの足元で先ほどからアワワワ……みたいな声しか発せず震えている黒猫に静かに声を呟き落とすけれど。

「……何人くらい、『ここ』に連れ込んだの」

 ふぬぬぬヒトを盛りのついたメス猫のように言うのは罷りならんですにゃおぉん……とか言ってくるけど、情報を、という意を込めた全力の目力を込めて見下ろすと、

「な、『七人』と記憶野には刷り込まれてますにゃ……ハカナ込みで」

 想定していたより少ない。そして「世界を救う」云々言ってたけどもしかして……

「その『転移者』が逆に『世界』を混沌に導いているとか、そんなコトはないよね?」

 情報を正確に収集するためにも、猫神さまを萎縮させないように満面の笑顔を浮かべて聞いてみたのだけれど、相対する黒猫の腰は見事にふにゃりと崩れたのだけれど。

 だ、だって無敵の大正義大将棋パゥワーを与えたのに皆が皆「悪寄り」の欲望吹き溜まり噴き出しまくる怪物モンスターへと変貌を遂げちゃったんにゃもぉぉん……とかこの期に及んで可愛げを振りまき、いやんいやんと猫首を左右に振りつつ切なげな様子でこちらにおもねってくる様子があたしの中の何かをちぎり飛ばしていく……

 そういうこと。あたしは体のいい尻ふき係だったってことぉ……確かにさしたる「欲望」なんてもうこの歳で枯れ果てていた感はあったけどねぇ……何か何と表現したらいいか分からない感情があたしの奥底から突き破って浸食してくるような感じ……あれやばい、あたしも怪物寄りに向かっていっちゃうよ……

 とにかく、奴は倒す。あたしには欲は無くても大切なヒトたちがいるから。できたから。

「……」

 未だにやにや顔を作っている牛男に意識して目を合わせる。「日本人」なら。「将棋指し」なら。絶対に隙を突ける何かがあるはずだ。それを……最大限利用するっ。
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