夢見の楽園

花畑

向日葵

　この花畑には存在しない花ばかりが咲いているのに、どうしてこの向日葵だけが現実的に存在しているのだろうか。
　偽りに混じる本物ー夢の世界にあるものは、人間世界に存在する物の偽物と言ってもいいものであるがーそれはこの夢には似合わない物だった。
　ふむ、と私は暫し考えて、もしやと思い付いた。
　それで私は、そっと手を伸ばして向日葵に触れてみた。
　すると、どくんどくんと私の手に鼓動が伝わってきた。
　これは命の鼓動、命の旋律。
　きっとこれが特別な欠片。
　私はそう確信した。
　私は向日葵の花弁を一枚毟ると、口に入れて咀嚼した。
　ごくりと飲み込んだそれは、私の身体の中で熱を持ち始めた。
　目を閉じて呼吸を整える。
　ふわりと身体が浮き上がる感覚があり、その次に足が引っ張られるように感じた。
　落ちているのか、浮いているのか。
　どちらでもあるが、どちらでもない。
　不思議な感覚に身を委ねていると、何処からか話し声が聞こえた。
　その声は段々と大きくなり、沢山の声に包まれる様な気分になった。
　足に地面の感触が戻り、私は軽く足踏みをした。
　何かの匂いが鼻をくすぐる。
　私は目を開けた。
　其処はもう花畑ではなかった。
　人々が歩き回っていた。
　忙しなく、あるいは穏やかに。
　私は人間界に降り立った。