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第4章
アドバイスという名の(4)
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お腹が空いたからしっかり食べたいとカケルは言って、相談もなく、図々しく行き先をファミレスに決める。
勝手な奴だと思ったが、神田のランチ時は、混雑しているお店が多いので、ファミレスの方が話をしやすいと考え直し承諾する。
カケルは神田に土地勘があるようで、先頭を切って歩いていた。
「あそこ」
彼が指さしたのは、2階にある大型のファミレスだった。
昔ながらのパンケーキが美味しいので、ファミレスの中では一番お気に入りだ。
パンケーキのことを考えた途端に、自分もお腹が空いていることに気付く。
よし、絶対にパンケーキを食べよう。
例の如くカケルが先に店内に入り、ウエイトレスに人数を告げる。
そして、テーブルを挟んで向かい合う席に案内された。
平日の11時。
ランチ前のファミレスは空いている席がほとんどだった。
窓際の席にカケルが座るので、俺は残った通路側の席に座った。
それぞれコートを脱ぎ、黙ってメニューを開く。
俺はパンケーキを念のために確認してから、メニューを閉じた。
それから1分ほどカケルはメニューをめくる。
伏目がちになると睫毛が長いことに気付く。
そして、鼻がすっと高い。
やはりイケメンだ。
かっこいいというより、綺麗な顔立ちというのだろうか。
涼さんはなぜ綺麗なカケルと別れたのだろうか。
注文が決まったようで、カケルはメニューを閉じて、テーブルの上にある呼び出しボタンを押す。
店内にピンポーンと電子音が響いた。
俺は呆気に取られるが、顔には出さないようにする。
彼は自分のペースでことを進めて、俺に「決まった?」など聞くことはない。
それとも、わざと声を掛けてこないのかもしれない。
そんな目でカケルを見るが、彼はテーブルサイドに立ててあるチョコレートサンデーの宣伝を見て「食べられたら、これも行っちゃおうかな」とこぼす。
俺に嫌がらせというわけではなさそうだ。
ウエイトレスが俺たちのテーブルに近付く。
カケルがすぐに注文を口にする。俺はその後に注文をする。
ウエイトレスが去った後、カケルは両ひじをテーブルにつく。両手を体の真ん中で絡ませ、その上に顎を置いた。
「涼さんは翔のどこが気に入ったんだろうね」
品定めをするように、俺の顔に視線を遠慮なく走らせる。
「どこだろうね」
俺も知りたいよ、という言葉は飲み込む。
「2人はいつ、どこで知り合ったの?」
「人に質問をする前に自分のことを話してくれないかな?」
俺は挑発ではなく、追い詰めるわけでもなく、あくまで平然として問いかける。
カケルは付いていた肘をテーブルから離して、椅子の背もたれに寄りかかると、素直に話し始めた。
「2年前になる。涼さんとは、俺たちみたいな人が集まるお店で知り合ったんだ。俺は、その店にはよく行くけど、涼さんは当時付き合っていた人に連れられて来たんだ」
つまり、同性愛者が集まるお店で出会った。涼さんを連れて来たのは、カケルより前の彼氏ってことか。
あの人はどれだけの人数と付き合ってきたのかな。
「涼さんのことはいいなーと思ったけど、お互いに連れがいるから連絡先だけこっそり聞き出したんだ。でも、付き合ってた相手に悪くて涼さんには連絡しなかった」
連絡先を交換すること自体は付き合っていた相手に悪い、という発想はないのだろうか。
「それから半年後、同じお店で涼さんの連れだった人が1人で来てたから、涼さんのことを聞いたんだ。そしたら別れたっていうから、すぐに店を出て連絡して、会う約束を取り付けた」
「随分と行動力があるな」
その場で電話をするなんて、俺には到底出来ない。2、3日は悩む。
カケルは自分に自信がありそうだが、そんなことで悩んだりしないのかもしれない。
「その時、俺もフリーだったからね」
そういう問題じゃないんだけど、カケルには理解してもらえないかもしれない。
「で、会ってお酒を飲みながら食事して、そのまま俺の家でセックスして、付き合うことになったんだ」
出会ったその日にセックスか。
大人なんだから、そんなこと、別に珍しいことではないし、友達からもたまに聞く話だ。
でも、目の前のカケルと涼さんがそうだと考えた瞬間、心臓がキリッと苦しくなる。
おまけに、体の相性は良かったのだろう。良くなければ付き合うわけがない。
ますます、心臓がキリキリッとする。
「問題なく付き合っていたんだけど、半年経ったある日、別れて欲しいって言われた」
その時のことを思い出したのか、カケルは意志の強よそうな眉と眉を寄せて怒りを滲ませた。
「しかも、俺のことを嫌いになったわけじゃないって言うんだぜ、最低な別れの切り出し方だよな」
「本当に嫌いになったわけじゃないことを伝えたかったんだよ」
俺は不本意にもカケルの怒りを収めようと、優しく語りかけていた。
だが、カケルは溜飲を下げることもなく、小さな鼻の穴を膨らませる。
「そんな優しさなんていらない。よほど、別れる素振りを小出しにしてくれた方が優しい。別れを切り出す3日前まで、ベットで甘い言葉を囁いていたんだぜ。俺にとって、あの別れ話は青天の霹靂なんてもんじゃない。もうトラウマの恋になったよ。自分の何が悪かったのかって、ずっと悩んださ」
涼さんとカケルが出会ったのが2年前。それから半年後に付き合って、更に半年後に別れる。
その時期は1年前という計算になる。
1年前。
いつものキーワードが頭から消えない。
「奥さんのことが原因じゃないのかな?」
自分が原因だとは思いたくなくて、別の案を口にする。
「俺と付き合った時から、既に別居してた。それに、俺と別れたのと同じタイミングで離婚もしたって噂で聞いた」
「それじゃ、その時点で他に好きな人ができたのかもしれない」
俺はすぐに別の案をぶつけたが、打ち返す言葉をカケルは口にする。
「俺もそう思って、好きな人が出来たのかって問い詰めたんだけど否定したよ。あれは嘘じゃないと思う」
涼さんとカケルはお互いに好きなのに別れた。
それって、それって、涼さんは兄さんに俺のことを頼まれたからカケルと別れたんじゃないのか?
好きだった人と別れてまで、兄さんの願いを叶えようとしたんじゃないか?
カケルと別れることになったのは俺のせいだ!
勝手な奴だと思ったが、神田のランチ時は、混雑しているお店が多いので、ファミレスの方が話をしやすいと考え直し承諾する。
カケルは神田に土地勘があるようで、先頭を切って歩いていた。
「あそこ」
彼が指さしたのは、2階にある大型のファミレスだった。
昔ながらのパンケーキが美味しいので、ファミレスの中では一番お気に入りだ。
パンケーキのことを考えた途端に、自分もお腹が空いていることに気付く。
よし、絶対にパンケーキを食べよう。
例の如くカケルが先に店内に入り、ウエイトレスに人数を告げる。
そして、テーブルを挟んで向かい合う席に案内された。
平日の11時。
ランチ前のファミレスは空いている席がほとんどだった。
窓際の席にカケルが座るので、俺は残った通路側の席に座った。
それぞれコートを脱ぎ、黙ってメニューを開く。
俺はパンケーキを念のために確認してから、メニューを閉じた。
それから1分ほどカケルはメニューをめくる。
伏目がちになると睫毛が長いことに気付く。
そして、鼻がすっと高い。
やはりイケメンだ。
かっこいいというより、綺麗な顔立ちというのだろうか。
涼さんはなぜ綺麗なカケルと別れたのだろうか。
注文が決まったようで、カケルはメニューを閉じて、テーブルの上にある呼び出しボタンを押す。
店内にピンポーンと電子音が響いた。
俺は呆気に取られるが、顔には出さないようにする。
彼は自分のペースでことを進めて、俺に「決まった?」など聞くことはない。
それとも、わざと声を掛けてこないのかもしれない。
そんな目でカケルを見るが、彼はテーブルサイドに立ててあるチョコレートサンデーの宣伝を見て「食べられたら、これも行っちゃおうかな」とこぼす。
俺に嫌がらせというわけではなさそうだ。
ウエイトレスが俺たちのテーブルに近付く。
カケルがすぐに注文を口にする。俺はその後に注文をする。
ウエイトレスが去った後、カケルは両ひじをテーブルにつく。両手を体の真ん中で絡ませ、その上に顎を置いた。
「涼さんは翔のどこが気に入ったんだろうね」
品定めをするように、俺の顔に視線を遠慮なく走らせる。
「どこだろうね」
俺も知りたいよ、という言葉は飲み込む。
「2人はいつ、どこで知り合ったの?」
「人に質問をする前に自分のことを話してくれないかな?」
俺は挑発ではなく、追い詰めるわけでもなく、あくまで平然として問いかける。
カケルは付いていた肘をテーブルから離して、椅子の背もたれに寄りかかると、素直に話し始めた。
「2年前になる。涼さんとは、俺たちみたいな人が集まるお店で知り合ったんだ。俺は、その店にはよく行くけど、涼さんは当時付き合っていた人に連れられて来たんだ」
つまり、同性愛者が集まるお店で出会った。涼さんを連れて来たのは、カケルより前の彼氏ってことか。
あの人はどれだけの人数と付き合ってきたのかな。
「涼さんのことはいいなーと思ったけど、お互いに連れがいるから連絡先だけこっそり聞き出したんだ。でも、付き合ってた相手に悪くて涼さんには連絡しなかった」
連絡先を交換すること自体は付き合っていた相手に悪い、という発想はないのだろうか。
「それから半年後、同じお店で涼さんの連れだった人が1人で来てたから、涼さんのことを聞いたんだ。そしたら別れたっていうから、すぐに店を出て連絡して、会う約束を取り付けた」
「随分と行動力があるな」
その場で電話をするなんて、俺には到底出来ない。2、3日は悩む。
カケルは自分に自信がありそうだが、そんなことで悩んだりしないのかもしれない。
「その時、俺もフリーだったからね」
そういう問題じゃないんだけど、カケルには理解してもらえないかもしれない。
「で、会ってお酒を飲みながら食事して、そのまま俺の家でセックスして、付き合うことになったんだ」
出会ったその日にセックスか。
大人なんだから、そんなこと、別に珍しいことではないし、友達からもたまに聞く話だ。
でも、目の前のカケルと涼さんがそうだと考えた瞬間、心臓がキリッと苦しくなる。
おまけに、体の相性は良かったのだろう。良くなければ付き合うわけがない。
ますます、心臓がキリキリッとする。
「問題なく付き合っていたんだけど、半年経ったある日、別れて欲しいって言われた」
その時のことを思い出したのか、カケルは意志の強よそうな眉と眉を寄せて怒りを滲ませた。
「しかも、俺のことを嫌いになったわけじゃないって言うんだぜ、最低な別れの切り出し方だよな」
「本当に嫌いになったわけじゃないことを伝えたかったんだよ」
俺は不本意にもカケルの怒りを収めようと、優しく語りかけていた。
だが、カケルは溜飲を下げることもなく、小さな鼻の穴を膨らませる。
「そんな優しさなんていらない。よほど、別れる素振りを小出しにしてくれた方が優しい。別れを切り出す3日前まで、ベットで甘い言葉を囁いていたんだぜ。俺にとって、あの別れ話は青天の霹靂なんてもんじゃない。もうトラウマの恋になったよ。自分の何が悪かったのかって、ずっと悩んださ」
涼さんとカケルが出会ったのが2年前。それから半年後に付き合って、更に半年後に別れる。
その時期は1年前という計算になる。
1年前。
いつものキーワードが頭から消えない。
「奥さんのことが原因じゃないのかな?」
自分が原因だとは思いたくなくて、別の案を口にする。
「俺と付き合った時から、既に別居してた。それに、俺と別れたのと同じタイミングで離婚もしたって噂で聞いた」
「それじゃ、その時点で他に好きな人ができたのかもしれない」
俺はすぐに別の案をぶつけたが、打ち返す言葉をカケルは口にする。
「俺もそう思って、好きな人が出来たのかって問い詰めたんだけど否定したよ。あれは嘘じゃないと思う」
涼さんとカケルはお互いに好きなのに別れた。
それって、それって、涼さんは兄さんに俺のことを頼まれたからカケルと別れたんじゃないのか?
好きだった人と別れてまで、兄さんの願いを叶えようとしたんじゃないか?
カケルと別れることになったのは俺のせいだ!
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