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第7章
誰だって失敗する(3)
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お風呂から出て用意してもらった下着を身に付けた頃には胃のむかつきも気にならなくなっていた。
脱衣所から出ると温かい香りがして、すぐにお味噌汁だと気付いた。
「こっちだ」
廊下の先からカケルの声が聞こえた。俺がお風呂から出たのに気付いていたようだ。
廊下の先はドアが全開になっていて、そこから明るい光が差している。
促されて移動すると、そこは8畳ほどのリビングで、壁一面には大きなガラス扉がある。ガラス越しに見える風景は緑と、キラキラ光る川の水面だった。
「翔の服、乾燥機にかけてる。寝ていたベッドの上に着替えを置いたから、それ着て」
カケルは菜箸を右手、おたまを左手にして、鍋に顔を向けている。
「ありがとうございます」
俺は恐縮しまくって、答える。
カケルが立つキッチンはテレビでみたことがあるアイランドキッチンというやつだった。広くはないが、ガスコンロが2口あり、シンクも大きい。シャツの袖をまくってキッチンに立つカケルは、いかにも料理男子といった佇まいである。
「カケルって、一人暮らしじゃないの?」
自分の一人暮らし時代と比べて、偉く豪華な部屋に、思わず質問をする。
「一人暮らし。教師の給料はそこそこ。母方の実家が不動産業してて、この部屋は親の名義のマンションだから金を払ってない」
カケルの言葉は自慢も卑屈さもない。ただ、事実を淡々と述べる。そして、何度も口にしている台詞だとわかる。
「質問は後でも受け付けるから、とにかく着替えてこい。風邪ひくぞ」
色々なことに圧倒されていた俺は黙って頷き、ベッドのある部屋へと戻る。
ベッドには言葉通りスウェットの上下が用意してあった。これは新品ではないものの、着古した感じではない。恐る恐るタグを調べると、全国展開している雑貨店のものだった。
これなら何かあっても買って返せる。俺は心底ホッとして、着替え始めた。
静かにバイブの振動が聞こえた。
スマホ?
あたりを見渡し、音源を探す。ベッドのサイドボードに置いてあった俺の鞄から振動が伝わる。
慌てて鞄を開けてスマホを取り出す。
画面表示を見て、俺は慌てて電話に出た。
「あっ、しょーちゃん?」
「おはようございます、涼さん」
「えっ」
電話の向こう側で涼さんが言葉に詰まる。それから、小さく笑った。
「もうお昼だよ。寝てたの?」
「いや、ちょっと前に起きたんですけど」
部屋を見渡すと、本棚に時計が置いてある。シルバーウィークの小さな目覚まし時計だ。
近づいて確認する。
12時15分。
もう、こんな時間だったのか。
「もしかして、昨日は飲みにでも行って、寝過ごした?」
「まあ、そんなところです」
まんまと当てられて、俺は気まずくて言い訳をする。
「昨日、飲み過ぎてしまって、記憶も曖昧ないんですよ」
「やけ酒?」
「いや、楽しいお酒だったんで」
「それならいいね。友達と?」
一瞬だけ悩む。そして「はい」と答える。
嘘をついた気持ちになるが、嘘はついてない。
「そうなんだ。もしかして、今ってその友達の家?」
「そうですけど、何でわかったんですか?」
俺はキョロキョロと周りを見渡した。
まさか見られてるわけないのに。
「いや、いつもと違って、声が少し響いて聞こえるから、自宅じゃないだろうと思ったんだ」
涼さんの鋭さに驚くが、さすがにその相手がカケルとは気付かないだろう。
「友達と一緒なら今日は無理かな?」
その言葉で思い出す。
今日は涼さんとゲーム大会の日だ!
自分で今日を指定したのに、忘れていた。
「大丈夫です」
「無理しなくても大丈夫だよ」
涼さんの声は怒ってるようには聞こえない。でも、俺は必死になる。
「本当に大丈夫です」
失敗を帳消しにしたいのと、単純に涼さんに会いたかった。
「だったら、夜に合わない? 今夜は夜通しゲームなんてどう?」
夜通し? それは涼さんの家に泊まるということで・・・。
俺の大人な妄想はドアをノックする音で消される。
「翔、着替え終わったか?」
俺はスマホの話口を手でぎゅっと抑える。カケルの声を涼さんに聞かせるわけにはいかない。
「ま、まだ」
「着替えたら、リビングに来いよ」
「わかった」
小声で返事をして、カケルがドアから離れるのを待ってから、スマホを耳に戻した。
「度々すみません。今、友達に呼ばれて」
「そっか。電話が切れたかと思ったよ」
「夜、何時ごろに行っていいですか?」
俺はあえて深くは考えずに返事をする。気持ち、早口になった。
「6時に駅前の本屋で待ち合わせない? 食料とかお酒の買い出しをしたいし」
「わかりました。楽しみにしてます」
「うん、俺も。それじゃあね」
涼さんから会話を終わらせようとした。俺に気を使ってだろう。
「はい、夜に」
見えない涼さんに頭をぺこりと下げる。
電話はぷつっと切れた。
カケルといることはバレたくない。とにかくバレたくない。
無事に電話を切れたことに安堵のため息がこぼれた。
通話を終えたスマホをいじると、昨夜、涼さんからメッセージが届いていたのに気付く。
内容は明日、つまり今日の予定を訪ねる一文だった。
俺は益々申し訳なくなって、スマホに表示される涼さんのメッセージに「すみません」と謝罪した。
脱衣所から出ると温かい香りがして、すぐにお味噌汁だと気付いた。
「こっちだ」
廊下の先からカケルの声が聞こえた。俺がお風呂から出たのに気付いていたようだ。
廊下の先はドアが全開になっていて、そこから明るい光が差している。
促されて移動すると、そこは8畳ほどのリビングで、壁一面には大きなガラス扉がある。ガラス越しに見える風景は緑と、キラキラ光る川の水面だった。
「翔の服、乾燥機にかけてる。寝ていたベッドの上に着替えを置いたから、それ着て」
カケルは菜箸を右手、おたまを左手にして、鍋に顔を向けている。
「ありがとうございます」
俺は恐縮しまくって、答える。
カケルが立つキッチンはテレビでみたことがあるアイランドキッチンというやつだった。広くはないが、ガスコンロが2口あり、シンクも大きい。シャツの袖をまくってキッチンに立つカケルは、いかにも料理男子といった佇まいである。
「カケルって、一人暮らしじゃないの?」
自分の一人暮らし時代と比べて、偉く豪華な部屋に、思わず質問をする。
「一人暮らし。教師の給料はそこそこ。母方の実家が不動産業してて、この部屋は親の名義のマンションだから金を払ってない」
カケルの言葉は自慢も卑屈さもない。ただ、事実を淡々と述べる。そして、何度も口にしている台詞だとわかる。
「質問は後でも受け付けるから、とにかく着替えてこい。風邪ひくぞ」
色々なことに圧倒されていた俺は黙って頷き、ベッドのある部屋へと戻る。
ベッドには言葉通りスウェットの上下が用意してあった。これは新品ではないものの、着古した感じではない。恐る恐るタグを調べると、全国展開している雑貨店のものだった。
これなら何かあっても買って返せる。俺は心底ホッとして、着替え始めた。
静かにバイブの振動が聞こえた。
スマホ?
あたりを見渡し、音源を探す。ベッドのサイドボードに置いてあった俺の鞄から振動が伝わる。
慌てて鞄を開けてスマホを取り出す。
画面表示を見て、俺は慌てて電話に出た。
「あっ、しょーちゃん?」
「おはようございます、涼さん」
「えっ」
電話の向こう側で涼さんが言葉に詰まる。それから、小さく笑った。
「もうお昼だよ。寝てたの?」
「いや、ちょっと前に起きたんですけど」
部屋を見渡すと、本棚に時計が置いてある。シルバーウィークの小さな目覚まし時計だ。
近づいて確認する。
12時15分。
もう、こんな時間だったのか。
「もしかして、昨日は飲みにでも行って、寝過ごした?」
「まあ、そんなところです」
まんまと当てられて、俺は気まずくて言い訳をする。
「昨日、飲み過ぎてしまって、記憶も曖昧ないんですよ」
「やけ酒?」
「いや、楽しいお酒だったんで」
「それならいいね。友達と?」
一瞬だけ悩む。そして「はい」と答える。
嘘をついた気持ちになるが、嘘はついてない。
「そうなんだ。もしかして、今ってその友達の家?」
「そうですけど、何でわかったんですか?」
俺はキョロキョロと周りを見渡した。
まさか見られてるわけないのに。
「いや、いつもと違って、声が少し響いて聞こえるから、自宅じゃないだろうと思ったんだ」
涼さんの鋭さに驚くが、さすがにその相手がカケルとは気付かないだろう。
「友達と一緒なら今日は無理かな?」
その言葉で思い出す。
今日は涼さんとゲーム大会の日だ!
自分で今日を指定したのに、忘れていた。
「大丈夫です」
「無理しなくても大丈夫だよ」
涼さんの声は怒ってるようには聞こえない。でも、俺は必死になる。
「本当に大丈夫です」
失敗を帳消しにしたいのと、単純に涼さんに会いたかった。
「だったら、夜に合わない? 今夜は夜通しゲームなんてどう?」
夜通し? それは涼さんの家に泊まるということで・・・。
俺の大人な妄想はドアをノックする音で消される。
「翔、着替え終わったか?」
俺はスマホの話口を手でぎゅっと抑える。カケルの声を涼さんに聞かせるわけにはいかない。
「ま、まだ」
「着替えたら、リビングに来いよ」
「わかった」
小声で返事をして、カケルがドアから離れるのを待ってから、スマホを耳に戻した。
「度々すみません。今、友達に呼ばれて」
「そっか。電話が切れたかと思ったよ」
「夜、何時ごろに行っていいですか?」
俺はあえて深くは考えずに返事をする。気持ち、早口になった。
「6時に駅前の本屋で待ち合わせない? 食料とかお酒の買い出しをしたいし」
「わかりました。楽しみにしてます」
「うん、俺も。それじゃあね」
涼さんから会話を終わらせようとした。俺に気を使ってだろう。
「はい、夜に」
見えない涼さんに頭をぺこりと下げる。
電話はぷつっと切れた。
カケルといることはバレたくない。とにかくバレたくない。
無事に電話を切れたことに安堵のため息がこぼれた。
通話を終えたスマホをいじると、昨夜、涼さんからメッセージが届いていたのに気付く。
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俺は益々申し訳なくなって、スマホに表示される涼さんのメッセージに「すみません」と謝罪した。
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