で、手を繋ごう

めいふうかん

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第7章

誰だって失敗する(5)

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「チャンスじゃないか」

「チャンスって?」

聞き返してみたたが、カケルが何を言わんとしているかはわかった。

「白黒つけるチャンスだよ」

予想通りの答えだから、俺は何も口にしなかった。

「夜に会うってことは泊りになるだろう?」

「そうは決まってないけど」

泊まりになることは想定できる。でも、素直になれずに捻たことを口にする。

「彼氏の家に夜に行って、泊まらないなんてことあるか?」

「それはあるんじゃない?」

俺の即答にカケルは少し視線を天井に向けてから「あるな、確かに」と肯定する。

お陰で毒気が抜かれてしまう。捻てる自分がバカだと感じる。

「だけど、泊まる確率が高いと思わない?」

「まあね。でも、お互いの家は徒歩圏内だし、夜が遅くても帰るという選択肢もあるよ」

俺は半分は素直に、半分は素直になるのが怖くて予防線を張る。

「泊まっていい?って迫る選択肢もある」

「そうだけど」

俺が言葉を濁すと、カケルは一瞬だけ、すっと目を細めた。

「でも、何も今日じゃなくてもいいか」

カケルはトーンダウンして、箸を持ち直して食事を再開する。それは俺に対して怒ってるとか、呆れてる訳ではない。

「怖気付いてるんだってわかってるよ」

押してきたと思ったら、引く。カケルは狡くて、優しい。だから、俺の方は態度を変えて素直になってしまう。

「誰だってあるよ」

涼しげに答えながら、カケルはエビチリに箸を伸ばした。

「カケルにはなさそう」

「いや、そういう時もある」

カケルの言葉は味噌汁の中に入ってる野菜のようだ。優しくて甘い。
それは恋人のそれではなくて・・・。

「カケルって、先生にむいてるかも。いつのまにか心を開きそうになる」

「俺、天性の人たらしなんだ。自分でも時折怖くなる」

冗談か本気かわからない。それを含めて、俺の口元は緩んでしまう。

「だから、俺に惚れたらダメだよ」

「惚れないって」

「それなら、どんな真夜中でも酒を飲みたくなったら呼び出してもいい」

「いや、それは・・・」

想像しそうになって、慌ててやめる。
そして、冗談だとわかるようにニヤニヤしながら口を開いた。

「カケルの方が俺のこと好きみたいな台詞になってるよ」

「好きな相手になら、どんな真夜中に呼び出されても抱くからって言うだろう」

平然と返されて、俺はパクパクと口を動かしたが、何も言えなかった。

「とりあえず、飯食って、それから裸にするから」

カケルはご飯を口に入れて、咀嚼する。その一連の所作が綺麗で、言われた言葉が余計に頭に入らない。

「ど、どういう意味?」

情けないことに声が裏返る。が、カケルは全く気に留めない。

「夜の密会に備えて、全身コーディネートするんだよ」

そういうことか。抱くとか、裸にするとか、変な言葉のチョイスに戸惑う。


「それはいいよ。急に変身したら涼さんが驚くから」


「それが狙いなんだよ。好意のある相手が、自分の為に着飾ってくれるのって嬉しくならない?」

「まあね。でも、プレッシャーにもなるじゃない?  相手にも自分も」

自分がそうだったのを思い出しそうになるが、しっかりと蓋をする。

「一理ある」

納得するように、カケルは顎を引いてうんうんと頷く。

「よし、今日は様子見ということにしよう」

「ありがとう、カケル先生」

「出来の悪い生徒だよ、お前は」


カケルは静かにお味噌汁のお椀を口につけて傾ける。喉仏が上下に動くのを見て、俺は知らぬ間に笑っていた。
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