で、手を繋ごう

めいふうかん

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第7章

誰だって失敗する(7)

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本屋から出た俺たちはコンビニに立ち寄った。アルコールが並んでいる冷蔵庫の前に立ったが、昨日、リバースしたばかりなので飲む気にはならなかった。
涼さんには昨日の醜態ことは話したくなかったので、ただアルコールなしでゲームに臨みたいと適当に誤魔化した。
すると涼さんもアルコールのせいで負けたりするのは嫌だと言い、自分も素面で戦うと言い出した。


おじさん二人がバカなことを大真面目に言ってるのが、何となく学生時代に戻ったような気分になった。
もちろん、気分だけで一秒だって過去に戻れることなんてないってわかっているけど。

コンビニでは涼さんが炭酸水、俺がトロピカルアイスティーとなぜかアイスクリームを2つ買った。夕飯は涼さんが何か用意してくれているらしい。

俺と涼さんは歩道を横並びになって歩き、マンションへと向かう。




「涼さんの部屋にたくさんの本がありましたよね」


「1冊本を買ったら、1冊手放すことにしてる。そうでないと、部屋の床が抜ける」


「本代もバカにならないでしょう」


「そうだね。でも、趣味なんて読書とここ1年はゲームだから、たかが知れてるよ」


すっかりあたりは暗くなっていて、街灯だけでは横にいる涼さんの顔がはっきりと見えない。
かえってそれが緊張せずに話ができた。


「意外、インドアなんですね」


「今はね。学生の頃は時間があるから色々なことができたけど、社会人になって限られた時間でやりたいことを優先したらそうなった」


「身体が絞られてるから、毎週サッカーしてます!とかの方が似合う」


「サッカーも野球も、そんなに好きではないよ。試合も見ないし」


「へー、バスケはしてないんですか?」



兄と同じバスケ部だから、好きなことは好きなはず。



「バスケは学生の頃だけ。もともとは某漫画の影響だからね」


「スラムダンク?」


「そうそう」


嬉しそうに目を細めて笑うのが雰囲気でわかった。


「スラムダンクの影響でバスケする人、けっこういましたよね。兄さんもその一人で、部屋にスラムダンク全巻があって、何度も熱く語られました」


「しょーちゃん、スラダン読んでないの?」


「読みましたよ。兄の解説付きで」


「先輩、そんなことするんだ。らしいわ」


涼さんは嬉しそうに声を出して笑い、ますます目を細めて笑った。俺も同じように兄の十代を思い出して笑っていた。


「俺、一時は先輩にみっちゃんって呼ばれてた。背番号14だから」


「そんなバカなことしてるのも兄さんらしい」


「うん。で、先輩の背番号は4だから赤城先輩と返してたんだけど、すっげー嫌がってね」


「兄さん、赤城嫌いだったっけ?」


俺の記憶で兄が赤城を嫌っていることはなかった。むしろ、同じキャプテンとして尊敬している感じだった。


「嫌いではないけど、自分は流川気分だったらしい」


「図々しい! 見た目やがたいから行って、ゴリなのに」


俺はお腹を抱えながら笑う。その時、涼さんの背後から自転車がスピードを上げたまま近づいていた。


「危ない」


俺は涼さんの腕を引っ張って、自転車を避けさせる。涼さんはとっさに一歩俺の方へと身体を寄せた。
俺の右肩に涼さんの左肩が軽くぶつかる。

俺の鼓動は制御のきかなくなったポンプのように跳ねた。


「ありがとう、しょーちゃん」


「いえいえ、どういたしまして」


暗くなっていて良かった。こんなことで赤面しているのを知られたくない。


「兄さん、昔からすぐに影響されやすくて、夢中になった漫画とか小説とかの真似をよくしていました」


「よく本を読む人だったよね、漫画でも小説でも。俺が読書にはまったのも先輩が貸してくれたSF小説がきっかけなんだよね」


その時、運悪く向かいから走ってくる車のライトが涼さんの顔を照らした。

見たくなかった。

そんな表情だった。

目を細めているけど、笑った時とは違って、どこか遠くを見ているそんな目。少しだけ口角は上がっているのに、寂しさしか伝わらない。

兄さんという存在がいない悲しみの顔。
だけど、それは先輩後輩の「それだけ」とは思えないほど、悲しみの中に憂いや苦しみが混ざっているようだった。


兄さんのことを思って、そんな表情をするなんて、やっぱりおかしくない?

そんな表情見たくなかった。



「へー、それはなんていう本ですか?」

俺はさっきの涼さんの顔を記憶から消そうと、必死に話題を変えていく。


「それがさ、少女小説なんだよ」


嬉しそうに話す涼さんの言葉が耳に入っても、どこにもしみ込んでいかなかった。
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