Replica

めんつゆ

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第二章 被害者の会

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――うるさい。 世界中の騒音に耐えられない。

 波北高校三年、蝦名 敏也(えびな としや)は、のそのそと廊下を歩いた。

手入れの行き届いていない黒髪があちらこちらにはね、眉毛もそのまま、短い学ランのズボンから靴下が覗く。

「ちょっとー、さっき蝦名触っちゃったんだけど」

お前がぶつかって来たんだろ。

「で、何でウチの肩撫でんのよ」

「蝦名の呪いー。奴の汚れを分けてしんぜよう」

馬鹿馬鹿しい。

「ぎゃー、やめてよぉ。小学生かってー」

そういうお前も楽しそうじゃないか。

「てか、ちょっと……」

声潜めても何言ってるかは丸わかり。視線が俺に向けられてる。

「うわ、絶対聞こえてたよー。やらかしたね、アヤ」

丸だしの悪意を今更隠したがるのはどうして?

「なにそれぇ、マリカも同罪でしょー」

……ああもう。うるさい。うるさい。

消してしまいたい。

「あいつ何か部活入ってたっけ」

「あー、科学部でしょ」

 一応マナーのつもりだろうか。ボリュームの極端に下がった声が、ひそひそと響く。

本人に聞こえてしまっては意味がないと思うが。

「科学部ー? なにそれ……」

ああ、言ってくれるな。

「『きもい』、だろ」

スイッチを押すだけで明るくなる部室の蛍光灯。

カーテンが日光を遮る。

先を聞きたくなくて此処に駆け込んで来たのに、結局は予測できてしまう。

ありきたりで何の捻りもないその言葉が、俺に向けられるのを。

「きもい」ってどういう意味なんだろう。

「うざい」って「死ね」ってどういう意味なんだろう。

使う人間にとってそれはマイナスの響きを持たない。

だって、笑ってる。

馬鹿みたいに楽しそうに。

ほんと馬鹿みたいだ。

こんなに苦しいなんて。


 棚に無造作に置かれた試験菅やフラスコ、薬品たち。どれもホコリを被りながら、その場に静かに佇んでいる。

なんとなく、彼らはそれで良いんだと思う。

使われるのを望んでいるようには見えない。

 部……、なんていっても波北の科学部は俺だけ。

他の学校だと盛大な実験をレポートにして大会に出したりと活動しているらしいが、なんせ一人ではどうにもならないし、まずそんなものに興味も無い。

 存在している意味はあるんだろうか。この部活も、俺も。

 試験菅に塩酸とアルミのかけらを放り込む。

しゅわしゅわと勢いよく出された泡は叫び。

でも俺は救わない。消える消える。あっけなく潔く。

――消えろ、ぜんぶ








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