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第六章 ベクトル
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「千愛が飲んだとき、それは毒薬だったのかもしれない。栄養剤は毒薬のつもりだった。そう考えれば……」
「つもり……? 待って、意味が……」
「千愛は犯人に毒薬を飲まされた。だけど、犯人の手違いでそれは栄養剤だった。そういう可能性は無いかってことだよ」
千愛に何の症状も表れないのを見て、犯人は自分のミスに気付く。焦ったそいつは何とか千愛を殺そうと。仕方なく屋上から突き落とした。
毒。柊ははっと目を見開いた。なんで今まで気付かなかったんだろう。
「お前、毒飲むのと水ぶっかけられんの、どっちがいいよ」
「柊? なにそれ?」
「鷹谷が私に言った言葉よ。森山、前に言ってたよね? 鷹谷は犯人に脅されて私をいじめてたって。毒だったんだわ。鷹谷は毒を盾に脅されてたのよ」
その瞬間、いろんなものに埋もれていた記憶が顔を出した。悲しそうな、辛そうな。つぶれてしまいそうな、鷹谷の表情。
「……そうか。毒飲むのと水ぶっかけられんの、っていうのは……」
「私に提示した選択肢じゃなかったのよ。お前をこうやっていじめなきゃ、俺は毒を飲まされるんだぞって、そういう意味だったんだわ」
ぶれることはない。ずっとひとりだけ。
「犯人は、蛯名 要なんだ……」
毒を手に入れられるのも、それを他人に信じ込ませられるのも。兄が毒殺事件を引き起こした彼だけ。
「疑いの余地もないよ。犯人を捜そうとすればいつも。俺たちは蛯名 要に辿り着いていた」
柊は深く頷いた。とうとう確信を得ることが出来た。
さあ、復讐を始めよう。「終わり」は、確かに近づいていた。
「つもり……? 待って、意味が……」
「千愛は犯人に毒薬を飲まされた。だけど、犯人の手違いでそれは栄養剤だった。そういう可能性は無いかってことだよ」
千愛に何の症状も表れないのを見て、犯人は自分のミスに気付く。焦ったそいつは何とか千愛を殺そうと。仕方なく屋上から突き落とした。
毒。柊ははっと目を見開いた。なんで今まで気付かなかったんだろう。
「お前、毒飲むのと水ぶっかけられんの、どっちがいいよ」
「柊? なにそれ?」
「鷹谷が私に言った言葉よ。森山、前に言ってたよね? 鷹谷は犯人に脅されて私をいじめてたって。毒だったんだわ。鷹谷は毒を盾に脅されてたのよ」
その瞬間、いろんなものに埋もれていた記憶が顔を出した。悲しそうな、辛そうな。つぶれてしまいそうな、鷹谷の表情。
「……そうか。毒飲むのと水ぶっかけられんの、っていうのは……」
「私に提示した選択肢じゃなかったのよ。お前をこうやっていじめなきゃ、俺は毒を飲まされるんだぞって、そういう意味だったんだわ」
ぶれることはない。ずっとひとりだけ。
「犯人は、蛯名 要なんだ……」
毒を手に入れられるのも、それを他人に信じ込ませられるのも。兄が毒殺事件を引き起こした彼だけ。
「疑いの余地もないよ。犯人を捜そうとすればいつも。俺たちは蛯名 要に辿り着いていた」
柊は深く頷いた。とうとう確信を得ることが出来た。
さあ、復讐を始めよう。「終わり」は、確かに近づいていた。
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