血染めの龍騎士と悪役名無し三男の少女漫画的転生物語

鮎焼き

文字の大きさ
11 / 36

ー???視点3ー

しおりを挟む
人間の顔を見つめていたら、人間もこちらを振り返った。

「名前ないとな、さすがに魔物は…」

「きゅ、きゅー」

名前は既に神から名付けられ、その命が尽きるまで自分の一部になる。
龍族の名前には力も宿っている、とても大切なものだ。

でも、言葉が通じない事がこんなに悲しいものなんだと知った。
名前を名乗っても届かない、永遠に名前を呼んでくれない。

口から出るのは、自分の名前ではなく鳴き声だけだ。

必死に名乗っても、大きな声を出しても聞き取る事は出来ない。

呼ばれても振り返る事が出来ない、気付く事が出来ない。

下を向いて落ち込んでいたら、人間の声が聞こえた。

「きゅーちゃんか、可愛いな」

眩しいくらいの笑みを向けられて、驚いた。
きゅーちゃん…それは言葉が通じない彼が考えた龍の名前だった。

神に名を与えられた龍は、至福の時を感じる。
これで生きていると実感する事が出来るからだ。

でも、それ以上があるなんて龍は知らなかった。

心の奥底に湧き上がるこの気持ちはいったい何なのだろう。
上手く表現出来ないから、とりあえず人間の腕や足に絡みついた。

人間は表情で分かりやすいと言うから、きっと分かるかもしれない。
鏡を見た自分がいったいどんな顔をしているのか。

もう一度名を呼ばれて、嬉しさの表現で動き回る。
人間と龍だけの特別な名前、その名を知っているのも人間と龍だけ。

今この時間を大切にして、残りの木の実を口にした。

きゅーちゃん、まるで龍が口にしていた鳴き声のようだ。
きっとそこからきたのかな、じゃあ人間になったらそうは呼んでくれないのか。

人間になって話がしたいのに、複雑な気持ちになってきた。
ずっときゅーちゃんという名前で呼ばれるにはどうしたらいいんだろう。

君が望むなら、この姿のままでいいように思えた。
でもやっぱり会話がしたいな、いろんな話をしたくなった。

考えれば考えるほど、欲深くなっていくな。

「俺の名前はイルト・アクトリス、よろしくなきゅーちゃん」

「きゅ、きゅい!」

人間には二つ名前があると聞いた事がある。
この場合は、最初の言葉がその人間の名前だ。

イルトと言うのか、名前を呼ぼうと思ったがやはり口にする事が出来なかった。

どうしてこの口は簡単な言葉すら伝えられないのか。

人間にはどうすればなれるのか、何度も神にお願いしたら叶えてくれる?
想いの強さなら誰にだって負けない自信がある。

イルトはなにかを考えているようで、空を見上げていた。
生まれたばかりの頃は何とも思わなかったけど、綺麗だな。

イルトは顔を青くしたり落ち込んだり、表情がコロコロと変わる。
なにかを決意したような真剣な顔になり、龍の方を見た。

その瞳はキラキラと輝いていて、魅入られる。

「きゅーちゃん」

「きゅ?」

「俺は自分の名に恥じない行いをする」

「きゅー」

「俺は悪役なんかじゃないからな!」

なにかがあったのだろうけど、吹っ切れた様子だった。
よく分からない事も言っているが、分かる事もある。

イルトは正しく生きるという事だ。
龍も、イルトの真似をして密かに心の中に宣言した。
イルトが正しい行いをするというなら、龍はなにがあってもイルトを信じる。

たとえ、人間全てが敵に回ったとしてもイルトが正しいと思った事は龍もそう思う。
もしも神が敵に回ったとしても、変わらない。
神の使者として失格だと龍自身もそう思うが、それでも構わないと思えた。

それだけ龍にとってイルトは特別になってきた。

龍の鳴き声は、静かな森の中で響き渡った。
ずっとこの幸せが続くと信じて疑わなかった。

別れは残酷に呆気なく、数日後にやってきた。

いつものようにイルトと食事をしていた時の事。
龍とイルト以外いないはずの足音が聞こえた。

未知なる生物に驚いて、イルトの腕に隠れた。
イルトは俺を庇うように後ろに向けていた。

前と似たような事になり、またイルトに助けを求めるのか。
こんな事じゃダメだ、龍がイルトを守らないと…

イルトの知り合いだろうか、見知らぬ男に笑いかけていた。

それが酷く嫌で、心の奥でモヤモヤした気持ちが大きくなる。
人間は人間と仲良くするのが自然なのは分かる。
龍とイルトの住む世界が違うと思い知らされた。

イルトにしがみついていたが、外されて悲しい気持ちになった。
どうして?彼がだんだん龍から離れていく。

「きゅーちゃん、家に帰りな」

「きゅ?」

「もう罠に掛かっちゃだめだよ」

背中を軽く押されて、すぐにイルトの方を向いた。
なんで、どうして、ずっと一緒にいてくれるんじゃないの?

人間の手があれば引き止める事も出来たのかな。

追いかけたが、人間の全速力には追い付けない。

雪に埋まっていた石につまずいて、体が転がっていった。
起き上がって行こうとした、もうそこには誰もいない。

また、寒い中ひとりぼっちになってしまった。

悲しみの声が、ずっとずっと森の中で響いていた。

寒かった雪が溶けて、本来の森が戻ってきた。

空を見上げると、鳥の囀りが聞こえてくる。

この森は、魔物を捕まえようとする人間が行き来していた。
それ以外は噂話のおかげか誰も人間は来ない。

彼はあれから、一度もこの森に来ていない。

やはり、人間なんて信用するべきではなかったのか。
悲しい気持ちも、もう枯れてしまって感情は動かない。

「あなた、だれ?」

人間の声が聞こえて、人間がいる方を見る。
また悪い人間かと睨みつけたが、子供だった。

子供がこんなところに来るなんて変わっている。
危機管理能力がないのだろう、彼もそうだった。

魔物は見かけた事はないが、いつ魔物が来るか分からない。
面倒だが追い出そうと人間の子供に近付く。

女か、初めて見たが他の人間と変わらない。

いろんな人間を見る度に彼と比べてしまう。
やめたいが無意識にそう思ってしまい、眉を寄せる。

「立ち去れ、ここは子供が来ていい場所じゃない」

「子供って、あなたも子供じゃない!」

人間の子供は頬を膨らませて強気に怒っていた。

人の姿を手にして、大人が良かったが未熟で子供の姿になっていた。
最初は体を動かしにくくて不便だったが、それも慣れてきた。

俺はこれから神の使者として、魔物を浄化していく。
ここでずっと彼を待っていても、きっと俺の事を忘れてる。

俺も前を向かないといけない、人間として龍として神の使者として…

とりあえずこの女を森から追い出す事を考よう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

アイドルのマネージャーになったら

はぴたん
BL
大人気5人組アイドル"Noise" ひょんな事からそのマネージャーとして働く事になった冴島咲夜(さえじまさくや)。 Noiseのメンバー達がみんなで住む寮に一緒に住むことになり、一日中メンバーの誰かと共にする毎日。 必死にマネージャー業に専念し徐々にメンバーとの仲も深まってきたけど、、仲深まりすぎたかも!? メンバー5人、だけではなく様々な人を虜にしちゃう総愛され物語。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。 モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。 こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。 ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか? ※不定期更新です。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

処理中です...