血染めの龍騎士と悪役名無し三男の少女漫画的転生物語

鮎焼き

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誕生日前日

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妹の手首に鎖と薔薇の紋様が現れたのは数日前だった。

ちょうどベアトリスが18歳の誕生日を迎えた頃だろうか、ちょっとした騒ぎになったから覚えている。
未知なるもので、なにかの病気だと思ったのかもしれない。

俺だけは温度差が違い、その騒ぎを冷静に見ていた。
紋様の正体を知っているのは、漫画を見ていた俺だけ。
その事もちゃんとしっかりと描かれていた。

あれは確か純血種と呼ばれる特別な人間の血を持つ人間だけがなるものだ。
人間が龍族と心と体が繋がり、龍族を従わせる事が出来る。
ヒロインだからこそ、その紋様は証として刻まれた。

使い方によってはとんでもない事になってしまう事がある。
でも、漫画ではそんな状態にはなっていない。
完結作品を見たわけではないから、これから先そういうハプニングがあるのかもしれない。

その前に死んでしまった俺は確認する方法がない。
とんでもない事も、内容が詳しく説明されていなかったから分からない。

それでもヒロインというだけで今後も大丈夫だと思える。
これは二人の問題だ、俺は邪魔をせず見守るだけだ。

ベアトリスが龍騎士であるルイスと会ったのか分からないが、ここまで来たんだと不思議な気分だった。

誰と出会って恋愛しようが俺と関係がないからか、今は現実なのにまるで漫画を読んでいる感覚になった。

俺にはもっと他にやるべき事がある、紋様の話よりも大切な事だ。

漫画通りに現実世界でも進行している事がある。
俺がここが漫画の世界だと気付いてからずっと気にしていた事だ。

漫画のストーリーとはいえ犯罪に巻き込まれる妹は見ていられない。
純血種の紋様が出たなら、こんな危ない仕事のきっかけなんてなくても二人は巡り会える。

漫画とは違うが、辛い目に遭わずに妹には幸せになってほしいと思うのは当然だ。
これから先、悪役令嬢として辛い日々が待っていると知っているから余計に…

危ない仕事を知らずにやっているベアトリスに教えた方がいいと行動しようとすると、必ずといっていいほどラルトに邪魔されて仕事に連れて行かれる。

ラルトが言うには、自分以外に話しかけるなという理由らしくて日に日に酷くなっている気がする。
この依存はいけない、ラルトはもっと周りを見た方がいい。

ルイスを連れてくれば、ベアトリスを助けてくれるかもしれない。
ついでに俺はその間にこっそりと家を出ていく事を考えた。
実行しようにも、俺では見張りの目を欺く事は出来なかった。

外に出ても常に誰かが見ていて、逃げ出そうとすると必ずラルトが来る。
俺が自由に過ごすプライベート空間は何処にもない。
そこは、昔と何一つとして変わる事がない。

セトがいない時はラルトがいて、ラルトがいない時はセトがいる。
ラルトも仕事をしているが、どんな仕事か俺にも教えてくれない。

俺の事は何でも知りたいのに、ラルトは隠し事ばかりだ。
この家にいる限り、まともな仕事ではないんだろうという事は分かる。

俺達の関係は歪で一方通行なものなんだろう。
俺からのラルトへの道は何処に向かっているのか今では分からない。

ただ、大切な弟でしかないのに何処で違ったのか。
甘やかしすぎたのかと思うが、俺に対して悪戯をするような子ではないから叱る事もほとんどない。

あるとしたら、俺が逃げ出そうとして逃げないようにコートを奪ったり引き止めた時だ。
それも、叱るというより強く言うぐらいだ。

しかし、俺の言葉なんてラルトに響くはずはなかった。
いつも俺が諦めて、ラルトを喜ばしてしまう。

俺もラルトに対して逃げ出す事に罪悪感でいっぱいになり、振り払う事が出来ない。
手を上げる事は当然ない、暴力をしたらお互い無駄に傷付けるだけだ。

俺の命が掛かっているとはいえ、そこまではしたくなかった。

ラルトもそろそろいい人が出来れば、俺よりその子を優先してくれる。

ラルトの幸せも願っていたが、あれから数年経っているのにラルトにその気配はない。

俺は将来が約束されたベアトリスの未来しか分からない。

俺の仕事は内容は変わっていないが、俺自身は変わった事があった。

体調もあまり良くなくて、たまに意識が途切れる時がある。
自分の体は自分がよく分かる、ボロボロだ。

病院に行っても、すぐにラルトが連れ戻しに来るからまともに医者に診てもらえない。

ラルトの薬は一時的には回復するが、万能ではない。
数時間経つと、異常なほどの過労やめまいや体の異常が押し寄せてくる。

ここまで来ると、ラルトは俺を苦しめて殺す気なのかと疑いたくなる。

部屋で窓を見つめていたら、プライベートをぶち破る勢いで扉が開いた。

「兄様!明日は兄様の誕生日だから、仕事は休んでいいよ!」

「……分かった」

「誕生日はいっぱい遊ぼうね!」

「いや、疲れてるから」

「兄様のために用意した場所があるんだ!20歳の誕生日なんだから素敵な思い出にしたいんだ!」

満面の笑みを浮かべてラルトが勝手に決めて、部屋を出ていった。
ラルトと一緒に出かけると、いろんなところを連れ回すから次の日は筋肉痛で動けなくなる。

過労も追加されているから、余計に地獄の1日になる。

ベアトリスも今後この家を抜け出せる、俺も抜け出さないとな。

とはいえ、逃げないように俺の手元には現金がない。
内緒で仕事が出来るほどラルトの隙を見つけるのは難しい。

逃げるなら監視の目をくぐり抜けて無一文で生活しなきゃいけない。
それでも、ここにいるよりはマシだと思えるほどにここは酷い。

小さくため息を吐いて、ベッドで横になった。
今日は気分が優れないな、仕事がないなら1日は体を労りたい。

目蓋を閉じて眠ると、懐かしい夢を見た。

あれは寒い雪の日、俺ときゅーちゃんは走り回っていた。
1日だって忘れた事はない、あれは俺の人生で一番大切な思い出だ。

何度も森に向かったが、入り口ですぐにラルトに捕まる。
「何しに行くのか」「必要ない」と言われて、連れ戻される。

俺がここで反抗したらラルトが何をするのか分からない。
ラルトの顔がそう思わせて、諦めるしかない。

幸せになってくれたらいいな、俺も約束は守ってるから。

ベアトリスの運ぶものは俺が普通のものに取り替えている。
ラルトは話すのがダメだが、人ではない荷物を見ているように見せたから気付かれてはいないし止める事はなかった。
勝手に食べるわけではないからだろう、さすがに食べようとしたら止められるとは思う。

どう見ても、俺が仕事で食べている白い料理を固める前のものだって分かる。

中身が全然違うものに変えるとバレるから、白い怪しい粉は全て砂糖に変えている。
これなら誰に見られてもすり替えられたとは思わないだろう。

怪しい粉を食べて確認する屈強な人間はさすがにいないよな。

ベアトリスはただ調味料を運んでいるだけ、一般的な調味料で捕まる人はいない。

他の兄弟や両親は手遅れなところまで来ているかもしれない。
俺が怪しいものを食べる事で手助けになっているなら、もうやめないと…

仕事を拒否したら、逃げ出す事も出来ず閉じ込められるだけだ。
今日はキリがいい20歳の誕生日で、初めて仕事がない休日になった。

誕生日の日が、俺が逃げ出す最後のチャンスだ。
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