婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「アデル、少し時間をもらえるか?」

わたくしが大広間の片隅で休憩していると、ロラン殿下が遠慮がちに声をかけてくる。さっきの会見を終えて、貴族や記者たちも少しずつ退席し始めている時間帯だ。

「……はい。何でしょうか、殿下。」

わたくしはまだぎこちない態度をとってしまう。殿下はそんなわたくしの様子に眉をひそめつつ、周囲の人目から離れた小部屋へ案内してくれた。

「改めて、すまなかった。婚約破棄の件で、お前を深く傷つけた。」

殿下がまっすぐに頭を下げる。まさか王子がここまで素直に謝罪するとは思わず、わたくしは言葉を失う。

「わ、わたくしは……あなたが悪意でやったわけではないと理解しています。でも、気持ちの整理がつかないのも事実で……。」

苦しい胸の内を隠しきれず、わたくしは視線をそらす。殿下は近づいてきて、微かにため息をついた。

「お前がどれほど苦しんできたか、想像すると自分が許せない。守りたい一心で、それが結果的にお前を追い詰める形になってしまった。」

「……はい。」

沈黙が降りる。会見で肩の荷が下りたはずなのに、この空気はやけに重い。殿下は言葉を探すようにしばし黙り込み、やがて意を決したように口を開く。

「婚約は……再びやり直してもらえないだろうか。もちろん、今すぐというわけにはいかない。まずは国の混乱を収め、そしてお前が本当に望むなら。」

「やり直し……ですか。」

わたくしは胸がぎゅっと締めつけられる。幼い頃から結ばれるはずだった殿下とわたくし。婚約破棄は悲しかった。だけど、その痛みは簡単には消えない。

「お前の意思を最優先したい。断られても仕方がないと思っている。それでも、俺はもう一度、お前と寄り添いたい……。」

殿下の目が真剣に揺れているのがわかる。わたくしは唇を結び、正直な気持ちを吐き出した。

「嬉しい……でも、怖いんですの。今度もあなたが勝手にわたくしから遠ざかってしまうんじゃないかって。もし同じように嘘をつかれたら、もう耐えられない。」

「それは……俺の甘さだ。今度は絶対にお前を一人にしない。必ず、話し合う。助け合う。約束する。」

強い言葉。わたくしは胸が熱くなるのを感じながら、それでもまだ完璧に信用はできない。時間が必要だ。だから、わたくしはそっと微笑んで首を縦にも横にも振らずに答えた。

「わかりました。今は、まだ何も答えを出せそうにありません。落ち着いたら、ゆっくり考えさせてください。それでもいいですか?」

「……ああ、もちろんだ。お前の気持ちを最優先にしたい。」

殿下は寂しそうな笑みを浮かべるが、それ以上は問い詰めない。わたくしも安易に「はい」とは言えない複雑な心境だ。でも、胸の奥でほんの少しだけ希望の光がともるのを感じていた。わたくしが傷を癒し、再び彼を受け入れられる時が来るのだろうか。そんな未来を思い描きながら、二人きりの部屋を後にする。

殿下との再婚約――まだ答えは出せない。でも、わたくしは自分の気持ちに素直になれるよう、少しずつ歩みを進めるしかないのだ。
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