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幕間
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神霊列車は「黄昏分岐駅」を後にし、再び静かな、けれど深い闇の底を這うように走り出しました。
駅の喧騒が遠ざかり、規則正しく響くレールの継ぎ目の音――ガタン、ゴトンという重々しいリズムだけが車内に満ちています。
お弁当で満たされた体は、心地よい倦怠感に包まれていました。千沙子は座席に身を預け、流れる窓の外を眺めていましたが、やがてその瞼がゆっくりと重くなっていきます。
ふと、隣に座る黒錆の気配を感じました。
彼は、出会った時の刺すような殺気が嘘のように、静かな思索に沈んでいました。
「……眠いなら、寝ろ。次の停車駅までは、まだ刻(とき)がある」
ぶっきらぼうな声でしたが、千沙子は勇気を出して、ほんの少しだけ彼の方へ体を傾けました。
「黒錆さん、あの……」
「なんだ」
「さっき、お弁当を食べた時。お父さんの手のぬくもりを思い出したんです。あんなに大きくて、温かい手に守られていたんだって」
千沙子は、自分のふっくらとした掌を見つめました。
「私、黒錆さんに会うまで、自分が誰かもわからなくて、すごく寒かった。でも、あなたの手も……あの時のお父さんと同じくらい、温かいです」
黒錆は一瞬、言葉を失ったように目を見開きました。そして、鼻を鳴らして顔を背けます。
「馬鹿を言え。俺の手は、血と錆の匂いが染みついた汚れ役の手だ。温もりなど、とうに捨てた」
そう言いながらも、黒錆は隣でこっくりと船を漕ぎ始めた千沙子の肩を、大きな手でぐいと引き寄せました。
千沙子の頭が、黒錆の厚い胸板に預けられます。着流し越しに伝わってくる、力強く、そして少し早まった鼓動。それは千沙子の凍えそうだった魂を、一番深いところから温めてくれる火のようでした。
「お前は、危なっかしすぎるんだ。記憶を切り売りしてまで名前を探すなど、正気の沙汰じゃない」
黒錆の低い囁きが、千沙子の髪を揺らします。
彼は大きな掌を、千沙子のまだ幼さの残る丸い頬にそっと添えました。その指先は、まるで壊れやすい硝子細工に触れるような、痛いくらいの優しさに満ちていました。
「だが、お前がその名をすべて取り戻すまで、俺の隣を空けておいてやる。それまでは、その熱を……俺の錆びた心に、分けておけ」
千沙子の返事は、幸せそうな寝息となって返ってくるだけでした。 黒錆はため息を一つ吐くと、彼女が風邪を引かないように、自分の黒い上着を肩まで深くかけてやりました。 瑠璃色の霊気を吐きながら走る神霊列車の中で、そこだけが、現世と同じ柔らかな時間が流れていました。
駅の喧騒が遠ざかり、規則正しく響くレールの継ぎ目の音――ガタン、ゴトンという重々しいリズムだけが車内に満ちています。
お弁当で満たされた体は、心地よい倦怠感に包まれていました。千沙子は座席に身を預け、流れる窓の外を眺めていましたが、やがてその瞼がゆっくりと重くなっていきます。
ふと、隣に座る黒錆の気配を感じました。
彼は、出会った時の刺すような殺気が嘘のように、静かな思索に沈んでいました。
「……眠いなら、寝ろ。次の停車駅までは、まだ刻(とき)がある」
ぶっきらぼうな声でしたが、千沙子は勇気を出して、ほんの少しだけ彼の方へ体を傾けました。
「黒錆さん、あの……」
「なんだ」
「さっき、お弁当を食べた時。お父さんの手のぬくもりを思い出したんです。あんなに大きくて、温かい手に守られていたんだって」
千沙子は、自分のふっくらとした掌を見つめました。
「私、黒錆さんに会うまで、自分が誰かもわからなくて、すごく寒かった。でも、あなたの手も……あの時のお父さんと同じくらい、温かいです」
黒錆は一瞬、言葉を失ったように目を見開きました。そして、鼻を鳴らして顔を背けます。
「馬鹿を言え。俺の手は、血と錆の匂いが染みついた汚れ役の手だ。温もりなど、とうに捨てた」
そう言いながらも、黒錆は隣でこっくりと船を漕ぎ始めた千沙子の肩を、大きな手でぐいと引き寄せました。
千沙子の頭が、黒錆の厚い胸板に預けられます。着流し越しに伝わってくる、力強く、そして少し早まった鼓動。それは千沙子の凍えそうだった魂を、一番深いところから温めてくれる火のようでした。
「お前は、危なっかしすぎるんだ。記憶を切り売りしてまで名前を探すなど、正気の沙汰じゃない」
黒錆の低い囁きが、千沙子の髪を揺らします。
彼は大きな掌を、千沙子のまだ幼さの残る丸い頬にそっと添えました。その指先は、まるで壊れやすい硝子細工に触れるような、痛いくらいの優しさに満ちていました。
「だが、お前がその名をすべて取り戻すまで、俺の隣を空けておいてやる。それまでは、その熱を……俺の錆びた心に、分けておけ」
千沙子の返事は、幸せそうな寝息となって返ってくるだけでした。 黒錆はため息を一つ吐くと、彼女が風邪を引かないように、自分の黒い上着を肩まで深くかけてやりました。 瑠璃色の霊気を吐きながら走る神霊列車の中で、そこだけが、現世と同じ柔らかな時間が流れていました。
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