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 聖女どころか令嬢としても有るまじき形相で喚きたてるルルアに対しても同意するばかりのリチャードはじめ国王夫妻や側近達シストラ王国の面々。
 ヒステリックに、自分は幸せにならなければならない、だの、リーザロッテを処刑しろ、だのと醜悪な顔で喚き散らすルルアを、健気だの可憐だの流石聖女様だのと言って誉めそやすリチャード達にライディン王国の騎士達はドン引きしていた。

 「アレ、の影響って凄いですね」
 「アレを可憐って言えるなんて·····ある意味で尊敬しますよね·····」
 「処刑しろ処刑しろって叫ぶ聖女なんて嫌過ぎる·····」

 騎士達はヒソヒソと部屋の隅で囁き合っている。

 「はぁぁ、一体何が言いたいのかも分からない。処刑だ処刑だと喚いているが、リーザロッテを処刑する理由もない」

 エルバルトはなるべく感情的にならない様に冷静な低い声で答えた。

 「理由は、私が幸せになる為ですぅ。あの女が処刑されれば私は幸せになれるし、エルバルト様も私を好きになるんです」

 さっきまで醜く顔を歪めて喚いていたかと思えば、エルバルトに話掛けられたと勘違いしたルルアは甘えた声でニコリと笑った。

 エルバルトは嫌悪を滲ませる

 「何故、君なんかを幸せにする為に、私の愛する婚約者を差し出して処刑させなければならない」

 「ほら、それがおかしいんですよ。エルバルト様があんな女を好きになる訳がないんですから」

 会話にならない会話にイライラとしているエルバルトを王太子が制すると

 「エルバルトは、君の為に存在しているんじゃないんだよ。思い込みが過ぎるね」

 穏やかに見える顔でルルアにそう告げると、王太子は国王達に向かって

 「そういうわけだから、話は終わった。お帰り頂こう」

 「待て、話しは終わっておらん。我が国の魔法石が全て効力を失った。それもあの女が生きているせいだと聖女様が仰っているのだ」

 王太子もエルバルトも呆れた。魔法石はライディン王国の者達の魔力で作られた物でリーザロッテには関係ない。それもリーザロッテのせいにして処刑させようとするルルアと、平時であれば考えればすぐ分かるような事を、こんな自称聖女の言いなりになっている王家や国王陛下達。やはり助ける価値もないと切り捨てた王太子は冷たい目を国王に向けた。

 「魔力を持たないリーザロッテ嬢と魔法石に関係があるわけないでしょう。魔法石は石から魔力が消滅しただけです。そして、通告した通り、国交を断絶し取り引きを凍結させたシストラ王国には魔法石の輸出は今後一切しません。では、もうお話しする事は何もありませんので、速やかにお帰りください」

 「あ、そうでした。これは貴女へのプレゼントですよ」

 それまで黙っていたリドウィンがルルアに近寄ると、見惚れるような笑みを浮かべて腕に大きな宝石のついたバングルを嵌めた。

 「やっぱりリドウィン様は私の事を────────」 

 面倒臭くなった王太子は、嬉しそうにリドウィンに話しかけるルルアを無視して騒ぎ立てている国王達と一緒に、シストラ王国の王都に一行を転移させた。

 
 「意味の分からない事を喚き散らして怖かったな·····」
 「それに、臭いが酷かった·····鼻が曲がりそうだ」

 騎士達は口々に声を上げながら浄化の魔法を繰り出し、周辺を何度も浄化した。

 「ふう、もう来る事はないだろうけど、シストラ王国からの者は一切入国させないように」

 王太子は騎士達に指示を出すと、まだ怒りに震えているエルバルトに声を掛ける。

 「よく我慢したね。まあ、二度とリーザロッテ嬢に関わってくる事はないし、報いも受けるだろうから放っておけばいい」

 
 
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