4 / 21
Scene4 善は急げです!
しおりを挟む「イグリデュール王国・・第二王子セリウス・・・」
イグリデュール王国とは、この国のことだ。そして男の言葉を繰り返したシャーロットは、重要なことを思い出す。王族のみが受け継ぐ炎のように赤い瞳の話を・・
つまり目の前にいる赤い瞳を持つ男こそが、この王国の第二王子セリウスということになる。そんな人物からの思いも寄らぬ命令に、シャーロットは驚きのあまり口をあんぐり開け、そんな彼女を見て、セリウスは再び笑った。
「名乗るのが遅くなったな。私は、第二王子セリウスだ。今日は、この領の視察に来たんだが、噂に聞いていたシャーロット嬢がいると言うじゃないか。これは会わない手はないだろう?」
実に楽しげに語るセリウスにシャーロットは彼の言う自分の噂というのが気になる。そんな彼女は、セリウスに問うわけでもなく、ただ独り言のようにブツブツと呟いた。
「噂・・私の噂なんて・・・ああ、きっと胸がまな板だとか、まとまりのないこの茶色い髪がどうとかそんな感じでしょう?・・・シーラ様みたいなお胸はいらないけど、噂になってるというのはちょっとショックよね。でもまあいっか。人の噂も七十五日とも言うしね。何と言っても、ルーカス様とシーラ様お似合いだもの。早く婚約破棄して、お二人の恋を応援して、私は王城つきメイドとしての道を進むの・・・」
ここでシャーロットのボンヤリと心ここにあらずだった瞳に光が宿り、決意を込めた表情で宣言する。
「セリウス殿下!殿下から直々にお声をかけていただけるとは、ありがたき幸せでございます。住み込みメイドの命、謹んでお受けいたします。善は急げですから、さっそく父にも話を・・・」
そう言って部屋から出ていこうとするシャーロットに、セリウスが少し慌てた様子で引き止める。
「おい!ちょっと待て。住み込みメイドとは何の話だ?」
「殿下、“城への居住を認める”と仰っしゃられたではありませんか」
シャーロットがそうハッキリと言うので、セリウスが「いやだから、メイドではなくだな・・・」と反論するが、すでにシャーロットの姿はなかった。ペコッ頭を下げ、扉から姿を消したのだ。
一人残されたセリウスは頭をガシガシかく。そして彼の呟きが部屋の静けさに消えていった。
「嘘だろ、おい・・」
◇◇◇◇◇
「そうか・・・ロッティが決めたなら、私たちは何も言うことはないよ・・元々先方からの申し出だしね」
シャーロットは早速屋敷に帰ると、両親を捕まえ婚約破棄をすること、そして城の住み込みメイドとして働くことを宣言した。メイドの件は、セリウス殿下直々の仰せということで諸手を挙げて喜ばれた。何より王城で働くということは、下級貴族にとって一種のステータスだったからだ。
「でもあなた・・こんなに可愛いロッティちゃんを差し置いて、浮気するなんて許せないわ。婚約して五年よ!五年!伯爵令息じゃなかったら、私が殴り込みに行くところよ」
レジーナが拳を振り上げながら、怒りを露にしている。それを宥めるようにエルウィンが言葉をかけた。
「まあ、落ち着きなさい。ロッティ本人より怒ってどうする。お前の気持ちも分かるが、私たちは娘の背中を押すだけだろう?」
「分かってるわよ。こうなったらメイドとして立派にお仕事をこなして、もっといい男性を捕まえちゃいなさい!」
レジーナは鼻息荒くそう言うと、シャーロットを抱きしめた。娘を邪険にされて腹が立たない親はいない。婚約破棄ともなれば、噂好きの貴族たちが好き勝手話を広げるのは、目に見えていた。
しかし、当のシャーロットは、むしろ嬉しそうな顔をしている。どうやら婚約破棄よりメイドのことで頭がいっぱいのようだ。
「お母様、ルーカス様とシーラ様は、本当にお似合いなんですよ。ですから、私それほどショックを受けてないんです。それよりメイドのお仕事にワクワクしてるんです」
そう言ってキラキラした瞳を向ける娘に、エルウィンとレジーナは顔を見合わせ苦笑した。
こうして、コールマン家の家族会議は終了したのだったが、シャーロットが自室に下がるとすぐにエルウィンの元に慌てた様子の執事がやって来た。なんでもセリウスが訪ねてきたというのだ。
昼の視察の際に会ってはいたが、まさかの不意の訪問にエルウィンとレジーナはバタバタと出迎え、セリウスは挨拶もそこそこに単刀直入に切り出した。
エルウィンたちは、きっとメイドの話に違いないと思っていたのだったが、セリウスの口から出てきたのは全くもって予想外の話だった。
「シャーロット嬢から話は聞いていると思うが、少し手違いがあってね。私は彼女をメイドはなく、婚約者にするつもりなんだ」
これにはエルウィンたちは、目が点になる。「婚約者ですか?」と戸惑うエルウィンにセリウスは、宿での会話を説明する。
「彼女は、どうやら自己評価か低いようだね。それに、君たちのどちらに似たのかおっちょこちょいなところもある」
「・・はい・・・大変申し訳ございません。ですが殿下、娘には婚約者がおりまして・・・」
「知ってるよ。コーネリアス伯爵の息子の話は、噂になっているからね。だが婚約破棄するんだろう?シャーロット嬢がそう言っていたが?」
「はい、仰っしゃるとおりで・・ですから、婚約破棄するような娘では、殿下のお相手には役不足かと・・」
「私が、彼女の新たな婚約者では、不服かい?」
「滅相もございません!ただ、恐れながら申し上げます。なぜシャーロットなのでしょう?それに娘は本当にメイドの仕事に心を奪われております。それにこんな時だからこそ、私どもは娘の気持ちを最大限尊重したいのです」
「分かった!それなら彼女の気持ちが私に向けばいいんだな?」
セリウスはそう言うと、ニヤリと笑った。これにはエルウィンも、「それはもちろんです!」と頷くしかない。
「ではこうしよう。彼女の気持ちが私に向いた暁には、正式に婚約者として披露目を行う。また万が一、彼女が他の男に心を寄せたら、潔く私は諦めよう。それから彼女の今の勘違いは、そのままで・・そのほうが楽しめそうだからね」
何だか物凄い好条件に、なにか裏があるのでは?と警戒するエルウィンとレジーナだったが、セリウスは自信満々にそう言い切ると、さっさと帰っていった。残されたエルウィンとレジーナは、呆気にとられるばかりであった。
34
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~
狭山ひびき
恋愛
「あんたなんか、大嫌いよ!」ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。はじめてアスヴィルと出会ったとき、彼は意地悪だった。二度と会いたくないと思うほど嫌っていたのに、ある日を境に、アスヴィルのミリアムに対する態度が激変する。突然アスヴィルは、ミリアムを愛していると言い出したのだ。しかしミリアムは昔のまま、彼のことが大嫌い。そんなミリアムを振り向かせようと、手紙やお菓子、果ては大声で愛を叫んで、気持ちを伝えようとするアスヴィル。果たして、アスヴィルの気持ちはミリアムに届くのか――
※本作品は、【旦那様は魔王様!】の外伝ですが、本編からは独立したお話です。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる