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Scene17 クビですか・・当然ですね
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「では殿下、私はこれで失礼します。壊す前にこれを部屋に戻します」
そう言って、置物を抱えて部屋に戻ろうとするシャーロットをセリウスが引き止めた。そしてあっという間に腕の中から置物を奪うと、ローラに預ける。どうやら部屋に戻しておけということらしい。
そしてセリウスはシャーロットの腕を掴み、彼女を引き寄せると、皆を置いて部屋を出ていった。訳が分からぬまま引きずられていくシャーロット。扉から出る直前に振り返ると、さも当たり前のようにすまし顔のメイド長とアベルと手を振って見送るローラの姿が目に入った。
「殿下、どこへ行くんですか?」と前を行く背中に問うと、「君との主従関係を再確認しないといけないからね」と、これまた意味の分からない答えを返してきた。
(主従関係を見直すって何かしら?どこを見直すというの?・・・・・・あっ!もしかしてクビ?ルールを破ったうえに、こんな騒ぎまで起こしてメイドとして失格だものね・・・何も言い訳できないわ。ああ、お父様とお母様、残念がるでしょうね・・)
やって来たのは、セリウスの部屋だった。部屋に入ると、シャーロットはトンと肩を押され、ソファーに身体を預ける。トサッと軽い音がすると、セリウスは隣に腰を下ろした。クビを宣告されるなら、立っていたほうがいいのではと思った彼女だったが、まっすぐにこちらへ向けられるセリウスの赤い瞳にとらわれて動けない。
そして、彼は徐ろに口を開く。
「君は私の専属メイドだね?」
「はい、そうです」
そう答えたシャーロットの唇に人差し指が当てられ、触れた唇からじんわりと温もりがひろがる。ビクッとした彼女に構わず、セリウスはそのまま続けた。
「それならルールを守ってもらわないと」
「申し訳ありません。コーネリアス様との・・」
「違うよ。その話は済んだだろう?私が言いたいのは、なぜ敬語に戻ってるのかってことだ?」
「あっ!」
シャーロットは、セリウスと二人の時は約束通り敬語を封印していたが、先程は宰相にメイド長、たくさんの衛兵たちの前ですっかり彼に対する言葉遣いが戻ってしまっていたのだ。
「申し・・ごめんなさい。さっきの流れで失念してたわ」
そんなシャーロットをセリウスはしばらくじっと見つめた後、フッと口元に笑みを浮かべた。それはいつものような自信に満ちたものではなく、どこか寂しげな笑みだった。
「君は本当に素直で優しい人だ。さっきの私の怒りを見ても怖がらないばかりか、あんな女に優しい言葉をかけてやるなんて。それに、とても真っ直ぐで正直だ・・・だけど、その優しさに心の狭い私は嫉妬してしまいそうだよ」
「嫉妬・・嫉妬・・・?」
突然言われたことに驚き、思わず聞き返す。だが、彼は「私がいま何を考えているか分かる?」と質問を重ねる。それに首を横に振るシャーロット。するとセリウスは、笑いを漏らした。
「フッ・・・君をメイドにするんじゃなかったよ」
その言葉に息をのんだシャーロットは「それはクビということ?」と恐る恐る聞き返す。声が微かに震えているのは、気のせいではない。そしてそんな彼女にセリウスの迷いのない言葉が届いた。
「そう。君はクビだ」
その瞬間、シャーロットの胸の中に冷たいものが広がった。覚悟していたとはいえ、心のどこかでまだ挽回できる思っていた。そんな自分の甘さにセリウスは気が付いたのかもしれない。
(やっぱりそうなのね・・自分の甘さが招いた結果だもの。仕方ないわ)
シャーロットは自分の心に蓋をすると、ギュッと目を瞑り、クビを受け入れた。
「分かりました。お目汚しになってしまうから、一刻も早く出ていきます。短い間でしたが、大変お世話になりました」
立ち上がり、深々と頭を下げるシャーロット。たった数日とはいえ、貴重な体験をさせてくれたセリウスに感謝を込めた別れのお辞儀だった。
そうしてセリウスの部屋を後にしたシャーロットは、逃げるように自室へ戻った。その瞳に光るものがあることに、彼女はまだ気付かないでいる。
そして荷物をまとめると、短い手紙を二通したためた。手紙というには短いものだったが、それぞれ感謝の言葉が並んでいた。宛名はローラとメイド長だ。
そして、元々そう多くない荷物を持つと、扉へと近づく。最後に部屋を振り返り、棚の上のあの置物が目に止まった。その瞬間、瞳から溢れそうになっていた涙がポロポロと頬を伝う。
(もう・・やだ・・・何で私、涙なんて・・・・帰ろう。お父様たちなら、喜んで迎えてくれるわ)
ぐいっと湿った頬を手で拭ったシャーロットは、ドアノブに手をかけた。するとその時、コンコンとノックの音が聞こえた。
(誰?)
不思議に思いながら「はい」と返事をすると、「私です」と女性の声と共に扉が開かれた。そこにはメイド長が立っていた。後ろにローラも控えている。
「あっ、メイド長。ローラも」
「どこへ行くのです?」
「いえ、お暇することになりまして・・こんな形でここを去るのは不本意ですが、致し方ありません。あっ!少しお待ちを」
そう言って、シャーロットは書き終えたばかり手紙を二人に手渡した。
すると、手にした手紙にじっと視線を落とすローラが、口を開いた。
「ダメです。お嬢様・・違うんです」
「何が違うの?」
要領を得ないローラの言葉に、シャーロットは聞くが、彼女は「最初から違ったんです」というばかりだった。困ったシャーロットが、メイド長に視線を移すと、メイド長の手がシャーロットの頬に添えられる。表情は無表情なのに、添えられる手は温かい。そして、その手の温もりに呼応するかのように、メイド長の声は穏やかで温かかった。
「こんなに目を赤くして・・・シャーロット・コールマン、貴女はやめる必要はありませんよ。最初から貴女はメイドとして、ここに住むことを許されたのではなかったのですから」
そう言って、置物を抱えて部屋に戻ろうとするシャーロットをセリウスが引き止めた。そしてあっという間に腕の中から置物を奪うと、ローラに預ける。どうやら部屋に戻しておけということらしい。
そしてセリウスはシャーロットの腕を掴み、彼女を引き寄せると、皆を置いて部屋を出ていった。訳が分からぬまま引きずられていくシャーロット。扉から出る直前に振り返ると、さも当たり前のようにすまし顔のメイド長とアベルと手を振って見送るローラの姿が目に入った。
「殿下、どこへ行くんですか?」と前を行く背中に問うと、「君との主従関係を再確認しないといけないからね」と、これまた意味の分からない答えを返してきた。
(主従関係を見直すって何かしら?どこを見直すというの?・・・・・・あっ!もしかしてクビ?ルールを破ったうえに、こんな騒ぎまで起こしてメイドとして失格だものね・・・何も言い訳できないわ。ああ、お父様とお母様、残念がるでしょうね・・)
やって来たのは、セリウスの部屋だった。部屋に入ると、シャーロットはトンと肩を押され、ソファーに身体を預ける。トサッと軽い音がすると、セリウスは隣に腰を下ろした。クビを宣告されるなら、立っていたほうがいいのではと思った彼女だったが、まっすぐにこちらへ向けられるセリウスの赤い瞳にとらわれて動けない。
そして、彼は徐ろに口を開く。
「君は私の専属メイドだね?」
「はい、そうです」
そう答えたシャーロットの唇に人差し指が当てられ、触れた唇からじんわりと温もりがひろがる。ビクッとした彼女に構わず、セリウスはそのまま続けた。
「それならルールを守ってもらわないと」
「申し訳ありません。コーネリアス様との・・」
「違うよ。その話は済んだだろう?私が言いたいのは、なぜ敬語に戻ってるのかってことだ?」
「あっ!」
シャーロットは、セリウスと二人の時は約束通り敬語を封印していたが、先程は宰相にメイド長、たくさんの衛兵たちの前ですっかり彼に対する言葉遣いが戻ってしまっていたのだ。
「申し・・ごめんなさい。さっきの流れで失念してたわ」
そんなシャーロットをセリウスはしばらくじっと見つめた後、フッと口元に笑みを浮かべた。それはいつものような自信に満ちたものではなく、どこか寂しげな笑みだった。
「君は本当に素直で優しい人だ。さっきの私の怒りを見ても怖がらないばかりか、あんな女に優しい言葉をかけてやるなんて。それに、とても真っ直ぐで正直だ・・・だけど、その優しさに心の狭い私は嫉妬してしまいそうだよ」
「嫉妬・・嫉妬・・・?」
突然言われたことに驚き、思わず聞き返す。だが、彼は「私がいま何を考えているか分かる?」と質問を重ねる。それに首を横に振るシャーロット。するとセリウスは、笑いを漏らした。
「フッ・・・君をメイドにするんじゃなかったよ」
その言葉に息をのんだシャーロットは「それはクビということ?」と恐る恐る聞き返す。声が微かに震えているのは、気のせいではない。そしてそんな彼女にセリウスの迷いのない言葉が届いた。
「そう。君はクビだ」
その瞬間、シャーロットの胸の中に冷たいものが広がった。覚悟していたとはいえ、心のどこかでまだ挽回できる思っていた。そんな自分の甘さにセリウスは気が付いたのかもしれない。
(やっぱりそうなのね・・自分の甘さが招いた結果だもの。仕方ないわ)
シャーロットは自分の心に蓋をすると、ギュッと目を瞑り、クビを受け入れた。
「分かりました。お目汚しになってしまうから、一刻も早く出ていきます。短い間でしたが、大変お世話になりました」
立ち上がり、深々と頭を下げるシャーロット。たった数日とはいえ、貴重な体験をさせてくれたセリウスに感謝を込めた別れのお辞儀だった。
そうしてセリウスの部屋を後にしたシャーロットは、逃げるように自室へ戻った。その瞳に光るものがあることに、彼女はまだ気付かないでいる。
そして荷物をまとめると、短い手紙を二通したためた。手紙というには短いものだったが、それぞれ感謝の言葉が並んでいた。宛名はローラとメイド長だ。
そして、元々そう多くない荷物を持つと、扉へと近づく。最後に部屋を振り返り、棚の上のあの置物が目に止まった。その瞬間、瞳から溢れそうになっていた涙がポロポロと頬を伝う。
(もう・・やだ・・・何で私、涙なんて・・・・帰ろう。お父様たちなら、喜んで迎えてくれるわ)
ぐいっと湿った頬を手で拭ったシャーロットは、ドアノブに手をかけた。するとその時、コンコンとノックの音が聞こえた。
(誰?)
不思議に思いながら「はい」と返事をすると、「私です」と女性の声と共に扉が開かれた。そこにはメイド長が立っていた。後ろにローラも控えている。
「あっ、メイド長。ローラも」
「どこへ行くのです?」
「いえ、お暇することになりまして・・こんな形でここを去るのは不本意ですが、致し方ありません。あっ!少しお待ちを」
そう言って、シャーロットは書き終えたばかり手紙を二人に手渡した。
すると、手にした手紙にじっと視線を落とすローラが、口を開いた。
「ダメです。お嬢様・・違うんです」
「何が違うの?」
要領を得ないローラの言葉に、シャーロットは聞くが、彼女は「最初から違ったんです」というばかりだった。困ったシャーロットが、メイド長に視線を移すと、メイド長の手がシャーロットの頬に添えられる。表情は無表情なのに、添えられる手は温かい。そして、その手の温もりに呼応するかのように、メイド長の声は穏やかで温かかった。
「こんなに目を赤くして・・・シャーロット・コールマン、貴女はやめる必要はありませんよ。最初から貴女はメイドとして、ここに住むことを許されたのではなかったのですから」
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