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新章

新章第8話 寸劇やってみた

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エルメの部屋に集まるのは、いつもの面々だ。部屋の主エルメ、その夫マリオンと息子のリオル、そして帝国の救世主アリス。

いつもならワイワイと他愛のない会話で盛り上がるメンバーだが、今日はどうも様子が違うようだ。

「本当にこんなことで、エルメの魂は戻るのか?」

訝しがるマリオンを前にアリスは「疑うのですか?この癒やしの乙女の言葉を」と胸を張る。

「いいじゃない。やってみれば分かることでしょ・・・私はアリスを全面的に信頼してるから、何でもやるわよ。リオルもそうよね?」

「はい!母上がそう仰っしゃるなら、僕が口を挟むまでもありません」

沈黙の静けさがしばし流れ、四人が囲むテーブルの上のネズミが、せわしなく動く音だけが部屋に響く。

三対一・・・このままでは自分がごねているように見えると、気づいたのかマリオンはため息をついた。

「・・・分かった。君がそう言うなら、私が反対する理由はないな」と、諦めたように言うマリオンに、アリスは「はい!そうですよ!」と嬉しそうな声をあげた。

「それじゃあ、早速始めましょうか」

エルメのこの言葉を合図にエルメたちの作戦(修正版)は、第二段階に突入した。

「では、殿下とリオル様には外でお待ちいただきます」

アリスの口から出てきた追い出そうとするセリフにマリオンが反論する。

「それは困るな。アリス嬢を信用してないわけではないが、大事な妻の一大事だ。私の目で確かめなければ、気が済まないことは分かってくれるだろう?」

(あ~、やっぱり・・・マリオンなら絶対に見届けさせろって、言うと思った。だ・け・ど、そこは私もお見通し!何年夫婦やってると思ってるの)

エルメはこちらの計画どおりに動くマリオンに、内心ほくそ笑んでいた。そしてアリスに助け舟を出す。

「マリオン、ありがとう。マリオンがいてくれたら、すっごく安心する。でも貴方の殺気で失敗したら、どうするの?ほら、見て。アリスの手が震えてるじゃない」

そう言ってアリスの手を取ると、本当にわずかに震えている。すがるような眼差しをエルメに向けるアリスは、もはや女優だ。

(アリス、打ち合わせ通りとはいえ、演技が上手くなったわねぇ)

「だから、リオルに見守ってもらうことにするわ。息子にならマリオンも任せられるでしょ?」

「母上・・父上も安心してお任せください!」

そう言われてしまえば、マリオンとしても返す言葉がない。苦虫を噛み潰したような表情で、「仕方ないな。君がそう言うなら」と呟く。

「さぁ、そうと決まれば早く始めましょう!時間はないんだから」

エルメの言葉にマリオンは渋々ながら、扉から姿を消した。扉が閉まる瞬間、チラッと後ろを振り返った彼の顔がエルメの心をチクッと刺す。

(ごめんなさい。でも私も散々、貴方の手のひらの上で転がされてきたんだから、これくらいかわいいもんでしょ)

マリオンの姿が消えたことを確認してから、エルメはアリスに声をかけた。

「じゃあ、始めるけど準備はいい?」

「はい、もちろんです!」


◇◇◇◇◇


エルメは椅子に深く腰掛けて目を閉じていた。まるで瞑想しているようなその姿に、二人の視線が集まる。

マリオンの目がないのだから、こんな無意味な茶番はいらないのだが、抜け目のない彼のことだ。幼いリオルから色々聞き出すに決まってる。その時、ボロが出ないよう実際に儀式をやるのだ。

(リオルは、賢い子だけどまだ八歳。あの百戦錬磨のマリオンの誘導に引っかかる可能性を排除しないとね)

数分後、スッと目を開いたエルメは「心が落ち着いたわ。アリスお願い」と静かに口を開いた。

この言葉に横で控えていたアリスが、エルメの頭の先に手をかざす。すると、彼女の手から優しい光が溢れ出し、エルメを包み込んだ。正真正銘の癒やしの乙女の力である。その光景は、とても神秘的で美しいものだった。

「・・・では、邪魔な魂を引っこ抜きます」

アリスはそう告げると、光の中から手を引く。それは出されまいとあらがう何かを懸命に引っ張り出そうとしているように見えた。

唇をキュッと固く結び、グググッと手を引き、最後には勢いよく引き抜いた。そして空を切った腕は、テーブルの上のネズミに辿り着く。

カゴから出されたネズミをアリスの手が包むと、今度はネズミが光に包まれた。しばらくすると、ネズミの中に吸い込まれるようにして消えた光の残滓がキラキラと輝く。

エルメはその輝きを見つめながら「これで魂が戻ったかしら?」と言うと、アリスは「これで終了です」と告げた。

「アリス、お疲れ様」

「すごいよ!アリスそれっぽ~い!」

初めて目の前で乙女の力を目にしたリオルは、控えめに興奮していた。その興奮の中、ヒソヒソ声なのは幼いながらもさすが分かっていた。マリオンが聞き耳を立てているかもしれないのだ。声を潜めて正解だ。

「リオル様、お褒めのお言葉ありがたく受け取りますね」

アリスは頬を緩め、瞳をキラキラさせて見つめてくる少年を微笑ましく見ていた。
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