〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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新章

新章第11話 意地悪な夫に翻弄される妻

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(何で壁を見なくちゃいけないの?何するつもり!?)

「何するの!?」と声に出す前に後ろから腕が伸びてきて、エルメのお腹の上に乗せられた。

「フフッ、くすぐったい」

「マッサージしてやる。運動して疲れてるんだろ?それとも嫌か?」

艶のある声で耳元で囁かれるセリフは、何てことないはずなのに妙に官能的でゾクゾクとしたものが背中を走る。エルメはブルッと身体を震わせた。

「・・えっと・・嫌じゃないけど、嫌・・・」

「それはどっちなんだ?」

「嫌じゃないよ。マリオンに触れてもらうと嬉しいし・・・でもこれは何か恥ずかしい」

「いま君の視界にあるのは、壁だけだ。私にも君の煽情的せんじょうてきな表情は見えない。この状況で、どこに恥ずかしがる要素がある?」

(だからそれが恥ずかしいんだって・・何も視界に入ってこないからこそ、変な想像しちゃうし・・)

「踊ってたから、汗かいてるかもしれないし、やっぱり嫌。離して」

「気にするな。マッサージだと言っただろう。それに君は綺麗だ」

そう言いながら、マリオンの手はエルメのお腹を優しく撫でる。そして、同時に首筋に唇を落としていく。

「んっ・・・」

ピクッと反応を示すエルメの身体に、マリオンは手の動きを止める事はない。ゆっくりとお腹のラインを確かめる様に撫でられると、エルメはお腹の奥底が熱を帯びていく感覚に襲われた。

やがてお腹の手がスルリと脇の方へ滑っていく。エルメはくすぐったさに「ひゃっ・・」と声を上げ、身をよじる。

「他の場所もどうだ?」

マリオンの提案にエルメは、白目をむく寸前だ。

(!!もう無理!本当に無理!これ以上やったら、鼻血出ちゃうぅ!)

「ダメ・・・お願い。許して・・・」

涙目になり懇願するエルメだが、マリオンは「どこにするか?」と問いかけてくる。

(聞いてよぉぉ。どこもいらないってぇぇ)

「どこも嫌。間に合ってます!」と必死に断りのセリフを口にしたが、マリオンは「間に合ってる?それは確認が必要だな」と聞き流す。

マリオンの言葉にエルメは、ブンブンと首を振ると、固まった。身動きしようにも、ガッチリ動けないようにガードされ、後ろを振り向くことすらできない。

エルメはマリオンの腕の中で固まり、目をギュッと瞑る。全身が熱を帯び、心臓の音がドクンドクンとうなりを上げている。しかし、そのまま彼の言う次のマッサージを待つが、一向にその気配がない。

恐る恐る目を開けて、チラリと後ろを見ると、そこには意地悪な笑みを浮かべるマリオンの顔があった。

(!!!あ~、やられたぁ。完全にからかわれてる~。おちょくられてる~・・・もう!信じられない!)

「イジワルっ!!」

思わず叫び、いつの間にか緩んだ腕の中で身体を反転させると、エルメはマリオンの胸に飛び込む形となる。

「エルメ・・・」

頭上から降ってきたマリオンの声は甘く、優しい。エルメは、ゴクリと喉を鳴らすと、意を決したように見上げた。

「マリオンのイジワル・・・最愛の妻をからかって面白い?」

うっすら潤んだ瞳で睨みつけるエルメの顔は、耳まで真っ赤に染まっている。

「仕方ないだろ。私の妻が可愛いいのが悪いんだ」

目を細めるマリオンの何とも理不尽な言い訳にエルメが「やっぱりイジワル・・」と不満げに声を漏らすと、マリオンから全く反省の色のないセリフが返ってきたのだった。

「クックッ、君に怒られるのは本望だ」


◇◇◇◇◇


「いいですね?殿下とのダンスの前にこれを飲んでくださいね」

「ええ、分かったわ」

「前ですよ。でないと、意味がありませんから」

「大丈夫よ。ちゃんと分かってる。この日のためにみんなに協力してもらったんだから」

「母上、僕もついてます!大船に乗ったつもりでいてださい」
 
今日は舞踏会当日。
エルメとアリスそしてリオルの三人が人目を避けてコソコソと話している理由。それは今日、決行される計画の最終段階の打ち合わせのためだ。

この日のために、エルメは息子まで巻き込んで、マリオンに茶番を披露してきたのだ。

「もちろんそのつもりよ。リオルは、やっぱり頼もしいわね。私がどれだけ助けられたか・・・本当に貴方に協力してもらって、良かったと思ってるのよ」

そうエルメが褒め言葉を送り、目を細めて息子を見つめると、当のリオルは瞳をキラキラさせた。年齢の割にしっかりしているリオルだが、その姿はやはり八歳の子供だ。

「あ~!リオル様、羨ましいです!エルメ様!私の船も大船ですか?」

「もちろんアリスもね。ここまでくると、もう私たちは運命共同体よね」

エルメがアリスの手を握ると、彼女は頬を染めた。そして、その横でウズウズしているリオル。その姿は、左右にブンブン振る尻尾とパタパタと動く耳を持つ犬のようだ。

「母上、僕も共同体ですか?」

その問いかけを「当たり前じゃない!」と肯定したエルメの手には、アリスから渡された小さな包み紙が握られていた。
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