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第14話 あの時
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雑炊を持って現れた店長は、テーブルに置くと、当たり前のように、またもや僕の正面席に座った。雑炊を口に運びながら時々店長に視線を向けると、店長は真顔で僕を見ている。
そのことに、だんだん耐えられなくなり、つい、
「あの……そんなに見られてると食べにくいんですけど」
僕が控えめに訴えると、店長はハッとしたような表情になり、
「あ。そうだよね。ごめんね。何か、気になっちゃって」
「気になって?」
オウム返しする僕に、店長は頷き、
「ほら。この前の、あれだよ」
「先生が、ポロッと言っちゃった、あれですか?」
「そう。それ」
こうして話題に上がると、あれは本当のことだったのだな、と実感する。
「店長は、いつから先生の気持ちに気が付いていたんですか? 僕は、まさかそんな風に思われているなんて……」
店長が、ハーッと大きく息を吐き出した。
「あの……」
「吉隅くん。本当に、少しも思ったことはなかったの? 僕が、いつから気が付いていたかって? もう、かなり前だよ。確信していたわけではなくて、もしかしてって思う程度だったけど。でも、あの時……」
店長が言い淀んだ。それで、僕は察した。
「店長。あの時って、二人で僕を助けに来てくれた、あの時ですか?」
店長は、黙って頷いた。僕は、店長をじっと見ながら、次の言葉を待っていた。
店長は、店内を見回してから、スタッフの一人に合図を送った。その人は軽く頷くと、ゲストのテーブルを回り、声を掛けていた。それを見て僕は、壁の時計に目をやり、時間を確認した。ラストオーダーの確認ではなく、閉店時間が近付いているのを知らせているのだとわかった。僕は店長に視線を戻すと、
「すみません。もう、閉店なんですね。帰ります」
そう言って立ち上がろうとしたが、店長は首を横に振った。
「でも……」
「悪いけどさ、僕の話を聞いてよ。何だか今日は、あの時のことを話さずにはいられないような気分なんだよ」
「店長……」
僕の呼び掛けに返答はせず、
「あの時、宝生くんは完全に冷静さを失ってた」
店長は、あの日僕の家に来る前に何があったのかを話し始めた。
「着信音が鳴った。火を使ってたから、すぐに出られなかったんだけど、それでもずっと鳴ってた。画面を確認したら宝生くんで、慌てて通話にした。油利木くんのことがあったばっかりで、それこそ君に何かあったんじゃないかと思ってね」
そう言われて、胸がドキッとした。後追いしたいくらいの気持ちだったのは、間違いないからだ。
店長の表情が、暗くなっていく。
「僕が『はい』と言うか言わない内に、宝生くんが怒鳴るように言った。『出ないんです』ってね。出ないって何だろう、と思ったら、君が電話に出ないってことだった」
全てがどうでもいいような気になっていたから、スマホも床に放り出したままだったのだ。出るわけがない。
「僕は、風呂とかトイレに入ってるんじゃないのって、自分も安心したくて軽い感じで言ったら、さっきよりも大きい声で、『時間を開けて掛けてるんです。でも、全然出ないんですよ。何かあったのかもしれません』って。そう言った後、少し声のトーンが下がって、『でも、一人で確かめに行くのは……』って言うから、一緒に行くって言ったよ。あの宝生くんが、こんなに興奮状態になってるなんて……って本当に驚いたっけ」
店長は、着替えを済ませてそばに来たスタッフに「お疲れ様でした」と声を掛けた。スタッフも「お疲れ様でした」と返して、帰って行った。
店内が、さらに静まり返る。店長は、僕の方に向き直ると、再び話し始めた。
「君のマンションの前で待ち合わせたんだけど、僕の方が早く着いて、彼を待っていたんだ。そうしたらさ、こっちに向かって猛ダッシュしてくる人が目に入ったんだよね。吉隅くん。あの宝生くんが、猛ダッシュだよ。考えられるかい?」
先生は、いつもゆったりと品よく歩いている。だから、なりふり構わず猛ダッシュをしているところは、とても想像が出来なかった。僕が首を傾げると、
「そうだよね。僕も、あの人と何十年の付き合いだけど、あんな姿は初めて見た。それくらい、危機感を持っていたんだよね」
そこまで言うと、店長が急に立ち上がった。
「店長?」
「ちょっと、お茶を淹れてくるから待っててよ」
そう言って、店長は奥へ入って行った。
そのことに、だんだん耐えられなくなり、つい、
「あの……そんなに見られてると食べにくいんですけど」
僕が控えめに訴えると、店長はハッとしたような表情になり、
「あ。そうだよね。ごめんね。何か、気になっちゃって」
「気になって?」
オウム返しする僕に、店長は頷き、
「ほら。この前の、あれだよ」
「先生が、ポロッと言っちゃった、あれですか?」
「そう。それ」
こうして話題に上がると、あれは本当のことだったのだな、と実感する。
「店長は、いつから先生の気持ちに気が付いていたんですか? 僕は、まさかそんな風に思われているなんて……」
店長が、ハーッと大きく息を吐き出した。
「あの……」
「吉隅くん。本当に、少しも思ったことはなかったの? 僕が、いつから気が付いていたかって? もう、かなり前だよ。確信していたわけではなくて、もしかしてって思う程度だったけど。でも、あの時……」
店長が言い淀んだ。それで、僕は察した。
「店長。あの時って、二人で僕を助けに来てくれた、あの時ですか?」
店長は、黙って頷いた。僕は、店長をじっと見ながら、次の言葉を待っていた。
店長は、店内を見回してから、スタッフの一人に合図を送った。その人は軽く頷くと、ゲストのテーブルを回り、声を掛けていた。それを見て僕は、壁の時計に目をやり、時間を確認した。ラストオーダーの確認ではなく、閉店時間が近付いているのを知らせているのだとわかった。僕は店長に視線を戻すと、
「すみません。もう、閉店なんですね。帰ります」
そう言って立ち上がろうとしたが、店長は首を横に振った。
「でも……」
「悪いけどさ、僕の話を聞いてよ。何だか今日は、あの時のことを話さずにはいられないような気分なんだよ」
「店長……」
僕の呼び掛けに返答はせず、
「あの時、宝生くんは完全に冷静さを失ってた」
店長は、あの日僕の家に来る前に何があったのかを話し始めた。
「着信音が鳴った。火を使ってたから、すぐに出られなかったんだけど、それでもずっと鳴ってた。画面を確認したら宝生くんで、慌てて通話にした。油利木くんのことがあったばっかりで、それこそ君に何かあったんじゃないかと思ってね」
そう言われて、胸がドキッとした。後追いしたいくらいの気持ちだったのは、間違いないからだ。
店長の表情が、暗くなっていく。
「僕が『はい』と言うか言わない内に、宝生くんが怒鳴るように言った。『出ないんです』ってね。出ないって何だろう、と思ったら、君が電話に出ないってことだった」
全てがどうでもいいような気になっていたから、スマホも床に放り出したままだったのだ。出るわけがない。
「僕は、風呂とかトイレに入ってるんじゃないのって、自分も安心したくて軽い感じで言ったら、さっきよりも大きい声で、『時間を開けて掛けてるんです。でも、全然出ないんですよ。何かあったのかもしれません』って。そう言った後、少し声のトーンが下がって、『でも、一人で確かめに行くのは……』って言うから、一緒に行くって言ったよ。あの宝生くんが、こんなに興奮状態になってるなんて……って本当に驚いたっけ」
店長は、着替えを済ませてそばに来たスタッフに「お疲れ様でした」と声を掛けた。スタッフも「お疲れ様でした」と返して、帰って行った。
店内が、さらに静まり返る。店長は、僕の方に向き直ると、再び話し始めた。
「君のマンションの前で待ち合わせたんだけど、僕の方が早く着いて、彼を待っていたんだ。そうしたらさ、こっちに向かって猛ダッシュしてくる人が目に入ったんだよね。吉隅くん。あの宝生くんが、猛ダッシュだよ。考えられるかい?」
先生は、いつもゆったりと品よく歩いている。だから、なりふり構わず猛ダッシュをしているところは、とても想像が出来なかった。僕が首を傾げると、
「そうだよね。僕も、あの人と何十年の付き合いだけど、あんな姿は初めて見た。それくらい、危機感を持っていたんだよね」
そこまで言うと、店長が急に立ち上がった。
「店長?」
「ちょっと、お茶を淹れてくるから待っててよ」
そう言って、店長は奥へ入って行った。
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