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第3話

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 ラダム=リョン。この世の中で、たった1人、信用できる人。

 彼は、私にとって、そういう人だった。

 リョンは、私と同じ、オタク系の32歳独身。しかし家名は高く、伯爵家の跡取りだ。

 リョンは、分厚い眼鏡に、鼻まで垂らした前髪、ボソボソとした声。伯爵の名前以外、もてる要素はなく、マニアックな歴史家を研究するのが趣味の、暗くじめっとした男だった。

 リョンとの出会いは、3年前。バスの待合所で、リョンの探していた歴史書をたまたま読んでいたとき、全く他人のリョンに声をかけられ、貸してあげたことがきっかけだった。

 その歴史書は、名の知れた研究者でも手に入らないほどの貴重な本だった。

 私は、偶然、通っていた古書店で発見し、購入することができたのだ。

 私の行きつけの、街の裏通りの奥深い地下にある古書店も教えてあげると、リョンは私を師匠のように敬うようになった。

 リョンに懐かれ、つきまとわれることは、嫌なことでなかった。彼は金払いがよく、私の頼んだことは確実にやってくれるし、口が固く、律儀だ男だった。

 口数が少ないが、誰よりも信用できる男だった。

 私が結婚をして、距離ができていたので、その日は、私から尋ねることにした。

 馬鹿でかい、由緒あるお屋敷の離れに、リョンはひっそりと暮らしている。

 私が尋ねると、リョンはじっと私を見て、嫌がる気配はなく、コーヒーを沸かして迎えてくれた。
 
「リョン、聞いて。復讐したい人がいるの」

 私は、彼にしかできない相談を口にした。

「うん、わかった」

 リョンは、何も聞かずに、ただ静かに頷いただけだった。

 沈黙が何分も訪れる。

 これは、リョンが思考し、論を組み立てている時間だった。

「どこのひと?」

「私の妹と私の夫になった人よ」

「なんで?」

「旦那さまは、私でなく、妹のリリアを愛しているの。私は、その身代わりで奴隷みたいに扱われて、、」

「それは、ひどいね」

「わかってくれる?」

「うん」

 リョンは、頷いてくれる。

 今まで味方をしてくれる人はいなかったので、優しさが心に染み込んでくる。

「何か計画あるの?」

「なにも、、だから、リョンに相談してるのよ」

「そっか」

「何か良い考えある?」

「うん」

 リョンは、深々と頷いた。

「あるの?」

「うん」

「どんなの?」

「もう生きたくないと思うくらい、やってやろう」

 リョンは、コーヒーを一口飲み、冷めた声で言った。

 リョンの冷めた声は、熱い気持ちの裏返しだった。リョンは、私をかわいそうに思ってくれて、復讐に燃えてくれたのだ。

「リョン、ありがとう。あなたしか、頼れる人がいないわ」

「うん」

「どんな計画?聞かせて」

「3ステップある」

 リョンはそう言うと、顔を上げて私のほうを見た。



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