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1.村に到着
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村の入り口は田畑で広がり、その向こう側には平屋のような家がぽつりぽつりと見える。
陽は沈み始め、夕暮れ時になっていた。不思議と薄暗くなっていく村に、電気が点いている家はなかった。
「誰も人がいない」
アキヲは田畑を見渡して、人を探している気配だった。よく見るとアキヲの横顔は面長で、黒髪に黒色の目が野生的であった。
「そうね。でも、田畑はきれいに揃えられているから、人の手が入っているはずよ。まだ明るいから、どこかに誰かいないかしら」
私は、こっそりとアキヲの横顔を盗み見しながら、アキヲと同じように田畑を見渡して言った。
しかし、人一人見つからず、私たちは平屋を目指して田んぼ道を早足に歩き続けた。平屋は近そうに見えて、距離はだいぶあるようだった。
段々と陽が傾き、薄暗くなってくる。星々がうっすらと空に見え始めてくる。
歩いているからか、寒さはそこまで感じなかったが、指は冷え切っていて、感覚が鈍くなってくる。
「おかしいな。暗くなってきているのに、電気がひとつも見えない」
アキヲは眉をかしげてつぶやく。それは、先程から私も感じていることだった。
平屋はもう百メートルも先に見えてきたが、電気が点いている雰囲気はなく、幽霊屋敷のような、不気味な気配が漂ってくる。
アキヲが平屋の門を開けると、綺麗に花開いた紫陽花が咲いている庭が広がっていた。
人が住んでいるはずなのに、平屋からは物音ひとつ聞こえなかった。
アキヲは庭を突き進み、平屋の戸を叩いた。
「こんばんは。誰かいませんか?」
先頭を歩き、戸を叩いてくれるアキヲの背中が頼もしかった。
少しの間、返事をまった。しんとした平屋から、コトンという物音が聞こえてくる。
「はい」
そう言って、戸を開けてくれたのは、五歳ほどの幼女だった。
いつの間にか月が夜空にくっきりと映っていて、月光が幼女の肩まで伸ばした黒髪を艶やかに照らした。
「外から来た人でしょ?」
幼女は盲目のようで、目は開いてなかった。
「誰かに聞いたの?よくわかるね」
アキヲは、目を見張りながら聞いた。
「うん。お父さんとお母さんから聞いたよ。お客さんがくるかもしれないから、そのときは、お通ししなさいって」
月光に照らされた幼女の肌は青く透き通るようだった。
「きみ、名前は?俺は、永田アキヲ。よろしくね」
アキヲは、幼女の目線まで腰を下ろして言った。幼女は、見えないようだったが、気配は感じ取っているようだった。
「私は、ナミ。お兄ちゃん、お姉ちゃんよろしくね」
ナミは笑う。無邪気な笑顔に緊張が緩み、
「私は、倉田リサ。ナミちゃん、よろしくね」
と、つられて笑った。
ナミは嬉しそうに頷き、「入っていいよ」と手を招き、私とアキヲを家の中に誘導した。
陽は沈み始め、夕暮れ時になっていた。不思議と薄暗くなっていく村に、電気が点いている家はなかった。
「誰も人がいない」
アキヲは田畑を見渡して、人を探している気配だった。よく見るとアキヲの横顔は面長で、黒髪に黒色の目が野生的であった。
「そうね。でも、田畑はきれいに揃えられているから、人の手が入っているはずよ。まだ明るいから、どこかに誰かいないかしら」
私は、こっそりとアキヲの横顔を盗み見しながら、アキヲと同じように田畑を見渡して言った。
しかし、人一人見つからず、私たちは平屋を目指して田んぼ道を早足に歩き続けた。平屋は近そうに見えて、距離はだいぶあるようだった。
段々と陽が傾き、薄暗くなってくる。星々がうっすらと空に見え始めてくる。
歩いているからか、寒さはそこまで感じなかったが、指は冷え切っていて、感覚が鈍くなってくる。
「おかしいな。暗くなってきているのに、電気がひとつも見えない」
アキヲは眉をかしげてつぶやく。それは、先程から私も感じていることだった。
平屋はもう百メートルも先に見えてきたが、電気が点いている雰囲気はなく、幽霊屋敷のような、不気味な気配が漂ってくる。
アキヲが平屋の門を開けると、綺麗に花開いた紫陽花が咲いている庭が広がっていた。
人が住んでいるはずなのに、平屋からは物音ひとつ聞こえなかった。
アキヲは庭を突き進み、平屋の戸を叩いた。
「こんばんは。誰かいませんか?」
先頭を歩き、戸を叩いてくれるアキヲの背中が頼もしかった。
少しの間、返事をまった。しんとした平屋から、コトンという物音が聞こえてくる。
「はい」
そう言って、戸を開けてくれたのは、五歳ほどの幼女だった。
いつの間にか月が夜空にくっきりと映っていて、月光が幼女の肩まで伸ばした黒髪を艶やかに照らした。
「外から来た人でしょ?」
幼女は盲目のようで、目は開いてなかった。
「誰かに聞いたの?よくわかるね」
アキヲは、目を見張りながら聞いた。
「うん。お父さんとお母さんから聞いたよ。お客さんがくるかもしれないから、そのときは、お通ししなさいって」
月光に照らされた幼女の肌は青く透き通るようだった。
「きみ、名前は?俺は、永田アキヲ。よろしくね」
アキヲは、幼女の目線まで腰を下ろして言った。幼女は、見えないようだったが、気配は感じ取っているようだった。
「私は、ナミ。お兄ちゃん、お姉ちゃんよろしくね」
ナミは笑う。無邪気な笑顔に緊張が緩み、
「私は、倉田リサ。ナミちゃん、よろしくね」
と、つられて笑った。
ナミは嬉しそうに頷き、「入っていいよ」と手を招き、私とアキヲを家の中に誘導した。
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