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第二章
旅の記憶
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ルトと旅を始めてどのくらい過ぎたのか、二人はルデインという大きな街に来ていた。ミスティのいたククルド村より数倍大きくて、見たことのない建物や人の多さに驚かされる。足元は石畳が整備されていて、豪華な馬車が走っていた。街の中心街には無数の露店が軒を並べ、いい香りが立ち込めている。
ミスティの日記帳にはこれまでの記憶がたくさん書き記されていた。ルトが毎日、目が覚めたミスティに状況を説明してくれていることや、ルトとの旅がとても楽しいということ。そしてもう一ヶ月以上も一緒に旅を続けていること。
その日記――ミスティの記憶は毎日のようにミスティを助けてくれていた。
「こんな夢のような場所があるんですね」
キョロキョロしながら歩いていると、少し前を歩いていたルトがこちらを伺ってくる。
「物珍しいからといって、あちこち見回すのはやめたほうがいい」
「え、どうしてですか?」
「それはな……」
ルトが説明しようとしてくれたとき、前方で「スリよ! 誰か捕まえて!」と女性の叫び声が聞こえた。
ざわつく人々の合間から、男がこちらに向かってものすごいスピードで走ってくるのが見えた。それを視認したルトが、その男の前にスッと足を出し転ばせる。
「うわあっ!」
男は派手に転び、懐に抱えていた女性もののバッグが飛び出してきた。背後からはその持ち主であろう女性が走ってくる。
「鞄を女性に返せ」
ルトが立ち上がって逃げようとした男の腕を掴み、ドスの利いた声で言っている。一瞬怯んだ様子の男だったが、懲りずに落ちている鞄に手を伸ばし、まだ逃げようとしていた。するとルトが男の腕を捻り上げ動けなくしたのだ。
「いてぇ! てめーには関係ねーだろうが! 離しやがれ!」
「その鞄を女性に返せと言っている」
さっきよりも怒気を含んだ声と、捻る手の力が強くなったのか、男が情けない悲鳴を上げた。
「いてててて! わかった! 返す! 返すから! 腕が折れちまう!」
男の懇願にルトが腕を離した。男は今だとばかりにその場を逃げ去っていく。ルトが鞄を拾い上げてホコリを払った。
「あの、すみません、それ、私の、鞄です……」
走ってきた女性が息を切らせて告げてくる。ルトが手に持った鞄を女性に返し、騒ぎはひと段落した。
去り際に女性が何度も頭を下げていて、よかったなぁとミスティは思う。その反面、自分は驚きすぎてなにもできなかったこと、鮮やかに鞄を取り返したルトに感心してしまった。
「ルトさん、すごいですね」
「ん、いや、少し大きな街ではこんな出来事はたくさんある。狙われるのは体力のない女性やお年寄り、そしてよそ者だ」
そう言ったルトが再び歩き出す。ミスティははぐれないようにと懸命について行った。
「でもどうしてよそ者が狙われるんですか? だって見た目ですぐにはわからないと思うんですけど」
ルトの隣に並んでミスティは尋ねる。するとルトが前方を向いたまま答えてくれた。
「ミスティみたいに辺りをキョロキョロしていたら、すぐによそ者とわかるよ」
「あ……そうか。だからあんまりあちこち見るなって言ったんですね」
納得だ、とミスティは大きく頷く。そうしてルトの鱗を売るために道具屋にやってきた。中に入ると壁には剣や斧、盾や鎧がかけられてあり、反対側の壁には色とりどりの粉末が入った小瓶が並んでいた。天井からは様々な形のランプが吊り下がり、床には黒々とした様々なサイズの釜が重なって置かれてあった。
店主であろう男性は、頭が禿げていて恰幅がよく、鼻の下には綺麗に切りそろえられた立派な髭がある。その先端は芸術的にクルンと円を描いていた。
「道具屋って初めて来ました。いろんなものがあるんですね」
ここでもやはりミスティは辺りを見回してしまう。ククルド村を出たことにないミスティにとっては、道具屋ひとつとっても初めてだから好奇心は抑えられない。
(こんなにいろいろ見ても、明日には全部忘れてしまうんだもんな。毎日が新鮮なのは楽しいけど)
覚えていられないことの切なさを少し考えた。明日になればまたきっと外の景色が新鮮で、初めて見る新世界としてミスティの目には映るだろう。それがいいのか悪いのかはわからない。
「いらっしゃい。なにをお探しかな?」
「店主、今日は買い取ってほしいものがあって来た」
ミスティが店の中のものを珍しそうに見ている間に、ルトが懐から取り出した袋の中身、輝く鱗を売ろうとしていた。
「買い取りかい? あんたら、旅の人かね?」
「ええ、そうです。買い取ってほしいのは、これです」
店主の前に輝く鱗を二枚ほど出した。すると店主は初めこそ旅人のルトとミスティを怪しげに見ていたのに、輝く鱗を出した途端その顔色が変わった。
「これは……竜の鱗じゃないか。一体どこでこんな貴重なものを手に入れたんだ?」
鱗を手にした店主が、窓から差し込む日の光に透かして確認している。本物かどうか見極めているのだろうか。
「入手先は言えない。だがここなら買い取ってもらえるだろうと思って来た。いくらで買ってくれる?」
「そうだな。竜の鱗は薬の材料にも武器にもなる。滅多に他で入らないものだからな。高値で買わせてもらうよ」
店主が提示した金額は四十クランだった。これはミスティが一年かかっても貯められないような大金である。普通の村人の年間収入はおよそ五クランくらいがせいざいだろう。それが八倍の四十クランで買ってくれるというのだから竜の鱗がいかに貴重かわかる。
(四十クランなんて、僕の村なら何年も働かないで暮らせる金額だ)
ミスティの日記帳にはこれまでの記憶がたくさん書き記されていた。ルトが毎日、目が覚めたミスティに状況を説明してくれていることや、ルトとの旅がとても楽しいということ。そしてもう一ヶ月以上も一緒に旅を続けていること。
その日記――ミスティの記憶は毎日のようにミスティを助けてくれていた。
「こんな夢のような場所があるんですね」
キョロキョロしながら歩いていると、少し前を歩いていたルトがこちらを伺ってくる。
「物珍しいからといって、あちこち見回すのはやめたほうがいい」
「え、どうしてですか?」
「それはな……」
ルトが説明しようとしてくれたとき、前方で「スリよ! 誰か捕まえて!」と女性の叫び声が聞こえた。
ざわつく人々の合間から、男がこちらに向かってものすごいスピードで走ってくるのが見えた。それを視認したルトが、その男の前にスッと足を出し転ばせる。
「うわあっ!」
男は派手に転び、懐に抱えていた女性もののバッグが飛び出してきた。背後からはその持ち主であろう女性が走ってくる。
「鞄を女性に返せ」
ルトが立ち上がって逃げようとした男の腕を掴み、ドスの利いた声で言っている。一瞬怯んだ様子の男だったが、懲りずに落ちている鞄に手を伸ばし、まだ逃げようとしていた。するとルトが男の腕を捻り上げ動けなくしたのだ。
「いてぇ! てめーには関係ねーだろうが! 離しやがれ!」
「その鞄を女性に返せと言っている」
さっきよりも怒気を含んだ声と、捻る手の力が強くなったのか、男が情けない悲鳴を上げた。
「いてててて! わかった! 返す! 返すから! 腕が折れちまう!」
男の懇願にルトが腕を離した。男は今だとばかりにその場を逃げ去っていく。ルトが鞄を拾い上げてホコリを払った。
「あの、すみません、それ、私の、鞄です……」
走ってきた女性が息を切らせて告げてくる。ルトが手に持った鞄を女性に返し、騒ぎはひと段落した。
去り際に女性が何度も頭を下げていて、よかったなぁとミスティは思う。その反面、自分は驚きすぎてなにもできなかったこと、鮮やかに鞄を取り返したルトに感心してしまった。
「ルトさん、すごいですね」
「ん、いや、少し大きな街ではこんな出来事はたくさんある。狙われるのは体力のない女性やお年寄り、そしてよそ者だ」
そう言ったルトが再び歩き出す。ミスティははぐれないようにと懸命について行った。
「でもどうしてよそ者が狙われるんですか? だって見た目ですぐにはわからないと思うんですけど」
ルトの隣に並んでミスティは尋ねる。するとルトが前方を向いたまま答えてくれた。
「ミスティみたいに辺りをキョロキョロしていたら、すぐによそ者とわかるよ」
「あ……そうか。だからあんまりあちこち見るなって言ったんですね」
納得だ、とミスティは大きく頷く。そうしてルトの鱗を売るために道具屋にやってきた。中に入ると壁には剣や斧、盾や鎧がかけられてあり、反対側の壁には色とりどりの粉末が入った小瓶が並んでいた。天井からは様々な形のランプが吊り下がり、床には黒々とした様々なサイズの釜が重なって置かれてあった。
店主であろう男性は、頭が禿げていて恰幅がよく、鼻の下には綺麗に切りそろえられた立派な髭がある。その先端は芸術的にクルンと円を描いていた。
「道具屋って初めて来ました。いろんなものがあるんですね」
ここでもやはりミスティは辺りを見回してしまう。ククルド村を出たことにないミスティにとっては、道具屋ひとつとっても初めてだから好奇心は抑えられない。
(こんなにいろいろ見ても、明日には全部忘れてしまうんだもんな。毎日が新鮮なのは楽しいけど)
覚えていられないことの切なさを少し考えた。明日になればまたきっと外の景色が新鮮で、初めて見る新世界としてミスティの目には映るだろう。それがいいのか悪いのかはわからない。
「いらっしゃい。なにをお探しかな?」
「店主、今日は買い取ってほしいものがあって来た」
ミスティが店の中のものを珍しそうに見ている間に、ルトが懐から取り出した袋の中身、輝く鱗を売ろうとしていた。
「買い取りかい? あんたら、旅の人かね?」
「ええ、そうです。買い取ってほしいのは、これです」
店主の前に輝く鱗を二枚ほど出した。すると店主は初めこそ旅人のルトとミスティを怪しげに見ていたのに、輝く鱗を出した途端その顔色が変わった。
「これは……竜の鱗じゃないか。一体どこでこんな貴重なものを手に入れたんだ?」
鱗を手にした店主が、窓から差し込む日の光に透かして確認している。本物かどうか見極めているのだろうか。
「入手先は言えない。だがここなら買い取ってもらえるだろうと思って来た。いくらで買ってくれる?」
「そうだな。竜の鱗は薬の材料にも武器にもなる。滅多に他で入らないものだからな。高値で買わせてもらうよ」
店主が提示した金額は四十クランだった。これはミスティが一年かかっても貯められないような大金である。普通の村人の年間収入はおよそ五クランくらいがせいざいだろう。それが八倍の四十クランで買ってくれるというのだから竜の鱗がいかに貴重かわかる。
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