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第二章
初めてのキスのはずなのに……
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「そうだ。森の中の岩山のところで座り込んでいた。体も冷えているし早く温めてやってほしい」
「わかりました。私の家へお願いします」
リアンをロドリゲスが背負うと言ったが、ルトはこのまま家まで行くと提案し、ロドリゲスはさらに申し訳なさそうに頭を掻いていた。
長男の家で一緒に暮らしていたリアンは歳のせいで足を悪くして、オーリンの妻が世話をするのが大変になってきたリアンを煙たがっていたことを話してくれた。
「兄貴は母の世話を自分の妻に任せきりで、それなに 邪険にしているんです。私もできるだけ手伝いはしているけど、それでは不服らしい。それで昨日の夜、私は兄と大きな喧嘩をしたんですが……まさか山に自分の母親を捨てるなんて、思いもしませんでした。あ、ここがうちです」
話している間にロドリゲスの家に到着した。中に入ると彼の妻、キャリンが心配そうに駆け寄ってきた。
「あなた! ああ、お義母さん……ご無事でよかった」
黒髪を後ろで結い上げた女性は、涙を流しルトの背中にいるリアンに声をかけている。ルトがリアンを下ろすと、すぐにロドリゲスが抱き上げて奥へと入っていった。
ロドリゲスの家は入ってすぐに大きな食事用の長テーブルが目に入り、その奥にはソファやローテーブルがあった。右の壁際にはキッチンらしい設備があり、釜の上には大きな鍋がかけられてあった。
室内にはドライフラワーやカラフルな布などが下がっており、とてもセンスのいい装飾がされてある。
「どちらの方かは存じませんが、お義母さんを助けていただきありがとうございました」
何度も何度も礼を言われ、こちらが恐縮してしまうほどだ。
「リアンの話を聞けば、俺たち以外に通った人がいたそうだが、みな見て見ぬふりだったという。どうしてそんなことができるのか俺にはわからない」
「そうだったのですか。ここまで本当にありがとうございます。ささ、座ってください。今、お茶を出しますね」
二人は椅子を引いて座る。思いの外、足が疲労していたのだなとミスティは感じていた。少ししてロドリゲスが奥から出てくる。母親に食事を与えてほしいとキャリンに頼んでいて、彼女は頷き忙しそうに世話を焼き始めていた。
「本当に、母を助けていただきありがとうございました。今後はうちで母の世話をしようと思います。お二人は旅の方ですよね? どちらへ行かれるのですか?」
「そうだ。行く当てはまだ決まってないのだが、たまたま通りかかった山道でリアンと出会った」
「そうだったんですか。あなた方が通りかかってくださらなければ、母はどうなっていたか。さっきベッドに寝かせましたが、体が冷え切っていました。兄はどうしてそんな場所に母を捨てられるのか。何度考えても理解できません。あ、うちでよかったらいつまででもいてもらって大丈夫ですので、骨休めしていってください」
「ありがとうございます。助かります」
ホッとしたようなルトの顔を見て、ミスティもようやく緊張が解れた。
「お兄さんとはあまり仲がよくないのか?」
「ええ。うちの兄はこの村の村長補佐をしているのですけど、母の面倒を見るのがいやになったようで。とはいえ、さっきも言いましたけど、面倒を見ているのは兄の妻なんですが、こんな暴挙に出る人とは思いませんでした。確かに兄は強引で自分本意なところはありますが、こんなひどいことを……するとは……」
大きな体を小さく縮めて俯いたロドリゲスが涙ぐみながら教えてくれた。村の風習で、両親の面倒は長男がみるものだと決まっているからと、それに従って自分の母親と暮らしていたらしい。しかし結果はこうだった。
そしてしばらくの間、泊まっていってくれと提案された。リアンがルトに背負われているときに物知りな爺さんがいると言っていたので、その人に会って話を聞きたいと説明した。
「なるほど、そういう旅をされていたのですか。ならトラジさんに聞くのがいいかもしれませんね。あの人は本の虫ですから。とりあえず今夜は家の二階に部屋を準備しますので、休んでいってくださいね」
ロドリゲスの好意に甘えることにしたルトとミスティは、キャリンの準備してくれた部屋に通された。夕食時まで時間があるので、トラジを訪ねてみることにする。
「ロドリゲスさん、いい人でしたね」
ミスティとルトは村の中を、教えてもらったトラジの家に向かって歩いている。村の雰囲気はとても穏やかで、本当にククルド村にそっくりだ。全身を懐かしさに包まれて歩きながら、ゆるゆると吹く風に髪を揺らされてそっと目を閉じる。
「ミスティがリアンに言った言葉、俺は一生忘れないと思う」
「え? 僕、どんなことを言いましたっけ?」
「この世の中に、死んでいい人間などいないと、そう言っていた」
隣を歩くルトが足を止めて、やさしく微笑みながらこちらを見下ろしてきた。確かそのようなことを口走った気がするが、あのときはリアンを励ますために必死だったのでなにを言ったのか実はよく覚えていなかった。
「僕、そんなことを言ってたんですね。あんまり覚えていなくて」
「あはは、そうだったか。あの言葉は胸に響いた。俺にも言ってくれているのかと思った」
「あの言葉は嘘じゃないです。どんな人も死んでもいいって人はいないと思うんです。僕も、ルトさんもです」
ルトの黒い瞳を見つめて微笑むと、彼の手がミスティの頬に触れてきた。微かに口元に笑みを浮かべたままミスティの頬を撫で、両手で顔を包まれる。
「ミスティ……君はなんて……」
ルトの言葉はそこで途切れた。ミスティの唇はルトの唇で塞がれる。ジン……と全身が痺れた。今日が初めてなのに、どうしてかそんな気がしない。
「わかりました。私の家へお願いします」
リアンをロドリゲスが背負うと言ったが、ルトはこのまま家まで行くと提案し、ロドリゲスはさらに申し訳なさそうに頭を掻いていた。
長男の家で一緒に暮らしていたリアンは歳のせいで足を悪くして、オーリンの妻が世話をするのが大変になってきたリアンを煙たがっていたことを話してくれた。
「兄貴は母の世話を自分の妻に任せきりで、それなに 邪険にしているんです。私もできるだけ手伝いはしているけど、それでは不服らしい。それで昨日の夜、私は兄と大きな喧嘩をしたんですが……まさか山に自分の母親を捨てるなんて、思いもしませんでした。あ、ここがうちです」
話している間にロドリゲスの家に到着した。中に入ると彼の妻、キャリンが心配そうに駆け寄ってきた。
「あなた! ああ、お義母さん……ご無事でよかった」
黒髪を後ろで結い上げた女性は、涙を流しルトの背中にいるリアンに声をかけている。ルトがリアンを下ろすと、すぐにロドリゲスが抱き上げて奥へと入っていった。
ロドリゲスの家は入ってすぐに大きな食事用の長テーブルが目に入り、その奥にはソファやローテーブルがあった。右の壁際にはキッチンらしい設備があり、釜の上には大きな鍋がかけられてあった。
室内にはドライフラワーやカラフルな布などが下がっており、とてもセンスのいい装飾がされてある。
「どちらの方かは存じませんが、お義母さんを助けていただきありがとうございました」
何度も何度も礼を言われ、こちらが恐縮してしまうほどだ。
「リアンの話を聞けば、俺たち以外に通った人がいたそうだが、みな見て見ぬふりだったという。どうしてそんなことができるのか俺にはわからない」
「そうだったのですか。ここまで本当にありがとうございます。ささ、座ってください。今、お茶を出しますね」
二人は椅子を引いて座る。思いの外、足が疲労していたのだなとミスティは感じていた。少ししてロドリゲスが奥から出てくる。母親に食事を与えてほしいとキャリンに頼んでいて、彼女は頷き忙しそうに世話を焼き始めていた。
「本当に、母を助けていただきありがとうございました。今後はうちで母の世話をしようと思います。お二人は旅の方ですよね? どちらへ行かれるのですか?」
「そうだ。行く当てはまだ決まってないのだが、たまたま通りかかった山道でリアンと出会った」
「そうだったんですか。あなた方が通りかかってくださらなければ、母はどうなっていたか。さっきベッドに寝かせましたが、体が冷え切っていました。兄はどうしてそんな場所に母を捨てられるのか。何度考えても理解できません。あ、うちでよかったらいつまででもいてもらって大丈夫ですので、骨休めしていってください」
「ありがとうございます。助かります」
ホッとしたようなルトの顔を見て、ミスティもようやく緊張が解れた。
「お兄さんとはあまり仲がよくないのか?」
「ええ。うちの兄はこの村の村長補佐をしているのですけど、母の面倒を見るのがいやになったようで。とはいえ、さっきも言いましたけど、面倒を見ているのは兄の妻なんですが、こんな暴挙に出る人とは思いませんでした。確かに兄は強引で自分本意なところはありますが、こんなひどいことを……するとは……」
大きな体を小さく縮めて俯いたロドリゲスが涙ぐみながら教えてくれた。村の風習で、両親の面倒は長男がみるものだと決まっているからと、それに従って自分の母親と暮らしていたらしい。しかし結果はこうだった。
そしてしばらくの間、泊まっていってくれと提案された。リアンがルトに背負われているときに物知りな爺さんがいると言っていたので、その人に会って話を聞きたいと説明した。
「なるほど、そういう旅をされていたのですか。ならトラジさんに聞くのがいいかもしれませんね。あの人は本の虫ですから。とりあえず今夜は家の二階に部屋を準備しますので、休んでいってくださいね」
ロドリゲスの好意に甘えることにしたルトとミスティは、キャリンの準備してくれた部屋に通された。夕食時まで時間があるので、トラジを訪ねてみることにする。
「ロドリゲスさん、いい人でしたね」
ミスティとルトは村の中を、教えてもらったトラジの家に向かって歩いている。村の雰囲気はとても穏やかで、本当にククルド村にそっくりだ。全身を懐かしさに包まれて歩きながら、ゆるゆると吹く風に髪を揺らされてそっと目を閉じる。
「ミスティがリアンに言った言葉、俺は一生忘れないと思う」
「え? 僕、どんなことを言いましたっけ?」
「この世の中に、死んでいい人間などいないと、そう言っていた」
隣を歩くルトが足を止めて、やさしく微笑みながらこちらを見下ろしてきた。確かそのようなことを口走った気がするが、あのときはリアンを励ますために必死だったのでなにを言ったのか実はよく覚えていなかった。
「僕、そんなことを言ってたんですね。あんまり覚えていなくて」
「あはは、そうだったか。あの言葉は胸に響いた。俺にも言ってくれているのかと思った」
「あの言葉は嘘じゃないです。どんな人も死んでもいいって人はいないと思うんです。僕も、ルトさんもです」
ルトの黒い瞳を見つめて微笑むと、彼の手がミスティの頬に触れてきた。微かに口元に笑みを浮かべたままミスティの頬を撫で、両手で顔を包まれる。
「ミスティ……君はなんて……」
ルトの言葉はそこで途切れた。ミスティの唇はルトの唇で塞がれる。ジン……と全身が痺れた。今日が初めてなのに、どうしてかそんな気がしない。
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