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第三章
キスは治療の実験?
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ミスティとルトはトラジの家に向かい、キャリンから預かった差し入れをトラジに渡す。そして昨日はまだ読んでいない本に目を通した。しかしそこにはこれといった有力な情報はない。読ませてもらった本を本部屋に戻し、トラジには存分に礼を言って別れた。
ガレヤフ村を出たミスティとルトは、トラジの家で得た情報を元に、ハーザンドの街へ向かう。ガレヤフ村にいたのはほんの少しだったが、そこでミスティは自分の記憶を維持する方法を見つけた気がしてうれしかった。
(ルトとキスをすることで記憶が消えなくなるとは思ってなかったから、それはそれで驚いたけど。でも完全には覚えていられないのがちょっとつらいな……)
森の一本道を進みながら、ルトの背中を見つめて思う。トラジの家で見せてもらった文献で、かなりの有力情報を得た。それはすごくいいことだったが、ルトはどう思っているのだろうか。
(ルトが人ではなくて竜人かもしれないこと。すごくショックを受けてたな。ルト、大丈夫かな)
おそらくルトは竜人だろう。全身を覆い尽くそうとしている鱗の広がり具合を見ていたらそう思ってしまう。この先のことを思うときっと不安に違いない。
黒竜病を治すために旅をしていたのに、新たな事実を知ることとなった。ルトが竜人であることがミスティを助けることになるなんて、なんとも皮肉なことだ。ルサンド高原やハーザンドで二つの問題が一気に解決するような、新たな情報が手に入ればいいなとミスティは思っていた。
二人は森の中を進んでいた。昼過ぎにガレヤフ村を出てからどのくらいが経ったのか、辺りが薄暗くなってきている。日がかなり傾いてきたようだ。
「今日はあの辺で野営にしよう」
立ち止まったルトが振り返った。指差した先には大きな岩が屋根のように突き出していて、少しの雨なら凌げそうな場所だ。
「うん。それじゃあ薪を拾ってくるよ」
ミスティは細道から森の中に入る。真っ暗になってしまうと歩いてきた一本道も見失う。だからそうなる前に素早く薪を集めなくてはいけない。ミスティは大急ぎで薪を集めて小道に戻り、ルトが提案した野営の場所へと向かった。薪を焚べやすいように石で囲いが作られてある。鞄からカップや鍋を出して、ルトが準備をしてくれていた。
「お待たせ。このくらいあればいいかな」
両腕に薪を抱えて戻ってくると、お疲れ様、と声をかけてくれる。それがどことなく元気がないように思えて気になった。
湯を沸かしている間に寝床を整える。ロドリゲス夫婦が持たせてくれた食料を少し出し、キャリンがくれたらしい茶葉をルトがミスティのカップにも入れてくれる。
「これなんていうお茶なんだろう。すごくいい香りがする」
「あまい香りだな。俺も初めて飲む。なかなか美味い」
二人はそのお茶とパンとチーズで腹を満たす。今日はそんなに歩いていないのにやたらと眠くなる。大きなあくびをしていると、ルトに気づかれてしまった。
「もう寝るか?」
「あ、でも日記を書くからもう少し頑張らないと」
ミスティは鞄から日記帳を取り出した。それを開き、今日の出来事を記していく。とはいえ、昼過ぎにガレヤフを出てずっと森を歩いていたので、特に目立ったことはない。だから今日の日記には自分の気持ちを記すことにした。
ルトが自分は竜人かもしれないと落ち込んでいること。そして自分の物忘れを治せる特効薬がルトのキスであること。
思い出して書けば書くほど頭を抱えそうになる。ルトのキスで前日のことを少しでも覚えていられるならミスティにとっては朗報だが……。
(ルトとのキスで、僕、おかしなことになるから、ちょっと困るかも)
ガレヤフで昨日ルトとキスをしたとき、ミスティの体に異変が起きた。生まれて初めての体験で怖くなって、ミスティはルトを拒絶した。今日ももしあんなことが起きたらどうすればいいのか。ルトに知られてしまったら、どう思われるのか。考えるだけで怖くなった。
(今日はキスをしないでもいいかな。しなくても今日のことを覚えていたら、そしたら僕の物忘れは治ってきていることになる……)
そうしたら恥ずかしさを我慢してキスをすることもないだろう。ここまで書いてペンを置いた。膝の上に置いていた日記帳を閉じた。
「終わった?」
「あ、うん」
ミスティが書き終えてすぐルトが声をかけてくる。今夜も寝る前の治療実験をしようと思っているのだとすぐにわかった。
「じゃあ、今夜も……」
「ねえ、ルト。今夜はしなくていいよ」
ミスティはルトの言葉を慌てたように遮った。
「え、どうして?」
「だって治療の実験だって言うなら、ルトとキスをしなかったことで僕の記憶がどうなるかを見ないと、キスで効果が出ているのかどうか判断できないと思うんだ。だから、今夜はなしで寝てみようと思う」
ミスティがキスをしなくていい理由を説明すると、ルトがなるほどと呟いた。
「ならそのことも日記に書いたほうがいい」
「あ、う、うん。そうだよね、わかった」
今、ルトと一緒に治療実験をしていることも詳しく書き、ミスティは今度こそ日記帳を閉じた。
薪の火を少し小さくして、ミスティはルトに背中を向けるようにして毛布に包まった。キスを拒んだミスティのことをルトはどう思っているだろうか。
(今、どんな顔で僕のことを見てるだろう)
しばらくは気になっていたが、襲ってきた睡魔のせいでミスティの意識はすぐになくなってしまったのだった。
ガレヤフ村を出たミスティとルトは、トラジの家で得た情報を元に、ハーザンドの街へ向かう。ガレヤフ村にいたのはほんの少しだったが、そこでミスティは自分の記憶を維持する方法を見つけた気がしてうれしかった。
(ルトとキスをすることで記憶が消えなくなるとは思ってなかったから、それはそれで驚いたけど。でも完全には覚えていられないのがちょっとつらいな……)
森の一本道を進みながら、ルトの背中を見つめて思う。トラジの家で見せてもらった文献で、かなりの有力情報を得た。それはすごくいいことだったが、ルトはどう思っているのだろうか。
(ルトが人ではなくて竜人かもしれないこと。すごくショックを受けてたな。ルト、大丈夫かな)
おそらくルトは竜人だろう。全身を覆い尽くそうとしている鱗の広がり具合を見ていたらそう思ってしまう。この先のことを思うときっと不安に違いない。
黒竜病を治すために旅をしていたのに、新たな事実を知ることとなった。ルトが竜人であることがミスティを助けることになるなんて、なんとも皮肉なことだ。ルサンド高原やハーザンドで二つの問題が一気に解決するような、新たな情報が手に入ればいいなとミスティは思っていた。
二人は森の中を進んでいた。昼過ぎにガレヤフ村を出てからどのくらいが経ったのか、辺りが薄暗くなってきている。日がかなり傾いてきたようだ。
「今日はあの辺で野営にしよう」
立ち止まったルトが振り返った。指差した先には大きな岩が屋根のように突き出していて、少しの雨なら凌げそうな場所だ。
「うん。それじゃあ薪を拾ってくるよ」
ミスティは細道から森の中に入る。真っ暗になってしまうと歩いてきた一本道も見失う。だからそうなる前に素早く薪を集めなくてはいけない。ミスティは大急ぎで薪を集めて小道に戻り、ルトが提案した野営の場所へと向かった。薪を焚べやすいように石で囲いが作られてある。鞄からカップや鍋を出して、ルトが準備をしてくれていた。
「お待たせ。このくらいあればいいかな」
両腕に薪を抱えて戻ってくると、お疲れ様、と声をかけてくれる。それがどことなく元気がないように思えて気になった。
湯を沸かしている間に寝床を整える。ロドリゲス夫婦が持たせてくれた食料を少し出し、キャリンがくれたらしい茶葉をルトがミスティのカップにも入れてくれる。
「これなんていうお茶なんだろう。すごくいい香りがする」
「あまい香りだな。俺も初めて飲む。なかなか美味い」
二人はそのお茶とパンとチーズで腹を満たす。今日はそんなに歩いていないのにやたらと眠くなる。大きなあくびをしていると、ルトに気づかれてしまった。
「もう寝るか?」
「あ、でも日記を書くからもう少し頑張らないと」
ミスティは鞄から日記帳を取り出した。それを開き、今日の出来事を記していく。とはいえ、昼過ぎにガレヤフを出てずっと森を歩いていたので、特に目立ったことはない。だから今日の日記には自分の気持ちを記すことにした。
ルトが自分は竜人かもしれないと落ち込んでいること。そして自分の物忘れを治せる特効薬がルトのキスであること。
思い出して書けば書くほど頭を抱えそうになる。ルトのキスで前日のことを少しでも覚えていられるならミスティにとっては朗報だが……。
(ルトとのキスで、僕、おかしなことになるから、ちょっと困るかも)
ガレヤフで昨日ルトとキスをしたとき、ミスティの体に異変が起きた。生まれて初めての体験で怖くなって、ミスティはルトを拒絶した。今日ももしあんなことが起きたらどうすればいいのか。ルトに知られてしまったら、どう思われるのか。考えるだけで怖くなった。
(今日はキスをしないでもいいかな。しなくても今日のことを覚えていたら、そしたら僕の物忘れは治ってきていることになる……)
そうしたら恥ずかしさを我慢してキスをすることもないだろう。ここまで書いてペンを置いた。膝の上に置いていた日記帳を閉じた。
「終わった?」
「あ、うん」
ミスティが書き終えてすぐルトが声をかけてくる。今夜も寝る前の治療実験をしようと思っているのだとすぐにわかった。
「じゃあ、今夜も……」
「ねえ、ルト。今夜はしなくていいよ」
ミスティはルトの言葉を慌てたように遮った。
「え、どうして?」
「だって治療の実験だって言うなら、ルトとキスをしなかったことで僕の記憶がどうなるかを見ないと、キスで効果が出ているのかどうか判断できないと思うんだ。だから、今夜はなしで寝てみようと思う」
ミスティがキスをしなくていい理由を説明すると、ルトがなるほどと呟いた。
「ならそのことも日記に書いたほうがいい」
「あ、う、うん。そうだよね、わかった」
今、ルトと一緒に治療実験をしていることも詳しく書き、ミスティは今度こそ日記帳を閉じた。
薪の火を少し小さくして、ミスティはルトに背中を向けるようにして毛布に包まった。キスを拒んだミスティのことをルトはどう思っているだろうか。
(今、どんな顔で僕のことを見てるだろう)
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