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第三章
記憶の喪失
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ガサガサという物音でミスティは目が覚めた。目の前にはオレンジ色に燃える焚き火が見える。寝ぼけているのか、ミスティは何度も瞬きをして体を起こし目を擦った。
「なに……ここ、どこ? どうなって……」
なぜ自分が薄暗い森の中に寝ているのかわからない。そして目の前で男が二人、もみ合っているのが見えた。
「大人しく金目の物を出せ!」
「お前らに渡すものなのど、なにもない!」
一人の男の手にはナイフが握られている。もう一人の男は刺し殺そうとする男の腕を掴んでそれを阻んでいた。すると森の中から小柄な男が姿を見せて、ミスティの方へと近づいてくる。
「おい、お前。金を出せ」
「な、なに? なんで? あなたたちは誰?」
「は? 誰? ってか。お前、野盗ってのを知らないのか? それにしてもかわいい顔をしているな。兄貴! 金目のものがないってんなら、こいつを連れて行きましょうぜ!」
「い、痛い!」
小柄だが人相の悪い男がミスティの手首を掴んで引っ張った。毛布から引きずり出され、地面に叩きつけられる。
「そいつを連れて行け! 男でも女でも売れそうな顔してやがるからな!」
取っ組み合っている男が、ミスティを引っ張った小男にそう命令している。ミスティは身の危険を感じ逃げようと起き上がるが、すぐに捕まってしまった。
「なにするんだ! 離せよ!」
後ろから首に腕を回されて羽交い締めにされる。苦しくて藻掻くが、ミスティの力では振り切れない。
「ミスティに手を出すな!」
「おいおい、お前の相手は俺だろう!」
ミスティに手を出すなと言った男は、刃物を持った野盗を押さえることで精一杯のようだ。その間にミスティはどんどん森の奥へ引っ張られていく。
「いやだ! 助けて! 助けて! ……んんっ!」
叫ぶ口を塞がれた。このままどうなってしまうのかと怖くなり必死に暴れる。しかしミスティの力ではどうにもならなかった。
そのときだった――。
「やめろと言っているだろう……」
聞いたことのないような声が聞こえた。人の声がいくつも重なったような、とても生き物の声には聞こえない、咆哮のようにも聞こえた。その声がする方を見た瞬間、ミスティも小男も動きを止めた。
「な、なんだあいつ……」
刃物を持った男の首を片手で掴み、軽々と持ち上げている。掴んでいる手は真っ黒で大きく、指先には鋭い爪が見えた。完全に人のものではない。さらに頬や額に黒い染みのようなものが浮かび上がっていた。掴まれている男の足は地面から離れて宙ぶらりんだ。とても人の力とは思えないものだった。
「ミスティから離れないと、こいつを殺す」
周囲に風はないはずなのに、首を掴んでいる男の髪は逆立ち靡いている。首を掴んだままこちらに向かって歩いてきた。
「うううう、ぐぅぅぅ……」
首を掴まれた男は息ができないのか、手に持っていた刃物はすでに離し、両手で必死に異形の手から逃れようとしている。しかしどうすることもできないようで、口の端からダラダラと涎をあふれさせ始めた。
「ミスティを、離せ……」
髪の逆立った男の目は真っ赤になって光っている。この世の生き物ではないみたいだった。ミスティを捕まえていた小男が手を離し、怯えた様子で後退りし始める。
「な、な、なんなんだ、お前は……!」
異形の手はギリギリと首を締め上げて、最後にはその首を掴み潰してしまったのである。
男の断末魔が森に響く。
目の前に広がる血飛沫がスローモーションのように見えた。
ミスティは頬や額に違和感を覚え、地面に座り込んだまま自分の頬に触れて確かめる。指先を見てみるとベッタリと血がついていた。
ドサッと地面に首なしの体が落とされる。そのあと時間差で、近くに刃物男の首が転がった。辺りは血の海だ。
「ひいいいいい! ば、化物! 化物だ!」
ミスティを羽交い締めにしていた小男が、背中を向けて森の中へ駆け出した。ミスティはただ呆然として座ったままだ。そのミスティの横を、血まみれの手をした男が通り過ぎ森へ入っていく。
そしてしばらくして森の中から悲鳴が聞こえた。きっと初めの男と同じように殺されてしまったのだろう。
「これ、は、なに……?」
真っ赤になって震える両手を見つめる。なにが起きているのか全くわからない。知らない男が三人いて、一人は人ではない様相で二人を殺した。自分は外に寝ているし、両親もいない。なにがどうなっているのか理解できなかった。
するとしばらくして森から足音が聞こえた。あの恐ろしい化物が、ミスティを殺しに戻ってきたのだろうか。
そう思うと怖くて体が震えだした。立ち上がって逃げたいのに、腰に力が入らない。ミスティは地面を這うようにして逃げるが、目の前に男の足が現れて動きを止めた。
「ミスティ……」
「い、いやだ……殺さないで! いやだ! いやだ!」
慌てたミスティは体を起こして尻もちをついた。そのまま後ろへと下がっていくが、震える腕には力が入らない。
「ミスティ、俺だ。ルトだ。わからないのか?」
「誰? 誰? なんなの? 助けて! 誰か……!」
パニックになりすぎて緊張がピークに達し、そこでミティの意識は途切れた。
「なに……ここ、どこ? どうなって……」
なぜ自分が薄暗い森の中に寝ているのかわからない。そして目の前で男が二人、もみ合っているのが見えた。
「大人しく金目の物を出せ!」
「お前らに渡すものなのど、なにもない!」
一人の男の手にはナイフが握られている。もう一人の男は刺し殺そうとする男の腕を掴んでそれを阻んでいた。すると森の中から小柄な男が姿を見せて、ミスティの方へと近づいてくる。
「おい、お前。金を出せ」
「な、なに? なんで? あなたたちは誰?」
「は? 誰? ってか。お前、野盗ってのを知らないのか? それにしてもかわいい顔をしているな。兄貴! 金目のものがないってんなら、こいつを連れて行きましょうぜ!」
「い、痛い!」
小柄だが人相の悪い男がミスティの手首を掴んで引っ張った。毛布から引きずり出され、地面に叩きつけられる。
「そいつを連れて行け! 男でも女でも売れそうな顔してやがるからな!」
取っ組み合っている男が、ミスティを引っ張った小男にそう命令している。ミスティは身の危険を感じ逃げようと起き上がるが、すぐに捕まってしまった。
「なにするんだ! 離せよ!」
後ろから首に腕を回されて羽交い締めにされる。苦しくて藻掻くが、ミスティの力では振り切れない。
「ミスティに手を出すな!」
「おいおい、お前の相手は俺だろう!」
ミスティに手を出すなと言った男は、刃物を持った野盗を押さえることで精一杯のようだ。その間にミスティはどんどん森の奥へ引っ張られていく。
「いやだ! 助けて! 助けて! ……んんっ!」
叫ぶ口を塞がれた。このままどうなってしまうのかと怖くなり必死に暴れる。しかしミスティの力ではどうにもならなかった。
そのときだった――。
「やめろと言っているだろう……」
聞いたことのないような声が聞こえた。人の声がいくつも重なったような、とても生き物の声には聞こえない、咆哮のようにも聞こえた。その声がする方を見た瞬間、ミスティも小男も動きを止めた。
「な、なんだあいつ……」
刃物を持った男の首を片手で掴み、軽々と持ち上げている。掴んでいる手は真っ黒で大きく、指先には鋭い爪が見えた。完全に人のものではない。さらに頬や額に黒い染みのようなものが浮かび上がっていた。掴まれている男の足は地面から離れて宙ぶらりんだ。とても人の力とは思えないものだった。
「ミスティから離れないと、こいつを殺す」
周囲に風はないはずなのに、首を掴んでいる男の髪は逆立ち靡いている。首を掴んだままこちらに向かって歩いてきた。
「うううう、ぐぅぅぅ……」
首を掴まれた男は息ができないのか、手に持っていた刃物はすでに離し、両手で必死に異形の手から逃れようとしている。しかしどうすることもできないようで、口の端からダラダラと涎をあふれさせ始めた。
「ミスティを、離せ……」
髪の逆立った男の目は真っ赤になって光っている。この世の生き物ではないみたいだった。ミスティを捕まえていた小男が手を離し、怯えた様子で後退りし始める。
「な、な、なんなんだ、お前は……!」
異形の手はギリギリと首を締め上げて、最後にはその首を掴み潰してしまったのである。
男の断末魔が森に響く。
目の前に広がる血飛沫がスローモーションのように見えた。
ミスティは頬や額に違和感を覚え、地面に座り込んだまま自分の頬に触れて確かめる。指先を見てみるとベッタリと血がついていた。
ドサッと地面に首なしの体が落とされる。そのあと時間差で、近くに刃物男の首が転がった。辺りは血の海だ。
「ひいいいいい! ば、化物! 化物だ!」
ミスティを羽交い締めにしていた小男が、背中を向けて森の中へ駆け出した。ミスティはただ呆然として座ったままだ。そのミスティの横を、血まみれの手をした男が通り過ぎ森へ入っていく。
そしてしばらくして森の中から悲鳴が聞こえた。きっと初めの男と同じように殺されてしまったのだろう。
「これ、は、なに……?」
真っ赤になって震える両手を見つめる。なにが起きているのか全くわからない。知らない男が三人いて、一人は人ではない様相で二人を殺した。自分は外に寝ているし、両親もいない。なにがどうなっているのか理解できなかった。
するとしばらくして森から足音が聞こえた。あの恐ろしい化物が、ミスティを殺しに戻ってきたのだろうか。
そう思うと怖くて体が震えだした。立ち上がって逃げたいのに、腰に力が入らない。ミスティは地面を這うようにして逃げるが、目の前に男の足が現れて動きを止めた。
「ミスティ……」
「い、いやだ……殺さないで! いやだ! いやだ!」
慌てたミスティは体を起こして尻もちをついた。そのまま後ろへと下がっていくが、震える腕には力が入らない。
「ミスティ、俺だ。ルトだ。わからないのか?」
「誰? 誰? なんなの? 助けて! 誰か……!」
パニックになりすぎて緊張がピークに達し、そこでミティの意識は途切れた。
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