【完結】【R18】【BL】ミスティの記憶と悲しみの竜

柚槙ゆみ

文字の大きさ
25 / 48
第三章

記憶の喪失

しおりを挟む
 ガサガサという物音でミスティは目が覚めた。目の前にはオレンジ色に燃える焚き火が見える。寝ぼけているのか、ミスティは何度も瞬きをして体を起こし目を擦った。

「なに……ここ、どこ? どうなって……」

 なぜ自分が薄暗い森の中に寝ているのかわからない。そして目の前で男が二人、もみ合っているのが見えた。

「大人しく金目の物を出せ!」
「お前らに渡すものなのど、なにもない!」

 一人の男の手にはナイフが握られている。もう一人の男は刺し殺そうとする男の腕を掴んでそれを阻んでいた。すると森の中から小柄な男が姿を見せて、ミスティの方へと近づいてくる。

「おい、お前。金を出せ」
「な、なに? なんで? あなたたちは誰?」
「は? 誰? ってか。お前、野盗ってのを知らないのか? それにしてもかわいい顔をしているな。兄貴! 金目のものがないってんなら、こいつを連れて行きましょうぜ!」
「い、痛い!」

 小柄だが人相の悪い男がミスティの手首を掴んで引っ張った。毛布から引きずり出され、地面に叩きつけられる。

「そいつを連れて行け! 男でも女でも売れそうな顔してやがるからな!」

 取っ組み合っている男が、ミスティを引っ張った小男にそう命令している。ミスティは身の危険を感じ逃げようと起き上がるが、すぐに捕まってしまった。

「なにするんだ! 離せよ!」

 後ろから首に腕を回されて羽交い締めにされる。苦しくて藻掻くが、ミスティの力では振り切れない。

「ミスティに手を出すな!」
「おいおい、お前の相手は俺だろう!」

 ミスティに手を出すなと言った男は、刃物を持った野盗を押さえることで精一杯のようだ。その間にミスティはどんどん森の奥へ引っ張られていく。

「いやだ! 助けて! 助けて! ……んんっ!」

 叫ぶ口を塞がれた。このままどうなってしまうのかと怖くなり必死に暴れる。しかしミスティの力ではどうにもならなかった。
 そのときだった――。

「やめろと言っているだろう……」

 聞いたことのないような声が聞こえた。人の声がいくつも重なったような、とても生き物の声には聞こえない、咆哮のようにも聞こえた。その声がする方を見た瞬間、ミスティも小男も動きを止めた。

「な、なんだあいつ……」

 刃物を持った男の首を片手で掴み、軽々と持ち上げている。掴んでいる手は真っ黒で大きく、指先には鋭い爪が見えた。完全に人のものではない。さらに頬や額に黒い染みのようなものが浮かび上がっていた。掴まれている男の足は地面から離れて宙ぶらりんだ。とても人の力とは思えないものだった。

「ミスティから離れないと、こいつを殺す」 

 周囲に風はないはずなのに、首を掴んでいる男の髪は逆立ち靡いている。首を掴んだままこちらに向かって歩いてきた。

「うううう、ぐぅぅぅ……」

 首を掴まれた男は息ができないのか、手に持っていた刃物はすでに離し、両手で必死に異形の手から逃れようとしている。しかしどうすることもできないようで、口の端からダラダラと涎をあふれさせ始めた。

「ミスティを、離せ……」

 髪の逆立った男の目は真っ赤になって光っている。この世の生き物ではないみたいだった。ミスティを捕まえていた小男が手を離し、怯えた様子で後退りし始める。

「な、な、なんなんだ、お前は……!」

 異形の手はギリギリと首を締め上げて、最後にはその首を掴み潰してしまったのである。
 男の断末魔が森に響く。
 目の前に広がる血飛沫がスローモーションのように見えた。
 ミスティは頬や額に違和感を覚え、地面に座り込んだまま自分の頬に触れて確かめる。指先を見てみるとベッタリと血がついていた。
 ドサッと地面に首なしの体が落とされる。そのあと時間差で、近くに刃物男の首が転がった。辺りは血の海だ。

「ひいいいいい! ば、化物! 化物だ!」

 ミスティを羽交い締めにしていた小男が、背中を向けて森の中へ駆け出した。ミスティはただ呆然として座ったままだ。そのミスティの横を、血まみれの手をした男が通り過ぎ森へ入っていく。
 そしてしばらくして森の中から悲鳴が聞こえた。きっと初めの男と同じように殺されてしまったのだろう。

「これ、は、なに……?」

 真っ赤になって震える両手を見つめる。なにが起きているのか全くわからない。知らない男が三人いて、一人は人ではない様相で二人を殺した。自分は外に寝ているし、両親もいない。なにがどうなっているのか理解できなかった。
 するとしばらくして森から足音が聞こえた。あの恐ろしい化物が、ミスティを殺しに戻ってきたのだろうか。
 そう思うと怖くて体が震えだした。立ち上がって逃げたいのに、腰に力が入らない。ミスティは地面を這うようにして逃げるが、目の前に男の足が現れて動きを止めた。

「ミスティ……」
「い、いやだ……殺さないで! いやだ! いやだ!」

 慌てたミスティは体を起こして尻もちをついた。そのまま後ろへと下がっていくが、震える腕には力が入らない。

「ミスティ、俺だ。ルトだ。わからないのか?」
「誰? 誰? なんなの? 助けて! 誰か……!」

 パニックになりすぎて緊張がピークに達し、そこでミティの意識は途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】 公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。 「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」 世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!! 【謎多き従者×憎めない悪役】 4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。 原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし

トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

王子様と一緒。

紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。 ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。 南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。 様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...