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竜神教会
7.一緒にご飯(2)
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ぽつぽつと話していると、兵士たちの笑い声が聞こえてきた。
「お前、まじかよー!」
「まじっすまじっす。で、そのときこいつ、なんて言ったと思います?」
かなり盛り上がっているようで、少し離れたところで食べている人達の会話がこちらまで聴こえてくる。ああやって話している人たちを見ると、いいなあとサフィアは思ってしまう。今まで、ああやって大笑いしながら人と話したことがないのだ。そもそも、個人的な話をする友人すらいない。聖女と話しをするのすら畏れ多いと、サフィアが話しかけるだけ緊張させてしまう。聖女のサフィアにとって唯一対等な存在が、勇者なのだ。
「あいつら……」
ベテラン兵が立ち上がって、彼らのところへと行った。聖女様もいるところで馬鹿騒ぎするな、と叱るのだろう。そんな場面を、サフィアは何度も見てきた。自分は気にしないと言っているのだが、そうもいきませんと返されてしまう。叱られて謝っている兵士たちを見ていると、サフィアは申し訳ないような、寂しいような、そんな気持ちになるのだ。
サフィアがため息をついていると、食後のお菓子が配られた。
「サフィア、これは何なんだ?」
「あ、えっと……それは、クッキーよ」
「クッキーか。美味しいな、これ」
アーサーがクッキーを摘まんで食べる。クッキーも知らないとは、よっぽど貧しい暮らしをしていたのだろうか。気になったが、聞かないでおいた。あまりずかずかと踏み込んで、アーサーに嫌われたくはない。
「まだありますが、食べられますか?」
「頼む」
あっという間に食べ終わったアーサーに、団長が近くの兵士に声をかけて余りを持って来させる。アーサーはそれもあっという間に食べてしまった。
「これで終わりか?」
「そうですね。もう余りはなく……申し訳ございません」
「じゃあ、わたしのまだ残ってるから食べる?」
サフィアはドキドキしながら言った。
「いいのか?」
「ええ。お腹いっぱいだから、どうぞ」
「聖女様、兵士長のものがまだありますから、それでも」
「いいの。戻ってきていないのに、勝手に渡してはいけないわ。それに言ったでしょう、お腹いっぱいって。どうぞ、勇者様」
「ありがとう」
団長が慌てたが、サフィアは押し通した。アーサーは普通に受け取って、サフィアがまだ手をつけていなかったクッキーを食べる。それを見て、サフィアはいたずらが成功した子供のような高揚感を得ていた。食べ物を分けるのも、これが初めてだった。誰だって、聖女からものを受け取ろうとしないし、受け取ろうとすれば怒られる。でも、アーサーはそうじゃない。
にこにこするサフィアに、戻ってきたベテラン兵は首を傾げながら席についてクッキーをかじった。流石にアーサーもお腹が膨れたのか、ベテラン兵から取ろうとはしなかった。
「勇者様には申し訳ないんですが、闇竜討伐まであと半年、果たしてどれだけ勇者様を鍛えられるか心配してたんです。でも元々お強いですし、筋も良く飲み込みが早いですし、本当に助かりますよ。ありがとうございます」
「そうか」
ベテラン兵の言葉に、アーサーは無表情のまま頷いた。しかしそれに慣れているベテラン兵は気にすることなく、サフィアに笑いかける。
「勇者様が見つかって良かったですね、聖女様」
「ええ、本当に」
サフィアが笑うと、アーサーが顔を上げた。僅かに口角が上がっている、彼にしては珍しい表情だった。
「君がそう言ってくれるなら、良かった」
昼食のあとは、午前のように訓練をして終わった。アーサーはやはり午後の終わりの方には馬に乗りながら剣を扱えるようになるという、凄まじい成長を見せていた。
「お前、まじかよー!」
「まじっすまじっす。で、そのときこいつ、なんて言ったと思います?」
かなり盛り上がっているようで、少し離れたところで食べている人達の会話がこちらまで聴こえてくる。ああやって話している人たちを見ると、いいなあとサフィアは思ってしまう。今まで、ああやって大笑いしながら人と話したことがないのだ。そもそも、個人的な話をする友人すらいない。聖女と話しをするのすら畏れ多いと、サフィアが話しかけるだけ緊張させてしまう。聖女のサフィアにとって唯一対等な存在が、勇者なのだ。
「あいつら……」
ベテラン兵が立ち上がって、彼らのところへと行った。聖女様もいるところで馬鹿騒ぎするな、と叱るのだろう。そんな場面を、サフィアは何度も見てきた。自分は気にしないと言っているのだが、そうもいきませんと返されてしまう。叱られて謝っている兵士たちを見ていると、サフィアは申し訳ないような、寂しいような、そんな気持ちになるのだ。
サフィアがため息をついていると、食後のお菓子が配られた。
「サフィア、これは何なんだ?」
「あ、えっと……それは、クッキーよ」
「クッキーか。美味しいな、これ」
アーサーがクッキーを摘まんで食べる。クッキーも知らないとは、よっぽど貧しい暮らしをしていたのだろうか。気になったが、聞かないでおいた。あまりずかずかと踏み込んで、アーサーに嫌われたくはない。
「まだありますが、食べられますか?」
「頼む」
あっという間に食べ終わったアーサーに、団長が近くの兵士に声をかけて余りを持って来させる。アーサーはそれもあっという間に食べてしまった。
「これで終わりか?」
「そうですね。もう余りはなく……申し訳ございません」
「じゃあ、わたしのまだ残ってるから食べる?」
サフィアはドキドキしながら言った。
「いいのか?」
「ええ。お腹いっぱいだから、どうぞ」
「聖女様、兵士長のものがまだありますから、それでも」
「いいの。戻ってきていないのに、勝手に渡してはいけないわ。それに言ったでしょう、お腹いっぱいって。どうぞ、勇者様」
「ありがとう」
団長が慌てたが、サフィアは押し通した。アーサーは普通に受け取って、サフィアがまだ手をつけていなかったクッキーを食べる。それを見て、サフィアはいたずらが成功した子供のような高揚感を得ていた。食べ物を分けるのも、これが初めてだった。誰だって、聖女からものを受け取ろうとしないし、受け取ろうとすれば怒られる。でも、アーサーはそうじゃない。
にこにこするサフィアに、戻ってきたベテラン兵は首を傾げながら席についてクッキーをかじった。流石にアーサーもお腹が膨れたのか、ベテラン兵から取ろうとはしなかった。
「勇者様には申し訳ないんですが、闇竜討伐まであと半年、果たしてどれだけ勇者様を鍛えられるか心配してたんです。でも元々お強いですし、筋も良く飲み込みが早いですし、本当に助かりますよ。ありがとうございます」
「そうか」
ベテラン兵の言葉に、アーサーは無表情のまま頷いた。しかしそれに慣れているベテラン兵は気にすることなく、サフィアに笑いかける。
「勇者様が見つかって良かったですね、聖女様」
「ええ、本当に」
サフィアが笑うと、アーサーが顔を上げた。僅かに口角が上がっている、彼にしては珍しい表情だった。
「君がそう言ってくれるなら、良かった」
昼食のあとは、午前のように訓練をして終わった。アーサーはやはり午後の終わりの方には馬に乗りながら剣を扱えるようになるという、凄まじい成長を見せていた。
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