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闇竜討伐の旅
15.旅路
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闇竜討伐の旅を勇者と聖女だけで行うのは、いくつか理由があった。
その一つは、勇者と聖女以外に英雄を作らないためだ。闇竜を倒すことができなくても、その旅に貢献した人物は、やはりそれだけで民衆の支持を受ける。
二つ目は、余計な争いを生まないためだ。基本的に勇者と聖女は教会で家族のように育ち、いずれ王族に入ることが互いに分かっている。なので普通は余計な気を起こさないし、自分たちの将来をきちんと分かっている。けれどそこに別の人間が入れば、その均衡が崩れる場合がある。それには御者なども含まれてしまうため、勇者と聖女は自分たちで馬を操り、闇竜の元へ向かうことになる。
過去の歴史を踏まえると、おおまかにはこの二つの理由によって、二人旅をする決まりになっていた。二人で馬を使って、大教会から闇竜が住む洞窟まで、立ち寄った村や町で休んだり、野宿をしながら進んでいく。途中で厄介そうな魔物を見つければ倒し、人々の身近に迫っている不安を取り除いていくのだ。
「左から来る。俺がやる」
「ありがとう、お願い!」
旅に出てから一週間。サフィアとアーサーは、街道で馬を走らせていた。今は、町から町への移動中だ。町の外は危険な魔物や獣たちがいて、街道も例外ではない。
走っていると左側の木陰から狼のような姿の魔物が飛び出してきたが、地面から伸びた木の根がそれを捕え、動きを止めた。アーサーの草魔法だ。二人は、動けなくなった魔物の横をそのまま通り過ぎて進んでいく。
「鳥型が東から来る。頼んだ」
「任せて!」
空に注意を向けながら走っていると、アーサーが言ったとおり東の方から鳥型の魔物が何匹か飛んできた。サフィアが手をかざして水魔法を使う。すると空中に巨大な水の塊が現れて、魔物を中に閉じ込めた。そのままにしていれば、窒息していずれ息絶えるだろう。
あくまで移動を最優先に、馬の足を止めないように対処していく。街道の脇に生えている草木がアーサーに魔物の位置を教えてくれるので、効率良く魔物を倒したり避けながら進むことができていた。
「この先、赤い花が咲いてるあたりで地中に魔物がいる。人が通るのを待っているらしい」
「分かったわ」
サフィアもアーサーも、馬の上で武器を構えた。赤い花が見えて来ると、地面を割って巨大なミミズのような魔物が現れる。二人はそれぞれ魔物の両脇に馬を走らせて、左右から通りがけに切りつけた。魔物の断末魔の叫びを後ろに、二人は馬を走らせ続ける。
「もう夕日になっちゃってるわね。そろそろ野宿の準備をしないと」
「ああ。…………もう少し進めば、魔物が少なくなるそうだ」
「分かったわ。ありがとう」
基本的には町や村で夜を過ごしたいが、一日で移動できない距離だと野宿をするしかなくなる。視界も悪く、魔物たちが活発になる夜道を進むのは危険だからだ。
「この辺りだ」
アーサーの言葉に、サフィアは馬を止めた。二人で馬を降りて、街道を少し外れた草地に足を踏み入れる。アーサーが地面に両手をつけると、巨大な木の根が何本も生えてきた。それらはサフィアたちの身長の倍くらいまで伸びると互いに身を絡ませ合い、テントのような形になる。アーサーは更に馬の近くで地面に手を当てて木の根を生やし、檻のように馬を囲った。魔物たちから守るためだ。
サフィアは荷物から魔除けの香を取り出して、馬と自分たちの木の根の周りに置いて火をつけた。あたりにミントのような清涼感のある香りが広がる。
まだ木のテントには入らず、まずは馬たちに水とエサをあげた。そして自分たちのご飯も取り出して、馬のそばで食べる。魔除けの香も絶対ではないので、魔物や獣が食べ物の匂いに引き寄せられる可能性があるのだ。だから日が沈む前に、周囲を警戒しながら食事を済ませる。
朝、町を出る前に買ったサンドイッチとクッキーに、お店のおばさんがおまけしてくれたラスクを食べ終わる頃には、馬たちも食事を終えていた。片付けて、二人は木のテントに入る。
荷物を下ろすと、アーサーが口を開いた。
「足、怪我しているだろう。治すから見せてくれ」
「いいわよ。かすり傷だから、薬を塗っておけばそのうち治るわ」
「もし痕が残ったら大変だろう」
「別に、大丈夫よ」
「俺が気にする」
アーサーが荷物から布を取り出し、サフィアの足元に敷いた。
その一つは、勇者と聖女以外に英雄を作らないためだ。闇竜を倒すことができなくても、その旅に貢献した人物は、やはりそれだけで民衆の支持を受ける。
二つ目は、余計な争いを生まないためだ。基本的に勇者と聖女は教会で家族のように育ち、いずれ王族に入ることが互いに分かっている。なので普通は余計な気を起こさないし、自分たちの将来をきちんと分かっている。けれどそこに別の人間が入れば、その均衡が崩れる場合がある。それには御者なども含まれてしまうため、勇者と聖女は自分たちで馬を操り、闇竜の元へ向かうことになる。
過去の歴史を踏まえると、おおまかにはこの二つの理由によって、二人旅をする決まりになっていた。二人で馬を使って、大教会から闇竜が住む洞窟まで、立ち寄った村や町で休んだり、野宿をしながら進んでいく。途中で厄介そうな魔物を見つければ倒し、人々の身近に迫っている不安を取り除いていくのだ。
「左から来る。俺がやる」
「ありがとう、お願い!」
旅に出てから一週間。サフィアとアーサーは、街道で馬を走らせていた。今は、町から町への移動中だ。町の外は危険な魔物や獣たちがいて、街道も例外ではない。
走っていると左側の木陰から狼のような姿の魔物が飛び出してきたが、地面から伸びた木の根がそれを捕え、動きを止めた。アーサーの草魔法だ。二人は、動けなくなった魔物の横をそのまま通り過ぎて進んでいく。
「鳥型が東から来る。頼んだ」
「任せて!」
空に注意を向けながら走っていると、アーサーが言ったとおり東の方から鳥型の魔物が何匹か飛んできた。サフィアが手をかざして水魔法を使う。すると空中に巨大な水の塊が現れて、魔物を中に閉じ込めた。そのままにしていれば、窒息していずれ息絶えるだろう。
あくまで移動を最優先に、馬の足を止めないように対処していく。街道の脇に生えている草木がアーサーに魔物の位置を教えてくれるので、効率良く魔物を倒したり避けながら進むことができていた。
「この先、赤い花が咲いてるあたりで地中に魔物がいる。人が通るのを待っているらしい」
「分かったわ」
サフィアもアーサーも、馬の上で武器を構えた。赤い花が見えて来ると、地面を割って巨大なミミズのような魔物が現れる。二人はそれぞれ魔物の両脇に馬を走らせて、左右から通りがけに切りつけた。魔物の断末魔の叫びを後ろに、二人は馬を走らせ続ける。
「もう夕日になっちゃってるわね。そろそろ野宿の準備をしないと」
「ああ。…………もう少し進めば、魔物が少なくなるそうだ」
「分かったわ。ありがとう」
基本的には町や村で夜を過ごしたいが、一日で移動できない距離だと野宿をするしかなくなる。視界も悪く、魔物たちが活発になる夜道を進むのは危険だからだ。
「この辺りだ」
アーサーの言葉に、サフィアは馬を止めた。二人で馬を降りて、街道を少し外れた草地に足を踏み入れる。アーサーが地面に両手をつけると、巨大な木の根が何本も生えてきた。それらはサフィアたちの身長の倍くらいまで伸びると互いに身を絡ませ合い、テントのような形になる。アーサーは更に馬の近くで地面に手を当てて木の根を生やし、檻のように馬を囲った。魔物たちから守るためだ。
サフィアは荷物から魔除けの香を取り出して、馬と自分たちの木の根の周りに置いて火をつけた。あたりにミントのような清涼感のある香りが広がる。
まだ木のテントには入らず、まずは馬たちに水とエサをあげた。そして自分たちのご飯も取り出して、馬のそばで食べる。魔除けの香も絶対ではないので、魔物や獣が食べ物の匂いに引き寄せられる可能性があるのだ。だから日が沈む前に、周囲を警戒しながら食事を済ませる。
朝、町を出る前に買ったサンドイッチとクッキーに、お店のおばさんがおまけしてくれたラスクを食べ終わる頃には、馬たちも食事を終えていた。片付けて、二人は木のテントに入る。
荷物を下ろすと、アーサーが口を開いた。
「足、怪我しているだろう。治すから見せてくれ」
「いいわよ。かすり傷だから、薬を塗っておけばそのうち治るわ」
「もし痕が残ったら大変だろう」
「別に、大丈夫よ」
「俺が気にする」
アーサーが荷物から布を取り出し、サフィアの足元に敷いた。
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