夢にっき

かものはし

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予知夢

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飛行機に降りてからずっと、胸騒ぎが止まらなかった。胸騒ぎの理由はわからない。普通こういうのは飛行機に乗ってる間不安になるものではないかと、自分で自分を笑った。
私は久しぶりの日本の空気を感じてもなお、胸騒ぎが止まらなかった。それどころか、空港のロビーを突っ切り、タクシーを拾うために外に出てもなお、不安の色がどんどん色濃くなった。あまりにも不安が押し寄せるため、途中空港の中で出くわしたロッカーを意味もなく開け閉めしたり、いつでも緊急ダイヤルを押せるように、スマホを片手に握りしめていた。

最近のスマホは電源ボタンを5回連続で押すと5秒後にアラームが鳴り、警察に連絡が行くらしい。いまだ押したことがないので、らしいとしか言えないが。
空港で拾ったタクシーから見る外の景色は曇っていた。曇っていたが暗くはなく、明るい灰色。雲が薄いんだろうなとぼんやりと考えたのを覚えている。先ほどまでいた外国は真っ青な、太陽が似つかわしい空だった。どちらの空も、私とは似つかない。

タクシーに乗ってる時間は風のように一瞬に感じたが、不安までは吹き飛ばしてくれなかった。ふらふらな気持ちは視力までも蝕み、タクシーの運転手の顔が全面肌色のっぺらぼうに見えたし、いつもは白くくすんだ家も外国の建物のように白く浮き上がって見えた。

片手にスマホを持ちながら、片手で玄関のカギを開けようと四苦八苦してた時、玄関隣の窓がゆっくりと開き、そして小太りの中年が顔を出した。こんな人知らない。声も出せずに、そいつと向き合うと、そいつはいやらしく口角を挙げて、それはそれはうれしそうに笑って見せた。浅黒い肌に黄ばんだ歯が特徴的だった。
「ここにはたんまり金があるんだな。もらってくわ」
そいつが私に背を向けた瞬間、胸騒ぎの正体はこれだったのかと、胸がすっきりし、私はスマホの電源ボタンを5回押した。なぜか金縛りのように腕も足も表情も動かなかったのに、親指だけは胸の軽さと比例して、何ならいつもより素早く動いた。泥棒は笑いながら遠ざかっていく。泥棒は薄汚い焦げ茶色のリュックと、両手でぎりぎり抱えられるだけの緑の風呂敷を抱えていた。あの手に持っている大きさからして、相当の金を盗んだんだろう。これから先どうなるのか。すっきりした心に再び暗雲が立ち込めるのと、泥棒が角を曲がるのと、アラーム
が鳴るのは、同時だったと思う。

私はアラームが鳴る前に、目を覚ました。
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