パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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93.後悔先に立たず

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「やあ、待っていたよ。よく戻ってきたね。それで、どうだった?」

「……ボ、ボボボッ、ボス、が……ボスが出てた……」

「そっか、ご苦労様」

「へへっ。お疲れさん」

 夜空に満月が浮かび上がる中、前庭に戻ってきた恰幅のいい男を前に、ラキルとルベックが顔を見合わせて笑う。

「あ、あの……」

 男が忙しなく目を動かすも、人質にされていた仲間の少女はどこにも見当たらなかった。

「ん? どうしたんだい?」

「どうしたんだ?」

「い、いや……その、リアン、は……?」

「あぁ、彼女ならちゃんとそこにいるよ?」

「え? どこ……」

 ラキルに指し示された方向はルベックの後ろで、血がポトポトと垂れ落ちていた。

「え、え……?」

「ほらよっ。感動の再会ってやつだ」

 ルベックが笑顔で男に渡したのは、人質にされていたお下げ髪の少女の首だった。

「リ、リ……リア、ン……?」

 男の顔が見る見る凍り付いていく。

 彼――今年で齢35になる中級冒険者のカイン――にとって、リアンは初恋の少女であり仲も良い間柄だったが、年齢差やパーティーの雰囲気を壊したくないという理由もあって思いを伝えたことはなかった。

「ごめんねぇ。女の子だから顔に傷つけたら大変だと思って、一応僕も手加減したんだけど、遊んでる途中でもげちゃった……」

「……あ、あ……」

「なんだよ、気に入らなかったのか? まあどう見ても死んでるけどよ、ちょっとこっちがミスして殺しちまっただけだし……そう気を落とすなよ。わりーわりー。ごめんな?」

 顔面蒼白になっているカインの肩を軽い調子で叩くルベック。

「おい、何黙ってんだよお前。失礼だろカス。ちゃんと約束通り人質を返してやったんだからお礼くらい言えよ」

「そうだよ……。ちゃんと礼儀をわきまえてるなら、ありがとうくらい言えるはずだよ?」

「う、う……うあああぁぁぁっ!」

 カインはしばらく泣きながら受け取った首を抱きしめていたが、まもなく目を剥いて狂ったように斧を振り回し始めた。

 一見すると狂戦士症だが、一部の効果が被るだけで中身はまったく別物だ。その正体は彼の固有能力【闘争】の基本スキル《無我》によるものであり、スピードもパワーも今まで通りだが、精神力や体力が充分にある間は我を忘れたかのように、あらゆる感情に縛られることなく戦うことが可能なのだ。

 臆病なカインにとってはなくてはならないスキルだったため、日々の訓練によって《無我》の熟練度をFからBまで上昇させ、スキルランクもDからBまで押し上げたのである。

 さらにCランク派生スキル《屈強》は、どれだけダメージを受けたりスタミナが切れたりしても痛みを軽減できる、簡単には呼吸や意識が途切れないというものであり、容易に死ぬことはなく効果時間も長いため、普段は臆病な上に痛みにとても敏感で前に出たがらないカインも、心身を保護できる《無我》と《屈強》の二つのスキルを使用することで、いざというときには有能な前衛として頼りにされていたのだ。

「おっ。仲間があんな目に遭ってんのに、それでも逆らえるとかやるじゃん。まさかそれがてめえの固有能力だったりしてな?」

「黙れ! 鬼畜どもめがあああっ!」

「おーおー。俺たち鬼畜だってよー」

 ルベックがAランクの基本スキル《電光石火》を温存しつつも、カインの攻撃を軽くかわしながらおどけたように舌を出したので笑い声が上がる。

「舐めるなああぁぁっ!」

「うっ……?」

 斧を捨てたカインの拳が、余所見していたルベックの顎にもろに命中し、彼は派手に倒れ込んだ。

「……けっ。こんな雑魚に当てられるなんてよー……」

「リアンの仇いいぃぃっ!」

「おっと……」

 即座に起き上がってカインの追撃をかわしたルベックの体が幾つも分裂するかのように増えていく。

「おい、これでもう一回当ててみろよ」

「……な、何……?」

 ルベックのBランク派生スキル《分身》である。それによって、あたかも本物であるかのようなルベックの残像がカインの目を惑わせることとなった。その間スキルの使用者は自由に動ける上、その動き次第で残像も変わっていくため、本物か偽物かを見分けるのは困難を極めるスキルなのだ。

「――この鬼畜めがああぁっ!」

 カインが再びルベックを殴ろうとするもそれは残像で、空振りした際に右手首が飛ぶ。

「うぐあぁっ!」

「へへっ……外れだ……」

 本物のルベックが繰り出した嵐渦剣による一撃だった。

「……う……うおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「おっ、まだやるのか」

「リアンンンッ……俺に力を貸してくれええええぇっ!」

 カインはそれでも仇を討つことをあきらめなかった。彼はリアンに恋をしていたのに、最後まで思いを伝えられなかったことを後悔していた。彼女と自分の無念を晴らすためにも、なんとしても仇を取りたかったのだ。

「――う……?」

 しばらくしてカインは、自分が仰向けの状態で倒れていて、なおかつ手足がごっそりなくなっていることに気付いた。その頭部にルベックの足が乗る。

「大人しく逃げりゃよかったものを……。殴ってくれたお礼にこれからじっくり解剖してやるぜ。もちろん生きたままなあ……」

「ひ、ひいいぃっ……! それだけは……許して、許してくれぇ。楽に死なせてえぇぇ……」

「ダメだ」

「そ、そそそっ、そんなあぁ……嫌だ、嫌だぁぁ……」

 最早精神力も体力も半分以上失い、《無我》が使えなくなったカイン。それが解除されれば、彼には効果時間の長い《屈強》が残るのみであり、ただ肉体的にタフなだけの臆病者に過ぎなかった。

「――あ、あがっ、あひっ……」

 男の泡だらけの口から延々と恐怖と苦痛の声が漏れる中、ラキルが解剖中のルベックに歩み寄っていく。

「見ろよラキル。こいつ中々気絶しないし耐久力あってマジおもしれー」

「あははっ。それにしてもさすがだね、ルベック。オモチャの扱いが抜群に上手い」

「へっ。ラキルもなあ」

「ところで、鼠がいるのは知ってる?」

「……鼠?」

「ほら、カルバネっていう男のパーティー」

「あー。そんなのもいたな。どうする? 殺すか?」

「いや、面倒なだけだしやめとこうよ。そんなことより面白いことがわかったんだ」

「へ?」

「あいつらの中に……いるっぽいんだよ。例のが……」

「ま、まさか……」

 ルベックが血まみれの手を止める。

「そのまさかだよ。すぐに気配を隠しちゃったから誰かまでは判別できなかったけど、なんとなくわかるんだ。同類ってやつは……」

「さすがだなあ」

「ふふっ」

「……はっ、はやぐ……ごろじでえぇ……ひぐぅ……ごえぇっ……」

 気絶することなく泣き喚く《屈強》な男を見ながらラキルが薄く笑う。その傍らにあるベンチではグレスとカチュアがひたすらお互いの体を求め合っており、オランドがその様子を近くの枯れた庭木の陰から恍惚とした顔で覗いていた。
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