116 / 130
116.真剣な遊び
しおりを挟む「スピカ、俺が行くぞって言ったら、そっちに設置したワープゾーンから俺の投げた短剣が飛んでくる予定だから気を付けてくれ。ボスに当てるつもりだ」
「はぁい、セクトさんっ。ふんふんふーん♪」
「……」
スピカ、まだまだ大丈夫そうだな。というかもう何か、大ボスとダンスでも楽しんでいるかのような軽やかなステップだ。
俺は一旦、《ワープ》でバニルたちの元へ戻ると、まもなく短剣を投げる動作に入った。みんな周りで興味深そうに俺を見ているのが気配察知能力で読み取れる。
少し経って《ワープ》が二つとも消えたので、再びスピカのほうとこっちに新しいワープゾーンを用意した。あっちこっちに動き回ってるボスに当てなきゃいけないわけで、投げるタイミングが重要だから慎重に動きを見極めないといけない。俺の予想が確かなら《反発》の影響は受けないはずだ。
……よし、ファーストガーディアンが向こうに置いた《ワープ》の延長線上に入ろうとしている。スピカが上手く誘導してくれたみたいだ。
――今だ。
「スピカ、行くぞ!」
「はーい!」
短剣がフッと近くの《ワープ》に吸い込まれるようにして消えて向こうの《ワープ》に移動し、ボスのほうへと飛んでいく。もうそのときにはスピカが察して離れてくれていた。
……おおっ、ボスの大腿部分に命中して血が飛び散ったが、俺はなんともなかった。よーし、やっぱり予想が的中したな。俺の攻撃ではなく、あくまでも《ワープ》からの攻撃とみなされて《反発》の影響を受けなかったんだ。やつの攻撃に呼応したカウンターアタックが《反発》のダメージを相殺できるのも、あくまでもボス自身の攻撃、すなわち自傷だと判断されるからなんだろう。
これを活用していけば、思ったより早く倒せそうだ……って、その前にやることがあった。この手を応用していけば、『ウェイカーズ』だってオモチャ扱いできるはずなんだ。俄然、体中が熱くなってくる。やはりボスの攻略がやつらへの復讐の近道だった。
俺は二つの《ワープ》同士を行き来してその思いをより強くした。一度に二つしか出せないというデメリットはあるが、さらにワープを設置したい場合どちらかを《幻草》とか《幻花》に切り替えれば済むことだ。この方法ならワープゾーンをぱっぱと出せる上、周辺であればどこでも自由に瞬間移動することが可能になる。慣れれば回避の極みになるな。墓場の周りは雑草だらけだしまったく目立たないのもいい。まさか、こんなFランクスキルが役立つときが来ようとは。それも、『ウェイカーズ』への復讐という一大イベントに……。
「セクト、どうしたの?」
「どうしちゃったのよ、セクト!」
「どうしたのお? セクトお兄ちゃん……」
「……」
気付けば俺はバニルたちに囲まれていた。どうやら一人で興奮しすぎていたらしい。そうだ、彼女たちに練習相手になってもらうか。『ウェイカーズ』がまた来るまでに、この《ワープ》戦法を完璧に習得しておきたい。
「みんな、今からゾンビごっこをやろう。俺が人間役になるから捕まえてみてくれ」
「「「ええっ?」」」
バニルたちに唖然とした顔を向けられる。そりゃそうか。ゾンビごっこというのは一人だけ人間の役になり、あとはゾンビの役になって人間を追いかけ回し、最初に触れた者が今度は人間役になる、そんな子供の頃によくやっていた遊びだ。
「セ、セクト……こんなときにゾンビごっこはちょっと……」
「どうしちゃったのよセクト……。スピカが戦ってるときに遊んでる場合じゃないでしょ! ミルウじゃないんだから!」
「あふう。ミルウ、ゾンビごっこしたいかも……」
ミルウは満更でもなさそうだが、バニルとルシアの反応は当然といえば当然だろう。
「これで『ウェイカーズ』を倒せる方法が見つかりそうなんだ。騙されたと思って協力してほしい」
「う、うん……」
「そういうことなら早く言いなさいよ! 絶対捕まえてやるんだからっ!」
「わーいわーい! ゾンビごっこー! グフフッ……」
「……」
みんな気合充分だな。相手として不足はない。
「てかミルウ、足は大丈夫なのか?」
「ちょっと痛いけどお、ゾンビごっこくらいならへーきへーきだもん!」
「そーかそーか。ルシアも体調は問題なさそうか?」
「もう平気よ。あたし、もうちょっと休んだらスピカを手伝おうって思ってたくらいだし……」
「そりゃ心強い。バニルは?」
「ゾンビごっこなら大丈夫。体に力はあんまり入らないけど、手を伸ばして触れるだけだしね」
「それで充分だ。ありがとう、みんな」
多分、ここまで真剣なゾンビごっこはこれから先、二度とやらないだろう……。
23
あなたにおすすめの小説
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる