120 / 130
120.不謹慎の極み
しおりを挟む「……」
ここは本当に墓地なのか? そう疑いたくなるほど、暗くなってきた周囲に笑い声がこだましていた。
どうやら俺の一言がきっかけになったらしい。俺がここに来たのは、お前たちを殺すためだと正直に包み隠すことなく言ったんだけどなあ。何がそんなにおかしかったのやら……。
「しっ、死ぬっ……。腹いでえぇ……」
ルベック、地面を転がりながら大袈裟に笑っていたが、ようやく落ち着いてきたらしい。
「……ぼ、僕も……死ぬかと……」
腹を抱えて座り込みつつ笑っていたラキルがようやく起き上がる。こんなところで死なれちゃったら困るんだよなあ。
「……ク、クククッ。こんのウスノロめっ……きゃ、きゃわいいっ。きゃわいいよっ。はぁ、はぁぁっ……」
「……」
オランドがウィンクしてきて全身がゾワッとなった。一体どうしちゃったんだ、いくらなんでも気持ち悪すぎる。まさか、本当に狂ってしまったんだろうか? それでも殺すけどな。
「きゃははっ……もーダメ、ひー、苦しー……」
涙目でゲラゲラ笑いつつ、四つん這いになって地面を叩いていたカチュア。ようやくそれも落ち着いてきたらしく、立ち上がって俺を思いっ切り睨みつけてきたあと、よく見ないとわからない程度に薄く笑った。
「殺せたらいいでちゅねー。期待してまちゅよー? 弱虫で無能でノロマでおまけに気持ちの悪いゴミムシさんに、それができればの話ですけどっ」
ありがとう。俺のこと心からバカにしてくれて本当にありがとう。これで一切心置きなく苦しめて殺すことができる。初恋の女性……いや、畜生カチュア……。
「ひひっ……中々面白かったぞぉ、ゴミセクトおぉ……」
グレスはさすがというか、ニヤニヤと笑う程度だった。陰気すぎて笑いのほうが逃げ出すレベルだろうからな。
「さて、誰から死にたい?」
俺の言葉でまた火がついたのか、グレスを除いてまたしても不謹慎な笑い声が墓場に降り注いだ。
「……ひ、ひー……か、帰ってきたな、ラキル……くー……」
「ぷくく……だ、だねっ。僕たちのオモチャが、ついに……あははっ!」
「いいぞ、ウスノロ、その調子だ……しゅき、だいしゅきっ……プククッ……」
「はぁ、はぁ……もーダメッ。やめてくださ……きゃははっ!」
「ひひっ……ゴミセクトぉ、お前がナンバーワンだあぁぁ……」
やっぱりグレスだけは笑いに強くて、すぐ元の陰気な男に戻った。それにしても、最初は正直むかついていたが、今ではみんなの笑い声やバカにした視線が本当に心地よい。
別に俺が変態だからってわけじゃなくて、怒りを通り越して血や肉の中にすーっと入ってくる感覚があるんだ。それが得体の知れない力を生み出して、酒に酔うようななんとも言えない夢見心地になる感じだ。早速頭がぼーっとしてきた……。
「おい、見ろよこいつ。顔赤くなってるぜ。少し寝ぼけてんじゃねえの?」
「……だねぇ。白昼夢みたいな感じで、幻でも見ちゃってたのかも。それか、恐怖のあまり頭がおかしくなったとか……」
「ククッ……ありうる……。俺の……俺だけの可愛いセクト……はぁ、はぁ……」
「ホント気持ち悪いですよね、このセクトとかいう残念な人。変な妄想とか、勝手にするのは仕方ないにしても、外にばら撒かないでもらえます?」
「ひひっ……惨めだなぁ、哀れだなぁ、ゴミセクトぉ……。カチュアぁ、おいでえぇ。俺たちの仲の良さをこいつに見せつけてやろうぅぅ……」
「はいっ」
「「……ちゅー……」」
「……」
一瞬、視界の何もかもが真っ暗だった。
きっと頭に血が上りすぎて意識が少し途切れていたんだろう。凄まじいまでの怒りがいつの間にか体中に循環した結果、強力なパワーを生み出すとともに焦げという不純物も生じたようなものか。それでも、不思議と嫌な気持ちはなかった。全身で怒っているのに、呼吸も心も妙に落ち着いていた。暗くて静かで、それでいてとても熱い……。
「……お、おいこいつ、目がイッてね……? まさか、狂戦士症なのか……?」
「いや、違うと思うよ。頭が本当に変になったのかな?」
「……こ、こわれにゃいで、俺だけのセクト……」
「……キモ。もしかしたら、あれじゃないです? キチガイの振りをして逃れようとか……」
「ひひっ、それはありえるうぅ――」
「――もう、終わりだ。お前たちは……」
俺は、復讐の準備が全て整ったのだと確信していた。
23
あなたにおすすめの小説
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる