幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

文字の大きさ
6 / 60

第六話 慟哭の時

しおりを挟む

「ういー……酒はうめーなあ、ひっく……」

 傷心を抱えて故郷に戻ってきた俺が、かつて勇者パーティーの一人であるハワードだと気付くやつは誰一人いなかった。

 まあ当然だろう。今の俺は酷くやつれてしまってる上、知り合いに気付かれたくないってことで小汚いフードも被ってるんだから。

 すっかり変わり果てた俺を優しく迎えてくれたのは、このグラスになみなみと注がれた酒だけだった。

「もっと……もっとだ……もっとくれえぇっ……!」

 乾ききった心を潤してくれるやつなんてこの世には存在しない。どうして、どうしてどいつもこいつも俺を裏切るんだよ。クソッタレ……俺が、俺が一体何をしたっていうんだ……。

「旦那、もうそろそろやめときな。それ以上飲んだら死んじまうぜ」

 酒場の店主に諫められる。

「……俺の金だ。何にどう使おうと俺の勝手だろう……!」

「そうは言うが、死んじまったら旦那の大好きな酒も飲めなくなっちまうし、元も子もねえぜ……?」

「……うえっぷ……いいんだよ……。死んだら死んだでかまやしねえ……ひっく、俺にはもう、失うものなんて何一つありゃしないんだからよ……」

 きっと……俺がバカだったんだ。思えばずっと、いつか報われると信じて馬鹿正直に生きてきた。それでも全て上手くいくと信じていたが、結局何もかも失っちまった……。

「いや、失うものがないというが、旦那の目にはがある。色んな客と接してきたあっしだからこそわかるんだ。旦那はこんなところにいちゃいけない人だって――」

「――うるせえぇっ! お前に何がわかるかってんだあぁっ!」

 俺は空き瓶を投げ落として木っ端微塵にしてやると、青ざめる店主に向かって硬貨を投げるとともに酒場を飛び出した。

「……うごっ……おげえぇぇぇっ……!」

 路地裏で吐くだけ吐いた俺は、落書きグラフィティにまみれた壁を背にして座り込んだ。

 ……もう朝になっていたのか。俺は昨晩からずっと飲んでいたってわけだな……。

「……くっ……」

 明るく照らしつけてくれる空さえも恨めしく感じて、俺は自分が汚れてしまったと痛感して項垂れた。

 冷静になって考えてみると、酒場の店主の言ってたことは間違ってない。俺はまだあきらめきれてないんだ。そういう性格だから……それで死ねないんだ。

 それなら……俺は愛用のハンマーを振り上げた。未だに踏ん切りがつかずに自決できずにいるのは、きっとこの右手が悪いんだ。

 かつて神の手とまで呼ばれた、今じゃポンコツの右腕が。これさえ完全に潰せば、俺は人生にあきらめをつけられる。本当に終わらせることができるんだ……。

「……」

 左手で持ったハンマーを振り上げる。こんなものがあるから、中途半端に希望なんてあるから……俺はここまで苦しんできた。今こそそれに別れを告げるときだ――

「――なっ……?」

 信じられないことに、一目で明らかにわかるほどガタガタと震えていた。俺の右腕が。どんなに高価なものを精錬するときも、どんな痛みや屈辱を抱えてもここまで震えることのなかった右腕が、まるで慟哭しているかのように。

「……ぐ、ぐぬうぅぅ……」

 ポトポトと熱い雫が垂れ落ちる。相棒との思い出が鮮やかに蘇ってきて、俺は涙が止まらなくなっていた。すまない……こんなにも俺のために頑張ってきたお前を傷つけようだなんて、悪い俺を許してくれ……。

 そうだ、あきらめるわけにはいかねえ。俺の相棒よ、お前をいつか必ず取り戻してやる。そして、俺たちを見限った勇者パーティーに死ぬほど後悔させてやるんだ――

「――きゃあああああぁぁぁっ!」

「……っ!?」

 そのときだった。酔いも吹き飛ぶほどの悲鳴がして、立ち上がるとこっちに逃げ込もうとしてきた女性が転び、そのまま後ろから来た灰色のオーラを纏う何者かに吸い込まれるようにして消えたのだ。

 あ、あれは……間違いない。だ。迷宮術士によって心にダンジョンを植え付けられた者が、人々を内なる迷宮へと誘っているのだ。しかもダンジョンを作られた者は無敵化するため、中に入って攻略するしか倒す術はない。

 心敷にあのダンジョンの難易度を置いてみると、『+107』と出た。さすがは迷宮術士が作った異次元ダンジョン。『-10』から『+10』までしかないこの世の難易度の範囲はもちろん、俺がそれまで攻略してきたダンジョンの数値を遥かに超えるものだ。ここに閉じ込められたら、ほぼ命を失うといっても過言ではないだろう。

「逃げろおぉぉっ!」

「ダンジョンが来るぞおおぉぉっ!」

「いやあああああぁぁぁっ!」

「……」

 あちらこちらから叫び声や悲鳴がこだます中、俺はその場に立ち尽くしていた。逃げなくてはいけないというのに、何故だ……? そういえば、伝説の鍛冶師である俺のじっちゃんが生前よく言ってたことを思い出していた。

 ピンチのときこそ逃げずにピンチへ飛び込め、挑戦せよ、と。そこを乗り越えられた者だけが本当の高みへと到達できるだろう、と……。もしや、今がそのときなのか? 俺は不思議と、全身の血が滾るかのように熱くなっていた……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...