幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

文字の大きさ
5 / 60

第五話 冷酷な瞳

しおりを挟む

「何々……フェリオス=エルド宛の手紙はここでいいのか……」

 赤い郵便ポストに左手で手紙を投函する。この家はなんともわかりにくい場所にあって探すのに苦労した。

 あれから独りぼっちになった俺が、安いアパートのある郊外へと引っ越して日雇いの仕事をする中、対照的に勇者ランデルは大活躍し、富と名声を我が物にしていった。

「ねえ、聞いた? 勇者様がまたダンジョンから人々を救い出したんですって!」

「聞いたわっ、ほんっと、ランデル様って素敵よねえ」

「「キャッキャッ!」」

「……」

 こうして人のいない早朝に仕事をしていても、狙いを定めたかのようにやつの噂が耳に入ってくる。その一方で俺についての話題はまったく聞かなくなった。まるで人々の心から完全に消え失せてしまったかのように……。

 でも、もうそのほうがいいかもしれない。俺の神の手と呼ばれた右腕は、今や痛みこそマシになったが普通の精錬さえろくにできなくなってしまった。このままひっそりと表舞台から消えていったほうが、俺としては幸せなんじゃないか……? いや、そんなのダメだ。いくらなんでも惨めすぎる。

 俺はいつか神の手を復活させて勇者パーティーに復帰してやるんだ。そしたら、ルシェラだって振り向いてくれるかもしれない――

「――おっ、ハワードじゃないか!」

「っ!?」

 この声、まさか……。恐る恐る振り返ると、そこには勇者パーティーの面々があった。

「ラ、ランデル、ルシェラ、グレック、エルレ……」

 俺は咄嗟に手を上げて挨拶したが、誰一人応じてはくれなかった。というか、みんなの視線が異様に冷たい感じがする。

「いやー、探したよ、ハワード! みんな君を心配してたんだよ……!?」

「……あ、ありがとう……」

 お礼を言いつつも俺は複雑だった。心配……? どういう風の吹き回しなんだ、俺の惨めな姿を笑うためにきたのか。

「お礼なんかいいって! 君と僕の仲じゃないかっ!」

「……」

 笑顔でバシバシと肩をしつこく叩かれ、俺はさすがに我慢できずにやつを睨みつけた。

「あっ……ごめーん、怒ったあ? ごめんねえ?」

「……もう、いいだろう。ランデル……お前に少しでも情というものがあるなら、これ以上傷口に塩を塗り込むような真似はやめてくれないか……」

「あーあ、自分がやられる番になったらこれなんだからねえ」

「何……?」

「おお、こわっ……てか、僕とやる気? やってもいいけどー、その神の手は大丈夫なのかなあ?」

「くっ……」

「あははっ、冗談冗談っ。本気にしちゃった? いくら僕でもお、こんな芋虫を相手にするほど落ちぶれちゃいないよっ」

「ランデル……それを大声で言ったらどうだ」

「あれっ、まだ怒ってる? 弱っちいくせに相変わらずプライドだけは高いんだねー」

 気が遠くなりそうなほどの怒りを感じたが、堪える。

「ル、ルシェラは……お前のその糞みたいな人間性も知ってるのか……?」

「ん? なんか勘違いしてない?」

「……何?」

「そんなに睨まないのっ。いい加減怒るよ? それともやっぱりやり合う気?」

「い、いや……」

「ふふっ、だよねー。話の続きだけど、僕が君に崖の上で助けられたことがあったでしょ? ほら、『別れの峠』! あれが転機でー、酷く傷ついたルシェラを必死に説得したよ、毎日毎日。君のようにケチなやり方じゃなく、貢ぎ物を惜しまず彼女にプレゼントしたんだあ。かなりの出費だったけどっ……」

「ル、ルシェラはそんな子じゃ――」

「――ぶっちゃけ、ハワードって最高に頭悪いよね。ザ・低能ってやつ……?」

「……」

「目で見えないものを、女の子は評価なんてしないんだよ? それこそあの変人の女王様くらいでさあ、99%、女の子は目に見えるものだけを評価するんだ。勉強になりまちたか? 世間知らずのハワードちゃんっ」

「……ラ、ランデル……」

「う、うわあぁっ、怖いいぃっ! みんなー、ハワードが僕をいじめるよおおぉっ!」

「……なっ……」

 おどけたように舌を出すランデルを守るようにルシェラたちが俺の前に立った。

「ハワード……言っとくけど、ランデルを傷つけたら私が絶対に許さないから……」

「ル、ルシェラ……」

 嫌だ、聞きたくない。お前の口からそんな言葉が出るなんて……どうして……。

「おい、気安くルシェラさんの名前を呼ぶなよ、ハワード」

「……グ、グレック、お前……」

「だから気安く呼ぶんじゃねーよ。お前はもう勇者パーティーの一人じゃないんだからよ」

「……え?」

 俺はグレックの言ってることがよくわからなかった。

「え、じゃないよー。ハワードって人、まさかまだ自分が勇者パーティーの一人だって思ってたあ?」

「エ……エルレ……お前、まで……」

「きゃー! こわーい! 変なのに睨まれちゃったー!」

「エルレ、大丈夫だよ。僕が守ってあげるからっ。よちよち……」

「わーい、ランデルお兄様大好きっ!」

「……ぐ、ぐぐっ……」

 悪夢であってほしかったが、右腕があの日を思い出したかのように痛むことが紛れもなく現実であることを訴えていた。まもなく、エルレの頭を得意そうに撫でていた勇者ランデルが俺を睨みつけてくる。

「おい、ハワード……お前は勇者パーティーから追放だ。僕はみんなと一緒にそれを伝えにきたんだ。忘れた頃にいきなり君みたいなしょうもないやつに関係者面されたらこっちが恥かくからさ。んじゃ、さよならー」

「……」

 ランデルたちが笑い声を上げながら楽しそうに立ち去る中、俺はがっくりとその場に膝を落とすことしかできなかった……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...